【R18】うん。ちょっと落ちつこっか?

優奎 日伽 (うけい にちか)

文字の大きさ
3 / 115
2. 梓、過保護な兄たちに宣戦布告する

梓、過保護な兄たちに宣戦布告する ②

しおりを挟む
 

 静かに朝食の時間が流れていた。
 梓は二人の顔色をチラチラと窺いながら、然も今思い出したとばかりに口を開く。

「今日郁ちゃんたちと女子会だから、ちょっと遅くなるね」

 決して二人にはバレてはいけない。
 マーガリンを塗ったトーストをサクサク音を立てて咀嚼しながら、個別分けのシーザーサラダを口に運ぶ。
 平然を装いながら、バクバクする心臓の音が、隣に座る耳聡い怜にバレるのではないかと、内心冷や汗ものだ。

「郁美と誰?」

 翔の目が探るように梓を見ている。

香子かおるこだよ」

 近藤香子は梓や郁美の高校からの友人だが、“かおるこ” なんて素晴らしい名前を両親から頂いておきながら、BLをこよなく愛する隠れ腐女子である。
 彼女が腐女子ゆえに、友人関係が否応なく発生したのは、高校一年の学祭に翔と怜が見に来た日まで遡る。その日に彼女にロックオンされ、今ではしっかり友人の座に腰を落ち着けていた。

(まあ腐女子と言うこと以外は、友達思いのいい子だしね)

 因みに翔たちがホンモノだと香子は知らない。教えたら大石家に住み着きかねないので、絶対に内緒でと郁美に言ってある。

「ふ~ん。また代わり映えしない面子だな」

 目がじっと梓を捉えている。
 梓が遅くなると言った時は決まって、嘘がないか一挙手一投足を舐め回すように窺ってくるのは、最早今更だ。

「面子に代わり映え有ったら煩いくせに」

 ボソリとした呟きが怜に聞こえたらしい。繊細な指をした大きな手が、梓の頭頂に包むように置かれた。

「女の子だけなら、幾らでも代わり映えしたっていいんだよ? 女の子ならね」
「そこで念押しするの止めて」

 にっこり笑う女神さまは、目が笑っていない。
 心なしか頭を掴んでいる指に力が入っているような気がするのは、本当に気がするだけだろうか?

「アズちゃんは聞き分けの良い子だから、翔が心配するようなことはしないよね?」
「……も、もちろんだよ。怜くん」
「そう。良かった」

 吃ってしまったのにも拘わらず、やんわり微笑んだ怜と目が合った瞬間、ヴィーナスがメデューサになった。

(……ひ~~~ッ!)

 心臓が石化して、停止するんではないかと本気で思った。
 ゼンマイの切れかかったからくり人形のように、カクカクと首を回しながら翔を見ると、テーブルに頬杖を付いて胡乱な眼差しでこっちを見ている。
 虎と狼の挟み撃ちに、喉がゴキュッと鳴った。

 絶対に何か勘付かれている。
 ここであからさまに翔から目を逸らしたら、この二人は今日の外出予定を全てキャンセルし、就業後梓に有無を言わせず強制送還するだろう。
 明るい未来のために、それだけは何としても避けなければならない。

(お…落ち着けあたし。冷静に冷静に)

 手が震えそうなのを根性で押し隠し、カフェオレが入ったマグカップに手を伸ばした。
 翔ににっこりと笑い掛けると、兄も笑い返してくれる。当然、目の奥では笑っていないのに気付いたが、素知らぬふりしてカフェオレを口に含む。

(この化かし合い、あと何年続くんだろう……?)

 最早今日の合コンに、梓は一抹の不安しかなかった。


 ***


 オフィスビルの八階フロアをAZデザイン事務所で占有した中の一室。
 梓は出社早々、今日の行動予定が書かれたホワイトボードを見て、思い切り渋い顔になった。
 兄たちは当然のことながら、厄介な人物がもう一人、このAZデザイン事務所の営業に在籍している。
 加藤剛志つよしが、今日に限って内勤とはとことこん付いていない。
 同じ島の少し離れた席で、電話応対している彼をこっそり睨み付ける。

 彼とは郁美と同様、小学一年からの付き合いで、しかも同じ空手道場に通ったライバルでもあった。まあそれだけなら問題はないのだが、彼は翔と怜を心酔し、二人に言い付けられたことは必ずやり遂げる、梓にとっては目の上のタン瘤、邪魔者である。
 剛志は小学生の頃からのお目付け役で、唯一、梓に堂々と近付ける二人に認められた存在だ。

(いくらお兄ちゃんたちを崇め奉ってるって言っても、人生の殆どの選択をうちの兄任せって、男としてどうかと思うわ)

 AZデザイン事務所には完全コネ入社だ。というか、二人が引っ張り込んだ。
 そういう意味では梓とそう変わらないが、彼女の場合は剛志と少々異なる。高校からここでバイトをしているから、入社時にはそれなりの仕事を任されていた。

 翔と怜の内勤秘書兼事務が梓の仕事だ。
 専任の秘書がいないのは、二人のスペックに惑わされ、公私混同する人が相次いだせいで、最終的に免疫のある梓が妥当と落ち着いた。

(女を武器に言い寄られても、二人にはいい迷惑だもんね)

 二人とも今日は午後から打ち合わせで外出とあり、戻りの予定は終業前になっている。
 今のところ、兄たちの予定変更はなさそうだった。

(もお、今日はこのまま直帰してくれないかなぁ)

 剛志を捲く算段するだけで疲弊するのに、終業前に戻って来られたら動向を探られそうで怖い。
 翔と怜に届いた封書や書類等を睨み据えながら仕訳し、心の中で『直帰しろぉ』と何度も念を送っていると、隣の机から「怖い顔してるわね」と苦笑混じりの声がした。思わずビクリと肩を揺らすと、伸びてきた手が梓の背中をトントンしてくれる。

「由美さん」
「また怨念込めてたわね」

 仕分けた物にチラリと目を遣り、口元にニヤニヤと笑みを浮かべている。

「怨は込めてないですよ? ただ直帰してくれないかなぁとは思ってた」
「……成程ね」

 くすくす笑う彼女はそれで得心したらしい。
 彼女、鈴木由美はAZデザイン事務所で事務員として、設立当時から働いてくれている人で、翔と怜の高校時代からの数少ない女性の友人だ。そして梓の良き相談相手でもある。
 両親を亡くしたばかりの梓の面倒を、甲斐甲斐しく見てくれた姉のような存在で、翔と怜の関係を知っている数少ない理解者でもある。

「本当にあの二人にも困ったものよね。いい加減、妹離れ出来ないもんかしら?」
「言って聞くなら今あたし苦労してないし。直帰しろ~」

 封書の上に手を翳してダメ押しの念を送ってると、由美は剛志にチラッと目を走らせ、梓に見入って来た。視線に気付いて彼女の方を振り向くと、由美は身体で隠しながらこっそり剛志の方を指差す。

「あれ邪魔だよね」
「そうなの」
「うん分かった。帰り出来るだけ足止めするから、頑張って」
「ありがと。由美さん」
「けど万が一のための準備もしてね?」

 梓がこくりと頷くと、絶妙なタイミングで郁美からのメールが入った。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...