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6. 梓、ビビッて逃走する
梓、ビビッて逃走する ⑥
しおりを挟む梓は布団に潜り込んでから照明のリモコンを手にして考える。
まだ布団を敷いてないようだし、怜が戻ってくるまで灯りは落とさない方がいいよね、と思いながらうつらうつらする。
一瞬意識が遠退いてハッとした。
枕元の時計で時間を確認すると、先刻何気なく見た文字盤を思い出し、五分ほど経っていることを知る。部屋の灯りは点いたまま。
「まだ、トイレかな?」
呟いてまた布団に身を投げ出し、再び意識が遠退いていく。
怜を気にしているからだろうか、すぐに目が覚めて時間を確認すると、更に十分ほど経っていた。なのに怜はまだ戻っていないみたいだ。
電気なら下のスイッチでも切れる。怜がそのままにして寝るとも思えない。
梓は布団から這いだして、ロフトの下を見下ろした。
布団は手付かずのまま部屋の片隅に鎮座している。
流石にこれはおかしいだろうと、梓は下へ降りて行った。その足でユニットバスの扉前に立ちノックする。
「怜くん。大丈夫? お腹痛い?」
恐る恐る声を掛けてみると、酷く動揺した怜の声が返ってくる。寝たと思っていたからだろう。先刻のグデグデの状態を見ていたら当然だ。その彼に「平気だからっ、早く寝てっ」と言われたからと言って、はいそうですか、とはならない。
それだけ怜の声が苦しそうだった。
「でも……お薬いる?」
「あずさッ!! 頼むからッ。向こう行って!」
怜の切羽詰まった声を聞いたら、余計に心配になる。梓が思っている以上に怜の体調が良くないんじゃないかと思ったら、その場を離れるなんてこと出来ず、扉に両手を当てて「でもでも」と食い下がっていると、中から一度、大きな音をたてて扉を叩かれた。梓は驚いてパッと手を離す。
具合が悪いのにイライラさせたのかも、そう思い至ってリビングに戻ろうとすると、いきなり扉が開かれた。
大丈夫?と言い掛けて、目に飛び込んできた怜のあられもない姿に、梓の顔が見る間に真っ赤になった。
塗れた髪から水滴が滴り落ち、火照った肌と潤んだ瞳が艶めいて色っぽく、梓の心拍数が急上昇する。心臓の音が耳の奥で煩い。
怜と一瞬目が合って慌てて逸らし「ごめん」と身を翻したのを後ろから抱き寄せられ、腕の中で硬直してしまう。パジャマが水分を吸い取って、じとりと張り付く。
この状況は非常に不味いと流石に理解した。
「何で直ぐに言うこと利いてくれないの?」
腰に硬く張り詰めたモノを押し付けられ、引き攣れた声が呼気となって漏れる。怜の情欲が熱を持って脈を打つのが伝わってくると、意思とは別に全身が敏感に彼を感じ取ろうとしていた。体中を忙しく巡る血流を感じる。梓は目を堅く瞑ると落ち着く為に息を整えた。
「アズちゃん煽るくせに抱かせてくれないから……。こっちは傷付けないように一杯一杯なのに。ダメでしょ。アズちゃんを思って慰めてる時に近付いたら」
(…慰めるって……え…)
彼の言わんとしていることの意味が頭を過り、恥ずかしくて逃げ出そうとした。怜が放してくれる訳もなく、真っ赤になって震えている項にキスをされ、梓はピクリと小さく震えた。怜の唇が首筋を這い、耳朶を軽く食まれて知らず吐息が漏れる。梓は自分の吐息の甘さに驚いて、流されそうになっている事に気が付いた。
怜の腕の中で僅かに身を捩り、でも顔は恥ずかしくて見ることが出来ない。
どうしようの言葉しか頭に浮かんでこなくて、なのに怜の唇に首筋を嬲られてゾクゾクしてしまう身体に、焦燥感ばかりが募っていく。
「ま……待って待って、怜くん」
「いや?」
少し悲しげな声に、嫌と即答できなかった。
腰に回された怜の手がゆっくりと体のラインに沿って這い、ぞわぞわとした感覚が身体を震わせる。ここで拒否しなければと思うのに、指先一つ動かせないでいると、怜が耳元で囁いた。
「アズちゃんが誓いを破らせようとばかりするから、僕はどうしたらいい?」
「ど、どう…したらって」
誓いを破らせようなんて思ってない。けど怜に叱られたことを守れていないのも事実で、先刻は本気で怒っていた。
最初は恥ずかしかった脚の間に抱え込まれるようなバックハグも、優しさに包まれた心地よさに慣れてしまうと、背中越しから伝わって来る怜の温もりや心音、息遣いにさえ安堵を覚えた。
それでついついダメだって分かっていながら、眠りに誘われてしまう。
つまりこれは自業自得。
何度も怜に “同意と見なす” と言われていたのに、離れ難いと思ってしまう自分は、どこかで怜を甘く見ていたのかも知れない。
耳殻を舌でなぞられ、くすぐったさと背筋を走った震えに梓は首を竦めた。梓の身体を撫で弄っていた手がパジャマの中に滑り込むと、指先に微かな力を感じる。掌は梓の感触を慈しむように撫でさすり、恥ずかしいのに怜の掌の熱が心地良い。
怜の指がナイトブラの隙間から入り込んで押し上げると、ぽろっと右の乳房が零れた。大きな掌がすっぽりと包み込みじわりと力を加えていく。
指先で抓んだ尖端をクリクリと遊ぶように捻りながら、揉み拉く乳房が形を変える。梓の唇から短い声が漏れると、怜は激しく昂った屹立をぐりぐりと押し付け「抱いてもいい?」と艶っぽくて絡め取る様な声が囁く。
腰にゾクッと震えが走った。
「梓、愛してる」
怜の震えた声が泣いてしまいそうに告げた。
梓が嫌だと言ったら、彼はその手を離して解放してくれるかも知れない。
だけど……。
梓は小さく頷いていた。
肩越しに振り返って見ると、怜は一瞬信じられないと顔に出して梓を見下ろす。それから顔がだんだん緩んできて、本当に嬉しそうに破顔した。
「それって、OKってこと? 抱いてもいいの?」
「……訊き返さないで」
消えてしまいたい思いが声にも表れてた。
やっぱり止めたと言いたくなってしまう。
今すぐにでも逃げ出したいくらい恥ずかしいのに、俯いた項にキスを落とされて身体が震えてしまい、怜の「ありがと」の言葉に、梓は退路が失くなったことを実感した。
直ぐに布団へ行こうとした怜に、ちゃんと髪を乾かさなきゃダメと言って姑息な時間稼ぎをし、いざ彼が傍に来ると梓は逃げ場のないロフトの端に寄って、完全に怯え切った笑顔を浮かべた。
怜が手にしているモノが目に入り、梓は由美の言葉を思い出す。
「やっぱり、“男の何もしないは何かする” だったんだぁ」
年長者の言うことに間違いはなかったと、涙声で言えば、慌てた怜が詰め寄って弁明を始めた。
「ちょっと待ってよ。昨日までは本当に、手を出さないって決めてたんだよ? けどアズちゃんが余りに誘惑してくるから、購入してしまいました。それともない方が良かった? 僕としては断然その方がいいんだけど」
「ダメ。無理だから」
誘惑って何だと叫びたいのを我慢して、顔の前で大きなバッテンを作った。怜は口端に笑みを浮かべ、四つん這いになって迫って来る。梓のバッテンを解除し、
「そお? 僕ももう三十超えてるし、子供作るなら早い方が良いんだけど?」
「あ、いや、その話は追々とね。っていうか、まだそこまで気持ちが、ね?」
お尻をズルズル引き摺りながら、だんだん隅に追い詰められていく。
膝を抱えて小さくなる梓の足首を怜の手が掴んだ。その目が逃がさないと告げている。その癖「いや?」と訊いて来るのは反則だと思う。
(嫌と言ったら、止めてくれるんですかぁ!? あなたのその目を見る限り、有り得ないって確信してますがッ!)
怜曰、煽ったのは梓の方で、何だかんだと絆されて頷いてしまったのも梓で、怜のバックハグがなくなっちゃったらちょっと嫌かもと思ったのも梓で、結局、自己責任は取りましょう的な事態を収拾するしかない状況。
背中を変な汗が流れていく。
「梓。大好きだよ」
艶っぽいテノールが鼓膜を揺らす。
(ああ……この声、好き)
子供頃から聞きなれた声なのに、梓だけに囁く声は蕩けるように甘い。
すっと伸びて来た怜の右手が梓の髪を梳き、流れるように彼女の頬を包む。梓はその手に手を重ねた。
優しい怜の微笑みがゆっくりと近付き、梓は瞼を閉じ、彼の唇を受け入れる。
啄むキスを繰り返し、怜は梓の頭を自分の胸に引き寄せると「幸せだ」としみじみ呟く。それがちょっと可笑しくて、笑みを浮かべた梓が上目遣いで彼を見上げると、唇がまた重なった。今度はゆっくりと、舌先が梓の唇を開かせて侵入してくる。
歯列をなぞり、口蓋を擽る舌先を梓が押し返す。すると彼女の舌を絡め取り、甘噛みして来た。それをマウンティングみたいだと思うのに、服従してもいいような気になるから困る。
(ファーストキスは無理やりで、お酒の味がしたっけな)
ふと思い出す。
不慣れだった梓に、深く探り合うようなキスを教えたのは怜だ。
時間をかけてじっくりと、貪られた。
あの時は翔を裏切る行為がひたすら怖くて、なのに官能を拾う自分が汚く感じていたけれど。
くちゅ…っと淫猥な水音。耳を犯され、脳幹にまで痺れが走る。
あの時はそれを快感だと認めたくなくて、癇癪を起して暴れた梓を怜は簡単に押さえ込んでしまった。
今は、ふわふわとして酔っぱらっているみたいな感じ。気持ちひとつでこうも変わるものかと思う。
「なに考えてるの?」
些か面白くなさ気に訊いて来る。梓は怜の首に腕を回し、「怜くんキス好きだよね?」と目を覗き込んだ。
「ん……大好き。特に梓とキスすると、色々とたまんなくなる。梓は? キス嫌い?」
心配そうな怜が覗き返してくると、梓は首を振った。
「んーん。気持ちいー」
「ふふっ。良かった」
安心した笑みを浮かべ、怜はまた愛おしそうにキスしてくる。
何度も角度を変え、梓の口中を余すところなく堪能する怜は、時折愉し気な笑い声を漏らす。釣られて梓も笑った。
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