ショートなものを

じくぅ

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壁を駆ける盗賊

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 その街は上層と下層に分かれていた。

 権益で暮らす上層の人々と、日々を懸命に生きる下層の人々が住んでいた。

 建物は外から見るだけではっきりとわかるほど造りが違っていた。

 下層の建物はよく修繕作業が行われていた。


 ある時からこの街に盗賊が現れるようになった。

 その盗賊は上層の家々から金品を盗み、下層を通ってどこかへ消えていくのだ。

「また盗まれた!あんたたちは一体何をしていたんだ」

 上層の住人が現場を調べに来た警官に叫んでいる。盗賊に金庫の中身を盗まれたのだ。

「申し訳ありません。ヤツは空を飛ぶように壁や屋根を走っていくもので」

 昨日盗賊に入られた事実は、周辺を警備をしていた警官から得ていた。走り去る盗賊を追いかけた結果、逃げられたのだ。
 
 苦し紛れの言い訳のように聞こえるが、実際何人もの警官が目撃していた。逃走経路の壁にはその衝撃でできた破損の跡があった。

「言い訳がはいい、必ず捕まえろよ」

 憤慨しながら住人は離れていった。

「本当に壁を走っていくとは」

「追いかけるのも困難ですよ、これじゃぁ」

 地面を走ることしか手段を持たない警官たちは頭を悩ませていた。

「それにしても、こちら側の家は修繕しませんね」

 上層の家を見回しながら警官の一人はつぶやいた。
 遠く下層の方から修繕作業の音が小さく響いてきた。

「確かにな。だけど、こう毎度壊されてたんじゃ修繕するのも無駄だと感じているんだろう」
「そういうもんですかねぇ」


 しばらく盗賊と警官たちの戦いが続いた。

 罠をしかけ、下層との境で待ち伏せをし、人海戦術を用いた大捕物に発展する。

 しかしどれも見事にかいくぐる盗賊は、今日も屋根や壁を駆けていった。

 上層の家々はあちこちが傷み、盗賊が現れるまでの街並みと大きく違っていった。

「下層に入ってからの動きが段違いに良くなってるの不思議じゃないですか」

 焦りと疲れからなのか、警官の中からは泥棒を称賛するような言動を耳にするようになった。

 事実、きちんと区画整備された上層とは違い、入り組んだ街並みになっている下層の建物の並びには、ある種の迷宮のような趣すらある。

 そんな迷宮を手がかりを求めてさまよっている警官の耳に大きな声が聞こえてきた。

「よーし、ここも完璧だ」

 修繕作業を請け負っている大工の棟梁が発した声だった。
 警官が疲れた顔をそちらに向けると棟梁が声をかけてきた。

「どうした警官さん、元気がないな。泥棒に顔でも踏み抜かれたのかい」

 笑う棟梁の隣にはしっかりとした建材で修繕された家々が並んでいた。
 修繕費は匿名の寄付とのことだった。
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