【R18】不器用な僕たちの恋愛事情

優奎 日伽 (うけい にちか)

文字の大きさ
149 / 167
19. I than you ……【R18】

I than you …… ⑨ 太一

しおりを挟む
 

 太一が洗い場で下がってきた食器を片付けていると、彼女と別れたことを早くも聞きつけたバイト仲間の一人が、ニコニコしながら声を掛けてきた。年は同じだが、太一よりも二月ほど早く入った彼女は、何かと先輩風を吹かせてくる。
 ぶっちゃけ苦手な人種だ。何故なら……。

「江東くん田中さんと別れちゃったんですって?」
「はあ、まあ」
「ここだけの話、田中さんって今一つ気が利かないし、その癖、男には媚び売ったとこあるから、時間の問題かなとは思っていたのよね。別れて寧ろ良かったじゃない」

 私は味方よと言わんばかりの穏やかな微笑みで、頷きながら太一を見ている。
 これだ。人のプライバシーに勝手にズカズカ上がり込んで来て、さも自分は気の付く女子をアピールしてくるのだ。しかも男性スタッフ限定で。

(男に媚び売りまくってるのは、寧ろあなたの方ですから)

 スタッフたちから嫌厭されているのに気付いてないのは、本人くらいだろう。
 元カノを弁明するならば、誰にでも気さくな子で、人に優劣を付ける性格ではなかったし、決して気が利かない子でもなかった。そこは一応、サービス業に従事しているくらいだ。

「何か、田中さんが悪者になってますけど、俺が悪くて振られたんで」

 余計なことを吹聴しないでくれと言外に言ってはみたものの、彼女に通じたかどうかはかなり怪しい。

「えっ、嘘ッ!? …彼女を庇ってんじゃないの?」
「事実です」

 これ以上はもう聞いてくれるなオーラを出して、遣りかけの仕事に戻る。
 彼女は暫く太一の仕事を見ていたが、ふと思い出したように口を開いた。

「ねえ江東くん。今度トーク紹介してくれない?」
「何で?」

 太一の顔に微かな怒りが浮かぶ。

「だって友達なんでしょ? 紹介してくれたって良くない?」

 然も当然だろうという風情で、彼女は太一の顔を覗き込んでくる。太一は拒否を滲ませた溜息を吐いた。
 先日、十玖と二人で久しぶりに遊んだ帰り道、偶然バイト帰りの彼女と遭遇してしまったのだ。
 バイト先のカラオケボックスから離れた所だったし、かなり油断していた。
 十玖の顔を見た時の反応でヤバいと判断し、早々に逃げ出したのだが……。

「大事な親友に、よく知らない柴田さんを紹介なんて出来ないよ」
「え~何それ。あ、もしかして彼女にしか会わせないとか、勿体ぶってるの? だったらあたし江東くんと付き合ってもいいよ?」

 彼女の余りに短絡的な思考に、太一は絶句して見入ってしまった。それを了承と取ったのか、「じゃあ決まり」と手を打って嬉しそうにしている。太一の腕に自分の手を絡めようとして来て、咄嗟に腕を引いた。

「悪いんだけど、そんな軽いノリで女の子と付き合う気ないから。しかも十玖目的って、明らかに俺に失礼だとか思わないわけ?」  
「だって彼女じゃないと紹介してくれないんでしょ?」
「田中さんにも十玖は紹介してないよ」
「何で!? トークに取られちゃうから!?」

 その言葉で、太一の中で何かがキレた。
 予洗いしていた皿が手の中でピシッと音を立て、慌てて力を抜くと柴田を睨んだ。いつもニコニコしている太一の豹変に、鈍い彼女も何かを感じ取ったようだ。数歩後退った。
 十玖の母、咲に仕込まれたフェミニストも、流石に限界だった。

「十玖はそんな奴じゃないし、田中さんを侮った言い方もして欲しくない。柴田さんはA・Dのトークのイメージで紹介して欲しいと言ってるんだろうけど、素のアイツに威圧されないで相手にできる女の子は、そう多くないよ」

 美空と付き合う前は、それで女子に遠巻きにされていたくらいだ。なまじ綺麗な顔をしているから、無表情でジッと十玖に見られただけで、女子たちがビクビクしてそそくさと退散する様を、嫌と言う程見て来た。

「けど、この間会った時はそんな感じしなかった」

 諦めず、尚も言い募って来る彼女に辟易する。
 食洗器のラックに皿を伏せ、あからさまな侮蔑の色を表情に浮かべた。

「それは柴田さんが “A・Dのトーク” って騒ぎだしたからだよ。だから直ぐに俺ら退散したでしょ。それに俺がどんなに良い奴だからって紹介したって、十玖本人が認めない人間は、知り合いにすらなり得ないから。もおいい加減仕事に戻ったら? 先刻からマネージャーが睨んでるよ?」

 下膳カウンターの向こう側、バックヤードの入り口で腕を組んで太一の隣を睨んでいるマネージャーがいた。彼女は「ヤバ」と独り言ち、急いで持ち場に戻ろうと踵を返し、厨房を出て行く直前で振り返った。

「あたしいつでも彼女OKだから」
「断るッ!」

 彼女は「え~」と言いながら出て行くと、すぐマネージャーに捕まってお小言を頂いている。
 台風一過とばかりの厨房では、スタッフが苦い笑いを漏らしていた。



 柴田のような人間は、何も初めてじゃない。
 彼女になってもいいよと言ってきたのは、彼女が初だったが。
 十玖がA・Dに入ってから、二人の仲を知っている人間がやたら声を掛けて来るようになった。
 通信講座とタイアップした曲が売れたら、更に増えた。
 そして秋に公開された映画にA・Dが友情出演したら、またまた増えた。
 A・Dの知名度が上がって行くのは、素直に嬉しい。

(けど俺は十玖とのパイプ役じゃないし)

 みんな勘違いしている。

(俺と仲良くなれば、十玖とも仲良くなれるって何で簡単に思うんだ?)

 十玖にだって、十玖には選ぶ権利がある。
 大体あの人見知りが、自ら進んで交友関係を広げるわけがない。小・中・高と同じ学校に通ったならば分かりそうなものだ。
 仲良くなれるものなら、とっくになっていただろうと何故気が付かない?

 普通の学生だった時は、ただ遠巻きしかしなかった癖に、顔が知れ渡り出したら、会いたいとかいけしゃあしゃあと言ってくる。質が悪いヤツは友達に自慢した手前、繋ぎ取って貰わないと困ると泣きついて来る奴らだ。十玖にクラスメートだったことを認識されているかも怪しいのに、本当に調子の良さに腹が立つ。
 勿論、そんな連中には端から取り合わない。
 今でこそ兄貴分と慕っているA・Dの三人の事だって、最初は逃げ回るほど嫌がっていた。それはもう見てて気の毒なくらい。

(三人の粘り勝ちだったけどな)

 粘れば十玖と仲良くなれるかと言ったら、そうでもないが。
 A・Dがラッキーだったのは、晴日が美空の兄だった事が大きく影響しているからだろう。  
 美空を餌に引き込まれた感は否めないが、三人の人柄が十玖に受け入れられないものだったら、トークはなかった。

 そもそも十玖はレスキューになりたかったのだ。小学生の低学年の頃から近所の消防署に通いつめ、訓練の様をうっとりと見ているようなマニアックな少年だった。中学の頃から職員に誘われて訓練に参加させて貰い、身体能力を買われてスカウトされていた男が、そう易々と考えを変える筈がなかった。

(毎回ホント嬉々として参加してたもんな)

 太一も何度か誘われたが、丁重にお断りした。化け物染みた十玖と同列にされたら、命が幾つあっても足りない。
 それを僅かな時間で変えてしまったA・Dは、頑固な十玖を変えるだけの物を持っていたと言うことだ。

 常盤との事でもそうだ。とことん勝負して、仲良くなった。どっちも格闘バカで筋トレマニアだったから成し得たことだ。
 ゼロレンジコンバットに挑戦しようかと、二人で話していた時は、バカもここまで来たかと正直引いた。平和ボケした日本で殺人格闘技を身に着けて、二人は何処に向かって行くんだろうと心配になったのだが、面白そうだから、二人がそう言った時は、心配した自分が哀れに思えた。
 太一たちが仲良くなった経緯は、苑子の性格から推して知るべし。

 まずその位のことがないと、十玖と仲良くなれない。尽々面倒臭い性格をしている。
 しかし一旦仲良くなった相手は、如何なる時でも裏切らない。たとえ相手に裏切られても。
 だから太一も十玖の盾になることを厭わない。

(波打ち際で排除できるものは排除しないと、十玖がぶっ壊れるしな)

 小学校でクラス替えがある度、パニックになって太一と苑子に泣きついていたのは、今となってはいい思い出だ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...