最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

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○1章 手汗魔王と旅立ちの朝

 -7 『それは一つの答えでした』

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 食事を続けていると、店内に小太鼓の音が響いた。

「さあさ、皆さん。今日も恒例の腕相撲大会を開催しますぜ!」

 店主の獣人がそう言うと、店内の客達は揃って大きな歓声を上げた。

「待ってたぜ」
「今日こそはやってる」

 酔っ払っていた客達が、一瞬で酔いを醒ました風に意気込み始めている。

「ねえ、なにかあるのかしら?」

 エイミが近くの客に尋ねると、その男も腕まくりをしながら血気盛んに答えてくれた。

「今から店主のおっさんと客とで腕相撲対決するんだよ。何人でも挑戦可能。しかも一人でも勝てば、今いる客の注文した料理が無料ときたもんだ」

「へー、そうなんだ」とボクが相槌を打つ。

「これのために来てる客もいるってもんよ。ただ、あのおっさんは見た目どおりの中々の豪腕でな。全員が束になっても中々適わなくて、月に一度でも勝てれば上々って具合よ」

 確かに店主の獣人は、大きな体格と、遠目でもわかるほど浮き出た並外れた筋肉を持っている。
 ボクやエイミが隣に並べば、丸太とモヤシくらいに違うかもしれない。

 腕相撲大会の概要を聞いて、顎に手を当てたエイミが感心そうに頷いていた。

「なるほど。店を賑わわせる催しでもあり、それを目当てにさせる客寄せにもなる。うまいやり口ね」
「ここを経営してる人間は商売上手で有名なんだよ。まあ、ちょっと人格には難があるって噂だけどな」

 客の男はそう笑いながら、腕相撲が行われる店の中央にまで歩み寄っていった。

 目の前に上手い餌を垂らして客を釣る。
 理に適ってはいるが、よほど腕に自信がなければ採算なんて取れないだろう。つまり、店主はそれほどに強いということだ。

「それじゃあ今から始めるぜ! 自身のある奴は順番に名乗り出ろ!」

 挑発するように獣人の店主が叫ぶ。
 その声に、俺だ、いや俺だ、と次々に返事が上がった。

 やがて一人ずつ腕相撲が始まる。
 しかしその評判どおり、店主はあっさりと挑戦者の客たちを倒していった。

 店主と同じような体格の筋肉質な男、彼異常に体格が大きい俵のように太った男。こいつならば、と挑戦者が現れるたびに客達が沸きあがるが、店主はその豪腕でことごとくを返り討ちにしていった。

「やっぱり今日も駄目なのか」と客達に弱音が見え始める。

 そんな彼らをカウンターに腰掛けて眺めながら、エイミは、

「行ってきなさいよ」とボクに言った。

「ええ、ボクが?!」
「客なら誰でも挑戦権があるみたいだし。いいんじゃない?」
「ええ、でも……」

 いいのかな、とボクは躊躇ってしまう。

 腕の太さ、いや、身体の大きさからして、まともに戦って腕相撲で勝てるはずがない。かといって、力を使ってしまうのは店主の人を苦しめることになる。

「ほら、行くわよ」

 結局、エイミに無理やり引き連れられ、腕相撲の行われている壇上へと連れられていってしまった。

「おいおい。他に挑戦者はいないのかい。今日はこれでお開きにしちまうぜ?」
「ここにいるわよ」
「おお?」

 諦めモードの漂っていた店内が微かにざわめく。

 しかし、エイミの声によって前に差し出されたボクを見て、また一瞬にして諦めモードへと戻っていった。

 なんだよ子供かよ、と落胆の声が漏れている。

 しかしエイミの顔は自信満々だ。

「本当にやるの?」
「もちろんよ。あ、ちょっと、他の人は少しだけ離れててちょうだい」

 エイミが客達を下がらせる。

 不思議そうな顔をして彼らは後ずさり、腕相撲の壇上にはボクと、手を繋いだエイミ、そして店主の獣人だけになった。

 三人を取り囲むようにして客たちが囲い込み、彼らの視線にボクは萎縮してしまいそうになる。

「坊主が相手か。いいぜ。ただし手加減はしないからよ」
「よ、よろしくお願いします」

 もはややるしかない、という雰囲気だ。
 店主が机に肘をつき、ボクも真似るように構えた。

 互いに手を掴み合う。

 明らかにボクの手よりも一回り大きくて、簡単に包み込まれてしまっている。

 いくらボクの魔法の力が強いとはいえ、筋力だけで真っ向勝負すれば勝てるはずがない。身体能力だけで見れば、ボクは普通の子供とさして変わらないのだ。
「じゃあ、いくぜ」

 にたり、と店主が微笑む。

「よーい……はじめ!」

 そう合図が送られた瞬間、ふと、ボクのもう片方の手を握っていたエイミが一瞬だけ手を離した。しかしすぐに繋ぎなおす。

「……うぅ」と店主が瞬間的に呻き声を漏らした。

 一瞬だけ解放されたボクのオーラの影響を受けたらしい。
 握りこむ指の力が緩んだのがわかり、ボクは、全身の力を目いっぱいに込めて腕を引き倒した。

「うあああああ!」と力いっぱいに叫び、目を瞑って思い切り腕を倒した。

 やけくそになって、その直後は一瞬どうなったのかわからなかった。

「マジかよ」と誰かが小さく呟いたのを聞いて、ボクは恐る恐る目を開く。

 そこには、店主の巨大な手を捻じ伏せたボクの手があった。

「うおおおおー!」と酒場内が一瞬にしてけたたましいほどの歓声に包まれた。

「やりやがった! あの坊主やりやがったぞ!」
「すげえ! どこにそんな力があったんだよ!」

 口々に称賛の声が上がる。
 だが、明らかにボクの腕力のおかげではない。制御できず漏れるオーラのせいだ。

 店主は間近でそれを受け、一瞬だけ気を遠のかせてしまっていたようだった。
 すぐにオーラも収まったので影響は少なかったらしく、倒れるほどではなかったらしい。

 おそらくエイミはそうなると把握した上でやったのだろう。それを知っているボクはいたたまれない気持ちになった。

 そんなボクの肩をエイミが叩く。

「勝ったじゃない。よかったわね」
「いや、これは……ズルだし」
「ズルじゃないわよ。貴方の力で勝ったのよ。ほら、見てごらんなさい」

 エイミが、勝利を喜ぶ客たちの歓喜の姿に目をやる。ボクもつられて彼らを見やった。

「みんな嬉しそうでしょ。あの人たちの笑顔は、正真正銘『貴方の力』でもたらされたものよ。どう、悪く使うだけが使い道じゃあないでしょ?」
「……あ」

 エイミはボクにそう言い終わると、ジョッキのお茶を一気に飲み干して天井へ掲げた。

「勝利の一杯は格別ね」

「お、嬢ちゃん。良い飲みぷりじゃねえか。もう一杯どうだ」と客の一人が気前よく声をかけてくる。かと思えば、他の客まで近寄ってきた。彼らはエイミだけでなく、ボクにまで寄ってたかっていた。

「おい坊主、すげえじゃねえか。なんだよ脳ある鷹だってか? ガハハッ」
「見直したぜ。子供って侮ってて悪かったな!」

「いやあ、気持ちがいいぜ。見たかよ、店主のあの負けたときのお顔。何が起こったかわからねえって風に阿呆面下げてたぜ」
「ありがとな、坊主。今日は気持ちよく眠れるぜ」

 客達が次々に押し寄せ、汗臭さと酒臭さに押しつぶされそうになった。

 称賛を送られる中、ボクはどう反応すればいいかわからなかった。

 こんなに多くの人に褒められたのは初めてだったからだ。
 それに、自分を殺す目的以外でこんなに誰かが近づいてきたことも初めてで、頭の中がパンクしそうなほど混乱した。

「ねえアンセル、どんな気持ち?」

 エイミが尋ねてくる。

「よくわかんない」

 けれど、これだけは言える。

「――でも悪い気持ちじゃないよ」
「そう、それはなによりね」

 祝杯で盛り上がる客たちに囲まれながら、ボクはまんざらでもなく自然に微笑んでいた。
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