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3. 美空 VS 萌
美空 VS 萌 ①
しおりを挟む六月二週目の月曜日。辺りはすっかり暗くなっていた。
美空を自宅まで送り届け、浮かれていた十玖は玄関の扉を開けて、一歩退いた。
仁王立ちの母 咲の姿がそこにあった。
いつから待っていたのだろう。
すっかり忘れていた。美空との時間が楽しくて、トラブルメーカーの存在を。
「ただいま」
「どういうことかしら?」
「なんの事?」
敢えてすっとぼける。
「萌ちゃんから泣いて電話があったんだけど。理由を聞いてもいいかしら?」
(言いたくなくても言わせるじゃないか)
心中で呟きながら、引き攣り気味の笑みを浮かべた。
萌がありのまま正直に話しているとは思っていない。都合の良いことだけを掻い摘んで話しているはずだ。
「萌は何て?」
「迎えに行った萌ちゃんを無下にした挙句、晴くんに萌ちゃんを押し付けて逃げったって言ってたわよ。泣かしてまで逃げる理由はなんだったのかしら?」
取り敢えず、闇雲に怒らないで、理由を聞いてくれる咲に感謝する。亜々宮ならば問答無用の一撃を食らっているところだ。これもひとえに今までの実績のお陰だろう。
ただこんなに早く美空の存在を明かさなければならない状況に、躊躇している。
なんとも気恥ずかしい。
言い淀んでいる息子の胸ぐらを掴んだ咲の右眉が上がる。
「ロクでもない理由だったら殺すわよ」
母はいつでも本気だ。
十玖は天井を眺め、ため息をついて観念した。
「萌が、彼女の前でいつもの “お嫁さん” 発言をしたため、怒って走り去ったので、追いかけました」
咲にとって、息子の予想外の答え。茫然と遥か上にある十玖の顔を見上げる。
胸ぐらを掴む手を放し、ポンポンと胸を叩いた。
「聞き違い?」
「なにが?」
「彼女って誰の?」
「僕のだけど」
「…十玖に? ま~たまた。嘘や見栄だったら怒るわよ」
「相手は晴さんの妹だから、聞いてもらってもいいよ」
咲の前にスマホを突き出すと、しばらくスマホを眺め、再度十玖を見た。
「晴くんの妹。ならやっぱり日本人離れした美人? 写メないの? 名前は?」
「美空。えっと苑子と一緒のヤツなら」
そう言って写真フォルダーを開くと、十玖から奪い取ってリビングに走って行く。
ここでようやく十玖は家に上がれた。
咲がリビングで奇声を発している。落ち着かせようとする父 晄の声。
構わず二階に上がろうとした十玖を咲が呼び止めたので、仕方なくリビングに顔を出した。
「父さんただいま」
「おかえり。えらい騒ぎだよ」
「そうだね」
言いながら晄の隣に腰掛ける。父の同情を含んだ手のひらが、十玖の背中を軽く叩いた。
「だって十玖に彼女なんて期待していなかったから! この先も間違いなく独りでいるんだろうと思ってたし、苑子ちゃんや太一くんはそれなりに構ってくれるだろうけど、孤独死するんじゃないかと心配してたのよ」
「僕はどれだけ可哀想設定なんですか?」
「いい? 絶対に逃すんじゃないわよ。こんな奇跡、二度とない」
やっぱり可哀想設定の様である。
咲は写メを見ながら、キャーキャー騒いでる。父はそんな母を見て苦笑していた。
「これで娘候補三人キープっ!」
「それ彼女に会っても言わないでよ。絶対引かれる」
「息子三人に何を望むってそれしかないでしょ。十玖が一番心配の種なんだから、気合入れて死守しなさいよ。いいわね?」
付き合い始めたばかりで別れるもないけど、もし仮に別れでもしたら大変な事になるのは必至。
「肝に銘じます」
「で、いつ逢わせてくれる?」
満面の笑みで応えを待つ咲に、なんと答えたものか。
思えば、天駆や亜々宮も速攻、彼女を家に連れて来させられていたではないか。
そこに例外はない。
「あ~、都合を聞いときます」
弄られるのが目に見えているから、正直連れて来たくない。
しかし咲の方が上手だった。乗り気じゃない息子を見抜いてる。
「都合を聞いとくなんて時間稼ぎするんじゃないわよ。まさかこの期に及んで嘘でしたとか、言うんじゃないわよね?」
「腹くくったほうがいいと思うよ」
母の性格を把握しきった父の助言。
煮え切らない晄を押し切って結婚した話は、身内の間で知らないものはない。また十玖自身がこの父によく似ている。
「スマホ返して」
咲からスマホを受け取って、美空の番号に掛けると、間もなく出た。
出ちゃったよ、と声にならない声で呟いた息子の頭を小突いた母を上目遣いに見て、
「ごめん、いま大丈夫? 実は……」
言ってる途中で咲がスマホを取り上げる。
「ちょっと母さん」
手を伸ばした十玖を叩き払いながら、にこやかに話始める。
「こんばんはぁ。十玖の母です。……やだ。緊張しないで美空ちゃん。実はさっき十玖に彼女ができたって聞いて、会いたいって言ってるのに渋るから、電話かけさせちゃったの。ごめんなさいねぇ。晴くんの妹さんなんですって? 写メ見せてもらったけど、美人さんよねぇ」
あの手この手と事実確認をしながら、言葉巧みに美空情報を聞き出す咲に、頭を抱え込んだ。
この母が本気になったら、詐欺師にもなれるんじゃないかと思う。
ケラケラ笑って楽しそうだが、十玖は気が気じゃない。
父は全く気にも止めず、晩酌しながらテレビ鑑賞中だ。
あれよあれよいう間に話は進み、電話を切った時には決着していた。
「明日、連れてきてね」
「明日ぁ!?」
「そう。明日。美空ちゃん良いって」
「仕事早いっすね」
「当然でしょ」
そう言って小躍りする母は、着替えてご飯食べなさいと、ミュージカル調に言う。
(……頭痛い)
この人はどうしてこうなのか。
母の逸話は限りない。
そして、この母を嫁にしている父を心底尊敬した。
母 咲のせいですっかり失念していた晴日への礼の電話を、十玖はランニングしながイヤホンマイクでしていた。
何故ランニングをしながらなのか――――それは咲が纏わり付いて、鬱陶しいから。
「今日はホントに済みませんでした。お陰で助かりました」
『ありゃ怪獣だな』
「返す言葉もないです」
『いま外か?』
「電話がてらランニングしてました。母が煩いんで」
『走ってんのか? 息乱れてねぇし』
「ああ。いつも歌ってますからね。それに比べれば」
楽勝と笑った十玖に感嘆の息を漏らす。
どおりであの声量だ。
『何はともあれ、無駄骨にならなくて良かったよ』
「ありがとうございました。ところで竜さんは大丈夫でしたか?」
『子ザルの毒気にあたってヘロヘロだった。何らかの報復があったら、黙って受けろ。なに。危険はないはずだ』
「かえって怖いんですけど」
しばらく間が空いた。
晴日の歯切れの悪い口調。
『大丈夫。コレクションに加わるくらいだから。多分』
「何のですかぁ!?」
『そろそろ切るわ。じゃな』
虚しく響く通話終了音。
かくして十玖は眠れない一夜を過ごすこととなり、翌日の放課後に予告通り竜助コレクションに加わることとなった。
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