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4. ポルターガイストって普通の事でしたっけ?
ポルターガイストって普通の事でしたっけ? ②
しおりを挟む隼人はこのわずかな時間で、すっかり幽さんに懐いてしまった。幽さんもそんな隼人が可愛いのか、笑顔を絶やさない。
沙和はベッドの上で膝を抱え、そこに頬杖をついて幽さんを眺めた。
年下の扱いに慣れた幽さんを見ていて、もしかしたら弟か妹がいたのかも知れないと、沙和はふと思う。
だとしたら、きっと面倒見のいいお兄ちゃんだったのだろう。
沙和のことも何だかんだと甲斐甲斐しく世話を焼きたがり、偶にイラっとするけど、概ね良いお兄ちゃんだ。
男二人の会話に花が咲いている。
(なんか、こんな雰囲気久し振りかも)
心がほっこりしてきて、知らず口元が綻ぶ。
第三者が介入してきて、幽さんが穏やかな顔をしているのを初めて見た。
なにしろ医師に対しても険しい顔をするのだから、美鈴や篤志が相手では言わずもがな。二人が来るとどうしても空気が刺々しくなる。三人とも牽制しあうから、沙和はいつも冷や冷やものだ。
美鈴の事を厭うのは、仕方がないと諦めている。実際には無理でも、あわよくば除霊する機会を虎視眈々と狙われているのだから、無理もない。
問題なのは男二人。お互いが明確な理由もなしに、いがみ合っているから困る。虫が好かないとか、生理的嫌悪は本人にだってどうにも出来ないのに、沙和がどうこう出来る訳がない。
漏れそうになった溜息を飲み込み、沙和は幽さんと隼人を眺める。
こうして見ていると、微笑ましくて本当に兄弟のようだ。
(早く、記憶を取り戻させてあげたいなぁ)
幽さんにだって、忘れたくなかった思い出があるはずだから。
それには先ず、退院することが先決だけど。
(もっと体力つけなきゃね)
すっかり鈍らになってしまった筋力を取り戻さない事には、出歩くことも容易ではないのだ。最初のうちは、ナースステーションに行くだけでも息切れしたくらいだから、どれだけだよって話である。
まあ徐々にではあるけれど、行動範囲が広がって、昨日辺りから地下の売店まで行けるようになった。
ひたすら歩き、リハビリルームで筋力アップを図るのみ。
―――道のりは遠い。
沙和がうんざりとした溜息を吐こうかという時、部屋の向こうが俄かに騒がしくなった。
パタパタと足音だろう。
看護師が注意する声が聞こえ、またすぐにパタパタと近付いて来て、
「ごっめーん沙和ぁ。隼人ぉ」
賑やかに登場した人物の声に、三人が反射で振り返った。
ピシッ
(ん? ピシッ?)
何の音だと辺りを見回す。隼人も不思議そうにきょろきょろしていて、二人はピタッと目を止めた。
幽さんの周りで異空間が発生しているような、不気味なオーラ。
棚のスライド式の簡易テーブル上で物がカタカタと音を立て、小刻みに揺れている気がするのは、本当に気がするだけだろうか?
沙和と隼人は思わず固唾を飲み、幽さんに見入った。
(え……なに? どうしたの幽さん!?)
彼の突然の豹変に動揺し、オロオロする沙和を一蹴するようにそれは起った。
「高校の時の先輩に会っちゃって、つい長話になっちゃった」
奈々美が申し訳なさそうにそう言って、「これお母さんから」とショッパーを持った手をひょいと上げたのと、沙和の鼻先を掠めて何かが飛んで行ったのは、ほぼ同時の事だった。
危ないという間もなかった。
奈々美に向かって飛んで行った物が当たる!―――そう思ったのに、なんの偶然なのか、ショッパーの底が抜けて中の物が転がり落ちた。
「きゃ――――っ!? やだ何でっ!?」
慌ててしゃがんだ奈々美の上を飛んで行った物が、かつんと音を立ててドアにぶつかり床に転がった。目を走らせれば、出しっぱなしにしていたボールペン。
『…チッ』
舌打ちが聞こえ、隼人と目が合った。どちらも自分じゃないと首を振り、そろそろと幽さんを見る。
『しくじったか』
『って、なにぃぃぃぃぃ?』
沙和の問いを無視し、第二第三の得物がブワッと勢いよく宙に浮いた。
沙和と隼人が途端に青褪め、浮き上がった物たちの上に覆い被さり、抱え込んだ。
「沙和お姉ちゃんっ。一体どーなってるの!?」
「あたしに訊かないでぇ」
「だってお姉ちゃんの管轄っ」
「急に難しい言葉使うようになったわね」
「今そんな事どーだっていいでしょッ。お兄ちゃんを止めてよッ!」
隼人が喚くのも無理ない。
次から次へと物が浮き上がり、二人で片っ端から取っ捉まえている状態なのだ。
「ホントにもお。割れなくてよか……何やってるの二人とも」
落ちた物を拾い、立ち上がった奈々美が眉宇を顰めた。
奈々美じゃなくてもきっと眉を寄せる。
沙和はベッドの上で浮き上がる上掛けを踏みつけながら宙を舞う枕を掴み、隼人は目覚まし時計を捉まえ、次の標的のペットボトルを捉えんと、椅子の上から飛び上がった所だった。
「二人とも。病室で騒いじゃダメでしょ?」
先刻、廊下を走って看護師に注意されていた人に言われたくない、と二人は奈々美を見る。その間にも吊り棚の戸が開いて、中から飛び出したタオルやら洗面道具だなんだかんだが、奈々美に飛び掛かろうとしている。
なのに肝心の奈々美は溜息を吐き、棚の簡易冷蔵庫前にしゃがんで、「お煮しめちょっと崩れちゃった。ごめんね」とタッパーを仕舞っている暢気さだ。
「「このおかしな状況に気付いてよっ!」」
鈍感な奈々美に思わず叫んでしまったのは、しようがないと思う下二人なのであった。
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