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-7 『まずは第一歩』
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翌朝。
「私はシェリー=アトワイト。これからこの旅館を監修させてもらうアドバイザーとしてやって来たわ。よろしくね」
見送りのために出てきた仲居や従業員、そしてロロ達の前で、私はふてぶてしくそう言い放った。
それを聞いた彼らのほとんどが驚いた顔を浮かべていた。
それはそうだろう。
客だと思っていた女が突然、この旅館の舵取りを始めると言い出したのだ。
しかし私も受け入れてもらわなければならない。それがまず改革の一歩目なのだ。
私はなるべく小娘だと舐められないように、強めの表情を浮かべて立ち構えていた。
「いったいどういうことだい」
やはりというか、不満そうな声が従業員からあがった。仲居頭と思われる、人間の初老の女性だ。
彼女はしわ寄った眉間を深く刻ませ、隠すつもりもなく怒りの表情を浮かべていた。
「あたしは何も聞いていないよ。ハルからもロロからも」
強まった語気で私に詰め寄ってくるのを、ロロが大慌てで引き留めた。
「急ですみません、ミトさん。でも、お母さんも許可を出したんです」
「ハルさんがかい?!」
信じられないといった顔でその仲居頭――ミトが目を丸くする。
「どうしてあたしには何も……」と、ミトは引き下がってからもずっと不満そうにしていた。
まあ、そう言いたくなる気持ちは分かる。私はただの小娘だ。
「不安だと思うのは十分わかるわ。けれど私も、この旅館を本気で復興させたいと思っているのは事実。どうかみんな、私に力を貸してほしいの」
深々と私は頭を下げた。
従業員たちは困惑している様子だった。
「復興って言っても、こんな寂れた旅館をよお」
「何しても無駄だ。人なんかこねえよ」
獣人の従業員たちから弱気で投げやりな言葉が漏れ聞こえてくる。彼らの心のモチベーションは沈みきっている。ろくに仕事もなく、惰性で営業を続けている旅館の、惰性で仕事をしている人たちの本音。
そんな中、しばらくして人一倍に声を上げたのはフェスだった。
「あ、あの。私も、この旅館をお客さんでいっぱいにしたいです!」
懸命に、絞り出すように声を張って彼女は手を挙げていた。
「この旅館はとっても素敵な場所です。獣人の私達を拾ってくれた女将さんの、大切な、温かい場所です。だからここをもっと続けたい、です……」
最後は尻すぼみに弱くなっていった声だが、気持ちはしっかりと伝わった。
「……そりゃあ、続けられるならいいけどよ」と獣人の一人もそう呟く。
やはり本心としては、みんなこの旅館が好きなのだ。それでいて廃れさせたくないと思っている。
そうでなくては、旅館側としても復興させる意味がない。
「大丈夫。私が、この旅館を廃れたなんて言わせないような立派な旅館にしてあげるから!」
根拠はない。
けれど自信はある。
なぜなら、私はそれを必ずやり遂げると思いこんでいるから。
心が前を向いていなければ、未来は明るくなんてならない。輝かしい将来は奇跡だけで手に入れるものじゃない。自分から、努力をして進み続けて、ようやく手に入れられるものだ。
進もうとする一歩に愚かということはない。
「ねえ、シェリー。まずはどうするの?」
ロロが尋ねてくる。
もちろん、やらなければならないことは山ほどある。
その中で私が選んだのは――。
「まずは従業員宿舎の改築よ」
はっきりと言い放った私の言葉に、その場にいた全員が驚愕に呆けて聞き入っていた。
「私はシェリー=アトワイト。これからこの旅館を監修させてもらうアドバイザーとしてやって来たわ。よろしくね」
見送りのために出てきた仲居や従業員、そしてロロ達の前で、私はふてぶてしくそう言い放った。
それを聞いた彼らのほとんどが驚いた顔を浮かべていた。
それはそうだろう。
客だと思っていた女が突然、この旅館の舵取りを始めると言い出したのだ。
しかし私も受け入れてもらわなければならない。それがまず改革の一歩目なのだ。
私はなるべく小娘だと舐められないように、強めの表情を浮かべて立ち構えていた。
「いったいどういうことだい」
やはりというか、不満そうな声が従業員からあがった。仲居頭と思われる、人間の初老の女性だ。
彼女はしわ寄った眉間を深く刻ませ、隠すつもりもなく怒りの表情を浮かべていた。
「あたしは何も聞いていないよ。ハルからもロロからも」
強まった語気で私に詰め寄ってくるのを、ロロが大慌てで引き留めた。
「急ですみません、ミトさん。でも、お母さんも許可を出したんです」
「ハルさんがかい?!」
信じられないといった顔でその仲居頭――ミトが目を丸くする。
「どうしてあたしには何も……」と、ミトは引き下がってからもずっと不満そうにしていた。
まあ、そう言いたくなる気持ちは分かる。私はただの小娘だ。
「不安だと思うのは十分わかるわ。けれど私も、この旅館を本気で復興させたいと思っているのは事実。どうかみんな、私に力を貸してほしいの」
深々と私は頭を下げた。
従業員たちは困惑している様子だった。
「復興って言っても、こんな寂れた旅館をよお」
「何しても無駄だ。人なんかこねえよ」
獣人の従業員たちから弱気で投げやりな言葉が漏れ聞こえてくる。彼らの心のモチベーションは沈みきっている。ろくに仕事もなく、惰性で営業を続けている旅館の、惰性で仕事をしている人たちの本音。
そんな中、しばらくして人一倍に声を上げたのはフェスだった。
「あ、あの。私も、この旅館をお客さんでいっぱいにしたいです!」
懸命に、絞り出すように声を張って彼女は手を挙げていた。
「この旅館はとっても素敵な場所です。獣人の私達を拾ってくれた女将さんの、大切な、温かい場所です。だからここをもっと続けたい、です……」
最後は尻すぼみに弱くなっていった声だが、気持ちはしっかりと伝わった。
「……そりゃあ、続けられるならいいけどよ」と獣人の一人もそう呟く。
やはり本心としては、みんなこの旅館が好きなのだ。それでいて廃れさせたくないと思っている。
そうでなくては、旅館側としても復興させる意味がない。
「大丈夫。私が、この旅館を廃れたなんて言わせないような立派な旅館にしてあげるから!」
根拠はない。
けれど自信はある。
なぜなら、私はそれを必ずやり遂げると思いこんでいるから。
心が前を向いていなければ、未来は明るくなんてならない。輝かしい将来は奇跡だけで手に入れるものじゃない。自分から、努力をして進み続けて、ようやく手に入れられるものだ。
進もうとする一歩に愚かということはない。
「ねえ、シェリー。まずはどうするの?」
ロロが尋ねてくる。
もちろん、やらなければならないことは山ほどある。
その中で私が選んだのは――。
「まずは従業員宿舎の改築よ」
はっきりと言い放った私の言葉に、その場にいた全員が驚愕に呆けて聞き入っていた。
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