最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

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○3章 手汗魔王と死者の王

 -5 『誰もが欲しがる黄金色のお菓子です』

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「ボクたちは行かなくていいのかな」
「気にはなるけれど、わざわざ面倒事に自分から顔を出す必要はないわ」

 エイミのさっぱりした言葉により、ボクたちはこのままトラッセルで一泊することにした。

「パーシェル、貴方は行かなくていいの? アンセルよりずっと謀反みたいだけど」
「ふえっ?!」

 エイミから急に話を振られて油断していたのか、パーシェルは素っ頓狂な声をあげた。

 この様子だとまったく気にしていなかったのだろう。

「パ、パーシェルはアンセルさんを監視するという重要な役目がありますから。目を離してはいけないんですよ。決して、面倒そうだなとか、ただでさえアンセルさんの監視があるのにな、とか、そんなさぼりたい気持ちからではありません」

 なるほど、わかった。
 これが天使学校主席というのだから、天使族の将来が本気で心配だ。

「わらわは足が疲れたのじゃー。いい加減、宿で落ち着きたいのじゃー」
「ずっと歩き通しでしたのです。休みたい気持ちはありますですね」

 ミレーナとリリオもすっかり気の抜けた雰囲気だ。
 先ほどの大広場に集まった男たちの熱気にあてられたせいもあるだろう。

「それじゃあ早く宿に行こうか」

 町同士のいざこざなんてボクたちには関係がない。深く関わるだけ無意味だ。

 それから町の地図を眺めながらいくつかの宿屋を探し歩いていると、突然、小さな路地から人影が飛び出してきた。小柄なそれがパーシェルとぶつかる。

「ひゃあああ、ごめんなさいおじい様! 決してさぼろうとしてたわけじゃないんですぅ!」

 パーシェルが驚き飛び跳ね、思わずボクに抱き付いてくる。
 急なことにボクは体勢を崩し、そのまま倒れこんでしまった。

 パーシェルがボクの上に圧し掛かる形になる。普段はアホっぽくて色気もないが、こうして肌身を触れれば、無駄に豊満な彼女の身体を再認識してつい意識してしまいそうになった。

 密着している胸元がやけに柔らかい。
 決してエイミでは味わえない感覚だろう。

 ――やばい、ドキドキしてまた手汗が。

 と思ったが、倒れた衝撃で、エイミと手を離してしまっていた。

 まずい。
 ボクの無差別オーラが出てしまう。

 自分自身からそれが湧き出てくるのを感じ、ボクは咄嗟にエイミの手を探して空を切る。

「う……あああああ」

 黒い靄の影響を受けてか、パーシェルが呻き声を漏らし始める。

 このままでは彼女を殺してしまう。そう思ったが、

「ごめんなさぃいいいいい! おじい様の戸棚に隠してたお菓子を食べたのはパーシェルです謝りますからー!」

 随分と思っていた苦しみ方とは違っているようだった。

「あれ?」

 エイミがすぐに手を繋いでくれて、そんなパーシェルの発作もすぐに治まる。

「……はっ、夢ですか。ついおじい様を怒らせて神のイカヅチを受ける夢を見てしまいました」

 そんな物騒な悲鳴ではなかったと思ったが。

 ふと、彼女の目の前に桐の箱が転がり落ちる。
 蓋が外れ、金色に輝く何かがばらばらに零れ落ちた。

「あわわ。駄目、これは駄目です! パーシェルのです!」

 ボクの上から飛び起き、大慌てでその零れた金色の物を掻き集める。
 這いつくばってボクたちから隠そうとする姿には余程の執念を感じさせた。

「これは絶対にあげませんよ! おじい――族長様が『パーシェルに』くださった、神の加護が与えられし神聖なものなんですから!」

 それほど重要なものなのだろうか。

 ミレーナの足元にまで一つ転がり、それを彼女が拾う。
 それは指先で摘めるくらい小さな金色の――飴だった。

 包み紙を剥がして口に放り込む。

「ぱくっ……うん、甘くて美味しいのじゃ」
「ああー! パーシェルの黄金色のお菓子がぁー!」

 この世の終わりのようにパーシェルが悲しむ。
 なんてくだらないんだ、とボクは内心呆れながら立ち上がった。

 それにしても、すぐに手を繋ぎなおしたとはいえ、パーシェルはそれほど苦痛に悶えているといった雰囲気ではなさそうだった。

 ボクたちのすぐ傍にいたリリオたちも、「なんだか急に頭が痛くなりましたです」と頭を抱えはしたものの、それほど強い影響は与えていないようだ。

「力を制御できはじめているってことなのかしら」

 エイミが言う。

 無差別で、近づくものを全て殺してきたボクの強すぎる忌まわしい力。

 それがもしエイミたちと一緒にいることで良い方向に変わってきているのだとしたら、ボクは本当に、森を出て正解だったのかもしれない。

 これを完全に制御できれば、ボクも普通に町を歩くことが出来る。
 他のみんなと変わらない、魔王とは呼ばれない生活を送ることが出来るのだ。

 その一歩目を感じ、ボクは気分よく口許を緩めた。

「……びちょびちょ」
「うわあ、ごめんなさい!」

 やはり手汗が酷くなっていて、エイミに文句を言われた。

 そんな一悶着が落ち着き、ボクたちの意識は飛び出してきた人影へと移る。

 しかしぶつかってきたのは、ただの人間の少女だった。

 尻餅をついて倒れこんでしまっていた。ボクの能力の影響を受けたのか、リリオたちと同じように痛そうに顔をしかめている。

「大丈夫でございますですか?」

 リリオが手を引いて立ち上がらせると、少女は痛みを堪えた顔で尻を擦った。

 歳はボクと同じくらいだろう。
 手入れの行き届いた綺麗な金色の長髪に、良質の生地を使った洋服。見るからに育ちのいい佇まいをしている。

 彼女ははっと気が付くと、周囲をきょろきょろと見回していた。何か焦っているのか落ち着きのない様子だ。

「どうかしましたですか」

 リリオの声に、ようやっと少女は落ち着きを取り戻していた。
 ボクたちの装いを見て、ふと彼女はまぶたを大きく持ち上げる。

「あ、あの。皆様はもしや、冒険者の方々ですか?」
「そうだけど」

 頷いたボクに、少女は改めて向き合う。
 そして礼儀正しく深くお辞儀をすると、淑やかに言った。

「私はリュン。このトラッセルを治める領主ヴリューセンの息女、リュンでございます」
「…………ええっ?!」

 驚きの声を上げたボクに、リュンと名乗る少女は大慌てで口許を押さえる仕草をした。
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