サングラスを外すと目が可愛い

ある

文字の大きさ
上 下
1 / 1

〈1〉街の不良に絡まれている女の子

しおりを挟む
 街。
 人通りの少ない裏道。

「う……」
 一人の女の子が、壁に背中を預けて、男三人に囲まれている。
 
 男たちが言う。
「怯えちゃって、可愛かわい~」
「そんなに怖がるなって。ちょっと、お茶でもどうかな~ってだけだからさ」
「なあ。良いだろう。へへへ」

(どうしよう!)
 女の子は怯えていた。
(どこか変な場所に連れ込まれるかも!)
 
 しかし、どうしたら良いか、わからない……
(お父さん、お母さん、どうしよう……)

 涙で目が潤んだ。

 そのときだった。

「君たち」
 声が聞こえた。
「何をしているんだい」

 女の子は『ハッ!』とした。
 人が来た。この状況から救ってもらわねば……!

「助けっ……!?」
 女の子は助けを頼む声を詰まらせた。

 何故なら……

(怖っ!!)

 現れた男は身長190センチはあろうかと言う大男で、黒いサングラス、黒いコートに黒いズボン。

(えっ。もしかして、仲間!?)

 さらなる、ピンチ……!? 

 と思ったが、今まで女の子に絡んでいた男三人は
「すみませんっ」
「人違いでしたっ」
「もうしませんっ」
 そんな言葉を残し、一目散に逃げていった。

 残された女の子一人……

(どうしよう!?)
 女の子はパニックになりながら考えた。
(これから、臓器目当てで誘拐とか。
薬漬けにされるとか)

 青い顔でフリーズしていると、大男の声が降ってきた。
「この辺の、この時間は女性一人では危ない。家まで送るよ」

(そんな! 私の家を知る気なの!?)
 女の子は焦った。
(お父さん、お母さんにまで、危険が及ぶわ!)

 しかし……

「どうした。行くぞ?」
 大男の声に、
「はい……」
 女の子は従わざるを得なかった。

 女の子は歩きながら考えた。
(家に着いたら、急いでドアを開けて私だけ家の中に一目散に入り、お父さんに鉄砲を持ってきてもらい、お母さんには警察に電話をかけてもらう……)

 そうだ。
 この男は丸腰のようだし、さすがに鉄砲でなら、倒せるはずだ。

 男と女の子は、終始無言で女の子の家まで歩いた。

「ここが家です」
 女の子は指差した。
「お礼をしたいので、ちょっとここでお待ち下さい」

(ここで待っていてもらう間に、家へ入って、警察に連絡。鉄砲で威嚇)
 女の子は立てた計画を反芻していたが……

「いえ。お礼なんてイイですよ」
 そんな大男の声に、顔を上げて、男の顔を見つめた。

 すると、大男はサングラスを取って、
「でも、今度から、危険な場所には一人で通らないように」
 そう言って、微笑むと、またサングラスを付けて、女の子の前から去った。

 女の子はその場に立ちすくみ、呆然と大男の後ろ姿を見送った。

「良かった。帰ってきた」
 後ろから声が聞こえ、振り返ると玄関に母親かいる。
 女の子はぼーっとしたまま、家に入った。

「遅かったから心配していたのよ」
「大丈夫……」
 女の子は母親に言った。
「家まで、送ってくれた人がいたから……」

「あら。彼氏?」
 母親のからかうような声に慌てて、
「違う! 知らない人……絡まれている私を助けてくれたの」

 女の子は母親に事情を説明した。
 
 母親は言った。
「お礼しなきゃね」

「うー!」
 女の子はうなった。

(名前、聞くの、忘れた……!)

 怖い、悪い人だと思い込んで、名前を聞くの忘れた!

 でも……

 女の子はサングラスを外した男の顔を思い出す。
 サングラスの下は、あんな、つぶらな可愛い目をしているなんて!

(そんなぁ……)
 女の子は後悔した。
(名前とか連絡先を聞く時間、いっぱい、あったのに……)

 女の子は、あのつぶらな優しそうな目を、もう一度思い出した。
(もう、会えないのかな……)

 その日から女の子は、大男と出会った場所近くになると、彼の姿を探すようになったが、もう彼と会うことはなかった。
 
(つぶらな目……)
 今でも女の子はときどき男の可愛い目を思い出すのだった。
(せめて写真撮ってもらえば良かった……)
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...