【R18】不器用な僕たちの恋愛事情

優奎 日伽 (うけい にちか)

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17. それがA・Dだろ 【R18】

それがA・Dだろ ⑥

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   ***


   十玖の生誕ライヴも終え、学祭の準備も追い込みに入り、学校中が学祭モードで色めき立っている。
   去年に比べたら、ライヴが土壇場で決まらなかっただけまだ気持ち的にゆとりがあるが、日々を忙殺されていることに変わりない。

   女子が血走った眼で、黙々とお針子仕事に打ち込んでいる。下手に声を掛けると、とんでもない反撃を食らうので(特に苑子と太田には注意が必要)男子は遠巻きにしていた。

「ちょっととーく」

   苑子が糸を切り、筒井からのラインをチェックしている十玖を呼びつけた。

「なに?」
「これ試着して」
「今回は試着あるんだ?」
「前回はあんたに内緒だったから」

   ドレスの糸くずをバフバフと振るって払い、ぐいっと十玖に突き出した。苦虫を噛み潰した顔の十玖は、いやいや受け取ってため息をつく。

「これ着てバレないの?」
「着たくらいじゃバレないわよ。そんなヘマあたしがする訳ないでしょ」
「ごもっとも」

   十玖を注視するクラスメートを見回していると、「いいから早く着て」とせっつかれた。

「ここで?」
「女子みたいなこと言ってんじゃないわよ。首回りと肩、腕の微調整だから、全部脱げとは言わないわよ。大体あんたの裸見たって面白くもない」

   苑子は酷い言いようだが、他の女子の目は違った。話しかけても「邪魔」と怒る彼女たちが手を止めて、期待の眼差しを注いでいる。
   モデルをやってれば人前で着替えることもあるけど、しかし何だ。これは全くもって非常に着替えづらい。
   十玖じゃなくてもガン見されたら躊躇する。それを察した太一が助け舟を出した。

「他に出来てるヤツないのか? 俺のは出来てる?」
「江東のはこっち」

   衣装を受け取った男子たちは、示し合わせたように一塊になって着替え始めると、中にはパンツ姿に動じないものもいるが、直視できない女子たちは目を逸らしてお針子に戻ってく。よおやく十玖も安心して着替え始めた。尤も彼の場合、上半身脱いだだけだったが。
   背中のファスナーを美空に締めて貰いながら、二の腕の辺りを気にしていた。

「苑子ぉ。袖が微妙にキツイ」
「ああッ!? マジで? もお十玖、学祭終わるまで筋トレ禁止ッ!!」
「なんでッ!?」
「筋肉育てないで」 
「走ってもいい?」
「それは許す。体調崩されても困るし」

   中三の頃の出来事を思い出して、苑子が頷いた。
   身長が一気に伸びた中三の頃、成長痛が酷くて走れなくなった時があったのだが、長年の習慣を休んだがために、体調がガタガタになった。学祭を前にして調子を崩されたら一大事だ。
   苑子は首回りと袖周りをチェックして「オーケー」と背中を叩く。

「袖、何とかならない? 動かしづらいと、逃げるのに困んだけど」
「…うーん。やってみる」
「お願い」

   黙って二人のやり取りを見ていた美空が、十玖の背中に抱き着いた。きょとんとして肩越しに振り返る。

「どうしたの?」
「…二人仲が良くて…ちょっと妬ける」

   十玖と苑子が唖然として美空を見た。
   苑子が爆笑し、十玖は複雑そうな笑みを浮かべる。

「ドレス着てる時に言われるのって、微妙なんだけど」
「格好なんて関係ない」

   ぎゅっと力を籠め、背中に頬を押し付ける。十玖は回された腕をポンポンしてから外し、手を引っ張った。美空はあっという間に腕の中に納まり、「可愛いなあ」とハグされて、彼女も抱き着き返した。

「ホントあんたらは隙あらばベタベタと」
「いいでしょ~」

   美空に頬擦りして、嫌味っぽく笑って苑子を見る。

「やかましい。直すからさっさと脱いで」
「はーい」

   そっと美空を離し、背中を向けてファスナーを下ろしてもらう。他もチェックが終わったようで、着替えが始まっていた。



   パネル写真を飾り終えた美空が、その前に腕を組んで佇んでいた。
   いよいよ明日から本番だ。
   日曜には慎太郎が見に来ると言っていた。どんな評価が下されるのか。

「いい写真ですよね」

   着かず離れずの距離を保ちながら、隣に佳が並んだ。チラリと彼を見て、すぐまたパネルに視線を戻す。

「ありがと」

   以前、佳に手首を掴まれて発作を起こして以来、お互いぎこちない。佳から話しかけて来たのも大分久しぶりだ。

「トークさんのこんな自然な表情かお撮れるのって、美空さんならではですよね」
「隠し撮りだけど。多分十玖は知らないわ」
「そ…そうですか」

   それ以上の返答に窮して、佳はパネルに目を戻す。

   小学生たちに囲まれて、全開の笑顔を見せている。
   美空の撮影に付いて行きたいと言って、公園で待ち合わせをしていたら、子供たちと一緒になって遊んでいた。その時の一枚だ。

   美空は少し離れた所に展示している佳のパネルに目をやった。

「涼ちゃん幸せそうだよね」

   声を無くしてしまっても、大切なものは他にもある。
   娘の真秀まほを愛しく見つめる涼の姿。期せずA・D新旧ヴォーカルの写真が展示されていた。

「兄さん、日曜に来るって」
「お兄ちゃんたち喜ぶと思う」
「うん。兄さんもライヴ楽しみにしてるって」

   涼の楽曲提供もあり、たまにライヴに顔を出したりもするが、疲れるのかいつも長居はしない。この前に会ったのは夏休み前だったか。

   美空は後輩に呼ばれて「いま行くぅ」と手を上げ、佳を見てから踵を返した。

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