ずっと一緒だよ。~突然過保護なイケメン幽霊に憑かれたら・・・!?

優奎 日伽 (うけい にちか)

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9. ずっと一緒だよ。

ずっと一緒だよ。⑤

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 ***


 小出の父から一周忌法要の案内状が届いて、沙和は肩越しからソレを覗き込んでいた椥の顔をじっと見てしまったのは、師走になって間もなくの頃。
 母に案内状を渡されて、出欠をどうするか確認された。

(もう、一年経つんだ)

 兄の死んだ日が、沙和の新しい命の始まった日でもある。
 しかもその兄が心臓に漏れなく着いて来て、沙和に取り憑いていた日でもあるから、何とも言いようのない気分だ。

 沙和はリビングのソファに寝転がると、案内状を上に翳すように眺めていた。
 故人を偲ぶ日だけれど、その故人が隣に居て、死んでいるけどとっても元気だと、偲ぶに偲べない場合はどうしたものか。
 小出の父もそんな事など想定していないだろうし―――と言うか、息子が娘に取り憑くなんて想定していたら怖い。

「お兄ちゃんここに居るのに変な感じだね?」

 ふわふわ空中に寝そべって、真上から沙和を見下ろしている椥に目を遣る。

『確かに。自分の法要を見るってのも妙な話だよな。けどそれとは別に、親父も沙和に会いたいと思うぞ? 一年経って元気になった姿、見せてやってよ』
「そうだね―――あ、お母さん。あたしも出席する」

 洗濯物を取り込んでリビングに戻って来た母にそう告げると、母は微妙な顔で微笑んで、小さく頷いた。

   

 年が明けた第二日曜日に、椥の一周忌法要が行われた。
 法要が終わった葬祭会館で食事会をしていると、挨拶回りを終えた小出の父が沙和の元にやって来た。

「すっかり元気になったようで、安心したよ」

 十数年ぶりに会った父は、記憶の中の父よりも大分老けたようだ。
 間もなく結婚すると思っていた息子が急逝したのだから、それもそうかと思い直す。そしてその息子は婚約者の前を陣取り、ずっと飽きもせず顔を見ている。

(お兄ちゃん。碧さんを愛でるのに異論はないんだけどね、テーブルから生えるのは止めよ?)

 椥の友人たちの席と思われるテーブルから、目の前の父に目線を戻して微笑んだ。笑みがつい微妙なものになる。

「お兄ちゃんの心臓と、相性がいいみたい。術後も全然問題なかったし」
「それは何よりだ。……沙和まで失うことにならなくて、本当に良かった」

 小出の父が目頭を押さえて涙を堪えると、沙和の目まで熱くなる。
 父は沙和の隣に座る母を見、

「ここに椅子を持って来ても良いかな?」
「……どうぞ」

 母は逡巡してから短く答えた。小出の父は了承を得ると直ぐに空いている席から椅子を持って来て、沙和の右斜め後ろに腰掛ける。沙和は空いているグラスを父に渡し、ビールを注いだ。
 有難うと微笑む父の顔が、少しばかり寂しそうに見えたのは、気のせいだろうか。
 ビールをチビチビと飲む父が、祭壇の遺影に目を遣って「あの日…」と苦し気に目を細めた。



「椥が救急搬送された時、私はロスに居てね。夜中で、ホテルの部屋で寝ていたんだ」

 小出の父は沙和が物心つく前から、長期出張で海外に行っている事が多かった。だから離婚の理由もその所為なのではないかと、大人になった今なら思う。
 そして息子の危機にも駆けつけられなかった父の悲しみや後悔が、ひしひしと伝わって来た。

 辛いときに傍に居てあげられなくてごめんねと思うのに、言葉にならないまま父の手に沙和は手を重ねる。その上に父の手が重なり、ポンポンと優しく叩き、彼女の小さな手を包み込む。

「夢に、椥が出て来てね。悲しそうな顔して『親不孝でごめん』って言うんだ。だから私は『そんな事はない。椥が息子で幸せだよ』って答えた。すると彼は大きく首を振ったんだ。そして『時間がないんだ。お願いだから沙和を助けてやって』ってそれはもう必死な顔をして訴えて来てね。普段から私にあまり頼ることがないのに、珍しいこともあるもんだ。そう思っていたら、電話で目が覚めた。見知らぬ番号から掛かって来て、胸騒ぎを覚えた」

 グラスのビールを半分ほど空け、父は小さく溜息を吐く。徐に視線を持ち上げ、沙和の目を覗き込んでくる。

「搬送された時にはもう、脳死状態だったらしい。大急ぎで帰国する飛行機の中で、ああ。椥が言っていた事はこの事だったのかと思ったよ。沙和がドナー待ちで、あまり時間が残されていない事は聞いていたからね。死ぬ間際まで沙和の事を心配して、椥は最後まで椥だった。そんな彼の心臓だからね。沙和を死なすはずがない」

 だろ? と沙和の目を覗き込んで、ちょっと悪戯っぽく笑みを浮かべる。

「沙和が生まれてから “お兄ちゃん” に目覚めて、お漏らししなくなったんだから、凄いよね」
「ぶはっ」

 乙女にあるまじき笑いを漏らすと、眉を顰めた母に背中を叩かれ、父は苦笑してる。  
 これを皮切りに男二人の暮らしを語り出した父に、沙和は腹の皮が捩れるほど笑わされることになった。

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