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13. The love is instinct
The love is instinct ⑤
しおりを挟む練習が終わって、帰宅後すぐにランニングに出た十玖の後を追って、淳弥も走っている。
緩急をつけて走る十玖のペースに付いて行くのがやっとだ。突然ダッシュされると、瞬く間に引き離され、追いついた時にはぐったりするのだが、最初に宣言された通り少しも待ってはくれない。
途中の公園に立ち寄ると、今度は遊具でサーキットトレーニングが始まり、ここで少し息が付ける。
十玖はジャングルジムの頂上まで登ると、足を引っかけて腹筋を始めた。淳弥は途中まで登って腹筋を始める。上の層で体を捻りながら腹筋する十玖が、自然と目に入った。
「どっちから告ったの?」
唐突な質問に十玖は腹筋を止め、淳弥を見下ろした。
「なに突然」
「うーん。こうしてトレーニングしてると、昔のままの十玖だなって。ストイックでさ。なのにこの変わりようは一体!? って感じ」
三嶋男児が女性に優しいのも、妻や恋人を大事にするのも普通のことなのに、何となく十玖はそんなものとは無縁だと思っていた。淳弥のイメージでは、十玖はどこまでもストイックなままだったのに。
「僕からだよ。告白」
「マジ!?」
「変?」
「変! そんな事に興味なさそうだったじゃん」
「あーうん。疎かったね確かに」
言いながら腹筋を再開する。
こういうクソ真面目なところは変わってない。淳弥は小さく笑いを漏らした。
「ストイックな十玖が格好良くて、憧れてたのになぁ」
「よく言うよ。自分は摂津子ちゃんがいるくせに」
「摂津ねえ」
淳弥も腹筋を再開する。
香藤摂津子は、淳弥と子役から七年の付き合いで、彼女である。
「どうかした?」
「女優の彼女は持っちゃダメだと思う今日この頃です」
「何それ?」
「摂津とケンカした」
「すでに熟年おしどり夫婦みたいな二人がケンカって」
「摂津…今度の映画で、キスシーンあるって」
子役を卒業し、一人前の女優としてやっていくなら、避けては通れない道。頭で分かっていても心が追い付かない。
「そんな仕事断ればって言ったら、ケンカになった。摂津が尊敬する監督だし、その監督の大抜擢なの分かってるんだけど、他の男とキスするなんて絶対ヤダ」
「……うん」
「彼女が他の男とキスしたら、十玖はどうする?」
「男を抹殺」
「それが仕事でも?」
「そもそもそんな仕事させない」
「でも僕が知り合う前から、彼女は業界で生きて来たんだもん。この仕事が好きなのは、誰よりも僕が知ってるのに、取り上げるなんて出来ない。けど」
淳弥はジャングルジムを降りて、逆さまになった十玖の胸倉を掴んだ。
「“仕事なんだから仕方ないでしょ!” ってそんなのある!? 好きなの僕だけみたいじゃん」
「ちょっ、手ぇ放して」
逆さまの十玖の首元を締める手を解くと、淳弥はその手を眺め、ジャングルジムに寄りかかった。
「分かってるんだよ仕事だって事くらい」
ずるずるとしゃがみ込んだ。
「避けたって、何も解決しない事も」
「もしかして、それでうちに逃げ込んだ?」
「……当たり。あ、でも役作りってのも本当だから」
言い訳めいた物言いに、十玖は笑みを浮かべジャングルジムからひらりと降りる。淳弥の頭をポンと叩くと次の遊具に走って向かい、淳弥はため息とともに立ち上がって追い駆けた。
シーソーの上で逆立ちし、絶妙なバランスで歩いて行く。はっきり言って、こんな芸当は淳弥には無理だ。
傾くシーソーを逆立ちでスタスタと歩く十玖を見守りながら、「もお自分が面倒臭い」としゃがみ込む。
「彼女の何が好き?」
「さっきから唐突だよね」
「どこ? 堅物が落ちた彼女の魅力」
十玖はしばらく無言のまま逆立ちで歩き、方向転換すると口を開いた。
「きっかけは声かな。あと涙。あの瞬間に落ちてたんだと思う。淳弥の言う通り僕って疎いから、自覚するまで一年半かかったけど、その間ずっと彼女を見てた。だからどこがって言われても、なんて言うのか、本能が彼女だって言ってる…みたいな?」
「あー…うん。何か分かる。他の女子がやったら完全アウトな事でも、彼女だと許せてしまうんだよね。手放せないの分かってるから。でもやっぱりキスシーンはダメだ」
「淳弥だって、いずれはそう言うオファーが来るでしょ。淳弥が尊敬する監督から、是非にって言われたら、淳弥はそのチャンスを放棄できるの?」
核心を突かれた気がした。
淳弥は頭を抱えて小さく唸り、「きっと無理」と呟いた。
「自分はよくて摂津はダメなんて道理、通用しないよねぇ。彼女も仕事なんだから」
「僕なら絶対血が沸くけどね」
「納得させたいの? させたくないの?」
「美空が女優じゃなくて良かった」
ブリッジしてシーソーから降り、「行くよ」と声を掛けて走り出す。
「ケンカ売ってる?」
「売ってないよ。彼女が好きでどうしても諦められないなら、その事実丸ごと認めて愛してくしかないでしょ。僕はそうする」
一瞬厳しい顔をして、すぐ淳弥に微笑んで見せる。
厳しい顔をした理由は分からないが、ベタ甘な二人にもそれなりの事があったのだろうと予測は付いた。
やっぱりマイペースで走って行く十玖が、いきなりダッシュして淳弥を引き離す。この区域では、淳弥は自分のペースでゆっくり走って行くことにしてる。
この先に美空の家があるから、邪魔して恨まれたくない。
初日は失敗したが。
門の前で待っていた美空に、キスをしていた十玖。
遅れまいと必死で追い付いたのに、数メートル手前で、足踏みせざる得なかった淳弥に気が付いて、美空が十玖を突き飛ばすと、悲鳴とともに家の中に逃げ込んだ。
その後、十玖に思い切り尻を蹴られた。
のらりくらりと走って行くと、十玖と美空が待っていた。
十玖は淳弥を見止めると、美空に手を挙げて走り出す。淳弥は美空に頭を下げ、十玖にぴったりと付いた。
また緩急を付けながら十キロの行程を走りきり、家の前でストレッチでクールダウンする。淳弥はそのまま浴室に直行し、十玖は庭に回って更に筋トレの続きを始めた。
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