そらいろ

並川たすく

文字の大きさ
3 / 6

タツ

しおりを挟む
 三度目のアラームで飛び起きるなり、寝不足の頭が痛んだ。昨日は遅くまで試験勉強をしていたが、それに加えてあの女の子のことが気になってなかなか寝付けなかったのだ。僕はため息をついて、机の上に広げっぱなしになっていた参考書をカバンに放り込んだ。

 朝食もそこそこに家を飛び出すと、外はうだるような暑さで日差しも強かった。憎らしいくらいの晴天である。単語小片手にぶつぶつと復習をしながら汗を拭う。制服が汗で肌に張り付いて不快だ。

(学校まで近いのは便利だけれど、こういう暑い日にはいっそバスや電車に乗る方が楽なんじゃないだろうか)
 学校の最寄りのバス停で、バスから降りてくる生徒を見てふと思う。僕と同じように参考書を片手に歩く者や、反対に友人と楽しそうに話している者もある。

 「どうしよう、全然勉強してないよ」などと笑い合う女子二人を抜かそうとすると、後ろから呼び止められた。
「よう」
「タツか。なんだよニヤニヤして。気持ち悪いな」
「いや、お前はああいうの嫌いなんだろうなと思って」
 ああいうの、というのはさっきの女子のことだろう。
「二人とも勉強してるくせに。女子って大変そうだよな」

「ところで今日は古文か」
 僕が持っていた単語帳を見てタツが気づいたようだった。
「そうなんだ。僕苦手なんだよね、暗記。今日は数学と古文漢文だけだから、数学は諦めたよ」
「とか言いながら数学も出来るくせに。俺は得意な試験科目なんかないぜ」
「運動できるんだからいいじゃないか、君は」

 なんだか諦めがついたような気になって、僕は単語帳を閉じた。タツといると肩の力が抜けるように思う。彼が適当な男だというわけではない。ただ、その少しガサツな物言いや粗野なところが何となく僕を安心させるのだ。

 僕はふと昨日の女の子のことを思い出してタツも会ったのか尋ねようとしたが、それを言い出す前に教室前まで来てしまい言いそびれてしまった。僕はタツと別れ、また今度聞いてみようと思い直して単語帳を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

処理中です...