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6. 惣の束縛 絹の呪縛 どっちにしても逃げらんない
惣の束縛 絹の呪縛 どっちにしても逃げらんない ④
しおりを挟む美佳が悔し涙に暮れていると、突然、バンッ!! と言う破裂音に似た音がして、ビクッと飛び起きた。
「美佳ーッ!!」
破裂音だと思った音は、恵莉が引き戸を叩きつけるように開けた音だとすぐに理解できた。
恵莉は室内をぐるりと見渡し、先客に珍しく躊躇している。
「え……恵莉ちゃん。どうしたの?」
美佳に声を掛けられ、“美佳” が美佳であることを確認すると、一直線に駆け寄った。
「美佳ッ! 泣いていたの? 大丈夫ッ!? どこが痛いの? 具合悪くない?」
美佳の傍らに腰掛けていた優を引っ剥がし、美佳に抱き付いて、すぐにいろんな方面から顔を見、手を取り、肩を掴んで身体のあちこちを確認する。
突然現れ、竜巻のような勢いで纏わり付く優とソックリな恵莉に、田端、さつき、菜摘の三人が唖然と眺め、追いやられた優が憮然として、自分のベッドに座り直した。
「恵莉ちゃん。バイトは?」
「美佳が入院したって聞いて、バイトなんてしていられると思う?」
ぎゅうっと美佳を抱きしめ「可哀想に」と頬擦りをした後に、振り返って剣呑とした眼差しを優に向けた。
「あたしの可愛い美佳に怪我させるなんて、死ねば良いのに」
「美佳は名実ともに俺んだから。おまえこそ消えて無くなれ」
「二人ともっ。病院で縁起悪……っう」
恵莉が美佳の頭を抱え込んで言葉を遮り、言を継ぐ。
「名実ともに!? ちゃんちゃら可笑しいわね。あんただけには美佳は渡さないってるでしょ」
中々殺伐とした姉弟喧嘩に、さつきと菜摘の目が泳いでいる。田端は以前、優から姉への罵詈雑言を聞いていたので、ライヴで観られて目を輝かせながら手を挙げた。
「はいはいっ! お姉さん。俺だったらアリですか?」
田端が会話に入り込んできた。
ニコニコ笑って立候補する田端に優が「やるかっ」と枕を投げつけ、恵莉は闖入者をマジマジと見た。
「……あの」
「ダメ。あんた優と同じ匂いがする。てかあんた誰?」
サクッと却下され、優にゲラゲラ笑われ、さつきと菜摘が顔を背けて肩を揺らしている。田端は「安西のクラスメートっす」と恵莉を見て苦笑した。
胡散臭そうに田端を見ていた恵莉はハッとして優を見て、しっかり抱え込んでいる美佳を見ると、重い溜息を吐き恨めしそうに優を見た。
「優。あんたヤッたわね」
「今更か。見たら分かるだろ」
美佳をチラッと見て、姉に挑戦するような根性の悪い笑みを浮かべる。
今朝、学校に行くまで “優” は美佳だった。
「本当に…油断も隙もないったら。あんたの困った体質、何とかしなさいよ!! 巻き込まれる美佳が不憫だわ」
切っ掛けは何だったのかまだ分かっていないけど、入れ替わりの原因が、優にある事は恵莉に報告していた。
「原因不明じゃ仕方ないだろ」
「なに言ってるの。あんたが死ねば丸く収まるじゃない。あたしが安置所に送ってあげるわ。安心して逝って」
姉弟仲がすこぶる悪いと聞いていた田端も、“死ね”を連発する姉に退きつつ、戸惑い気味に「安西病気持ちですか?」と訊ねた。
恵莉は言い淀んだ。口が滑ったと、少々後悔したがもう取り返せない。この田端と言う男を見る限り、下手な言い訳は通用しなさそうだ。そう言う意味でも優と同じ匂いがする。
恵莉は鼻で嘆息して言を継いだ。
「ああ……病気と言えば病気ね」
「それってどんな? 重いんですか?」
「死ねばいいのに死ぬような病気じゃないわ。特異過ぎて上手く説明できないんだけど」
「その病気に和良品が巻き込まれるって?」
田端は次々と物怖じせずに突っ込んでくる。好奇心の塊のような男だ。
恵莉は問題の二人を見て重く深い溜息を吐き、首を振った。
「強いて言えば二重人格みたいな? 戻せるのは美佳だけ。出来ればこんな奴に美佳を近付けたくないんだけど」
近付かせないどころか、美佳とセックスしないと元に戻ることも叶わないなんて、恵莉はこの不条理にいつも歯噛みさせられてしまう。しかも優が他の女性とセックスしたらまた入れ替わってしまうのだから、本末転倒だと嘆きが止まらない。
美佳可愛さに心の底から弟の死を願うあたり、恵莉も中々の鬼だ。
怒りで小刻みに震える恵莉を、美佳は抱きしめて背中をポンポンする。
「ああ。何か時々カマっぽいとき在るな。そう言えば」
「そう言うとき美佳は反対に雄々しいよね…?」
田端の呟きに菜摘が同意すると、室内に沈黙が降りた。
何かが琴線に触れた。
一同じっと押し黙り、それぞれが怪訝な顔で次のリアクションを待っている。
美佳と優は視線を交わし、こっそりため息を吐いた。
最初に沈黙を破ったのはさつきだ。
「二人の鬼ごっこって雄々しい方がいつも鬼だよね。それって関係アリ?」
大いに関係ありです、と心の中で頷いた美佳。
それにしてもこの三人、よく観察している。
友を名乗る以上、違いが分からないようでは、それもまた悲しいとは思うけれど。
美佳が何となくでも気付いてくれていた友人たちに感謝して見ていると、菜摘がもじもじして美佳と優を見、度肝を抜くような事を口にした。
「こんなこと言って頭の心配されるかも知んないけど、時々美佳が、安西くんに見える時あるんだよね。そういう時は決まって、美佳数学の調子がいいし体育楽しそうだし、何か解せないのよ。入れ替わってるんじゃないのって思う時ある」
美佳、優、恵莉は完全に固まった。
エアコンが利いている筈なのに、じっとりと変な汗が吹き出して来る。
「まあ実際そんなことある訳ないけどね」
バカなこと言いました、と頭を掻きながら菜摘が笑っている。
(そんなバカな事が起こってるんだけど)
心にまで冷や汗を掻いている気がする。確信をぐっさり突かれてドキドキする胸を押さえていると、さつきが追従して口を開いた。
「あたしもソレ思ったことある。美佳なのにカッコよく見えたり」
「あたしなのにって、地味に抉るわね」
「だって美佳はボンヤリしてこその美佳じゃない」
友人の美佳に対する評価が、ボンヤリとは切ないものである。
(実際ボンヤリだけどさあ)
これでも少しは機敏になった。こう言ったら腹が立つけど、優のお陰で。
堪え切れずに笑いを漏らす優に枕を投げつけ、頬を思い切り膨らませると腕を組んで胡坐を掻いた。
じっと見入ってくる田端と目合って、美佳は不意に目を逸らす。彼は身を乗り出し、意地悪く美佳の視線を追い駆け始め、優は面白くなさそうに田端の肩を引っ張った。
「何してんだよ」
「俺にも……」
「俺にも?」
「安西が和良品と被る時があるなあと思ってさ。そう言う時、ノリも違うし話が全く噛み合わない。それが頭を打ったせいだって言われたらそうなのかもって思わないではないけどさ、安西の人格が変わることで、和良品まで変わる必要ってあるのか?」
揶揄うでもない眼差しで優を見る。
「あ~……一心同体…?」
優が笑うと、田端も笑う。そして「笑って誤魔化すな」と優の肩に手を置いた。
以前自宅の階段から落ちて以来、優の言動がおかしくなるというのは周知の事実となっているが、同時に美佳の様子まで変わると気付いている人間はそう多くないはず。
美佳と違って言動行動に気を付けていたつもりでも、近い人間から見たらやっぱり本人とは違うと言うことだ。
しれっとした表情の中に微かな動揺を感じ取り、田端は眉を寄せ首を傾げて優を見入っている。
美佳は珍しく優が他人に圧されているのを、ぽやぁっと眺めていた。
(だろうとは思ってたけど、類友だったんだね)
優と同類と言うだけで感心し、田端の横顔をじっと見ると、視線に気付いた彼が振り返ってにっこり笑う。
長年培われた獲物としての勘が悟った。
ロックオンされた……と。
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