最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

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○3章 手汗魔王と死者の王

 -8 『死屍累々の戦場です』

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 ボクたちは他の男たちにも同じように飴を与えてみた。
 やはり、全員が同じように倒れこみ、生気ある色を取り戻していった。

 心臓も止まり、身動き一つしないが、まともな人間の死に姿になっている。やはり死体のまま動く屍として操られていたのだろう。

 天使族の飴によって浄化された男たちは、みな安らかな顔をして息絶えていた。

「主の導きがあらんことを」

 祈りを捧げるパーシェルの姿はいつになくに神聖に見えた。
 そんな彼女を見て、ミレーナとリリオが鼻息を荒くして興奮する。

「すごいのじゃ! その背中の羽もずっとただのコスプレだと思っていたけれど、まるで本物なのじゃ!」
「すごいのです! パーシェル様、本当に本物みたいな格好良さなのでございますです」
「本物ですよぉ!」

 だらしないパーシェルを普段見ているせいで、その気持ちもよくわかる。

「私は偉いんです。もっと敬ってください」と調子に乗るパーシェルを余所に、エイミは深刻そうに考え耽る。

「死者を操る魔術。隣町の異変。これはただ事ではなさそうね」

 ボードの町で何かが起こっている。それは間違いなさそうだ。
 その真相を確かめるためにも、ボクたちは急いで向かうことにした。

   ◇

 城塞都市であるボードの入り口では、トラッセル軍と傭兵たちが立ち往生しているようだった。

 しかし彼らを阻むのは強固な門だけではない。彼らの前を、まるで壁のようにずらりと立ち並ぶ肉壁が立ち塞がっていた。

 その人数は百、いや二百はあるだろうか。

 まるで軸をなくした人形のように、地につけた足から上をゆらゆら揺らしている。その動きに生気はなく、みな、虚ろな瞳をぎらりと鈍く光らせていた。

 ――死人兵。

 ろくに鎧も持たされず、簡素な農耕用の鍬や鋤などを片手に歩いてくる姿は、到底戦場にいるべきそれではない。おそらくボードの市民も混じっているのだろう。しかしその軟弱な彼らは、痛みすら厭わぬ不屈の猪兵として歩を進めている。

「なんなんだ、こいつらは!」
「倒しても倒しても立ち上がってくるぞ」

 動揺と焦りが、交戦を始めたトラッセル軍に広がっていく。

 いくら剣を向けようが、その刃で身を切り裂こうが、目の前の彼らは全身を諦めることなく続けてくるのだ。

 その奇妙さに、先陣を切って突撃していった傭兵達は士気を砕く勢いで尻込みしてしまっていた。

「おいおい。こんなやつら、どうやって止めるんだよ」
「とにかく斬るしかないってのか?」
「そう何回も来られちゃ、すぐに刃が鈍っちまうぞ」

 切り払えど切り払えど絶えない死人兵の群れ。しかしそんな彼らへ豪炎が突き刺さる。最後に控えているトラッセル軍の魔術師の魔法攻撃だ。

 巨大な火球が地を這うように突き進み、死肉の壁の一点を突き破る。

 戦術で持ちいれるほどの魔法を使える魔術師は貴重な存在だ。そのレベルの魔術師がトラッセル軍には複数人おり、そのあたり彼らの戦力は十分と言える。

 属性魔法。

 いたるところで火球が飛び交い、水流が地を走り、鋭い風が空を切る。

 しかし立ち塞がる死人兵たちは、たとえ四肢がもげても前進をやめないでいた。
 一方的に蹂躙できる魔法といえども、使用には体力的精神的にも限界がある。

 無尽蔵のように押し寄せてくる死人兵を前に、トラッセル軍は次第に苦戦を強いられ始めているようだった。

「こいつら、ちっともくだばりやがらねえぞ!」
「なんだよこれ、聞いてねえ。こんなバケモンと戦わされるなんて聞いてねえぞ!」

 必死の叫びが各所で噴出する。
 戦闘力こそはるかに凌いでいるが、このままではその優位が覆るのも時間の問題だろう。

 そんな中、土煙の舞う戦場に、白く輝く歯が一列。

 ユーなんとかだ。

「ええいっ。なれば俺様の、魔獣すら屠ったと後世まで伝える超必殺技をくらわせてやるぜ! くらえ、瞬間超電磁魔法ぉぉぉぉ!」

 両膝を曲げ、左右に四十五度ずつ開き、やや屈んだ体勢で、指を組んだ両手を人差し指だけ伸ばしながら思い切り突き出す。瞬間、ユーなんとかの指先から飛び出した鋭い雷撃魔法が死人兵たちを貫いていった。

 きりっと眉を持ち上げて悦に浸るユーなんとか。
 しかし部分的に四肢を焼かれた死人兵たちは、残った手足を這わせながらそれでも前へと進んでくる。

 一瞬でユーなんとかの顔が青ざめた。

「ひぃぃぃ。やべぇよこいつら! ……うわぁっ?!」

 いつの間にか背後に忍び寄られ、ユーなんとかの腕に死人兵が掴みかかる。
 その冷たさと腐肉のぬめりに、ユーなんとかは悲壮な顔を浮かべて振り払う。

「たすけてぇ、こわいよママぁぁぁぁ!」

 上擦った情けない悲鳴は、土臭い戦場の端までも清々しいほどよく響いていた。

   ◇

 そんな混沌とした戦場を、ボクたちは少し離れた小丘から眺めていた。

「随分と洒落にならない地獄絵図ね」

 エイミが引き笑う。
 リリオの尻尾に抱きつきながら後ろに隠れて覗き見ているミレーナは、すっかり足を震わせて怖気づいている様子だ。

 それも仕方ないだろう。
 並みの少女が見るには凄惨すぎる。

「町の中はいったいどうなっているんだろう」

 ボクは町の方を見たが、町全体を囲う高い城壁に阻まれ、中の様子は窺うことができなかった。

「中で何かが起こっているのは間違いないわね。おそらく、この状況を作り出した原因もそこに」
「どうしますですか?」

 リリオの問いに、エイミは訝しげに首を捻る。

「おそらくあの死人兵たちはボードの町の住民なのでしょうね。そう考えると、数からしてそのほとんどがあの戦場に出ているんじゃないかしら」
「じゃあ町の中はほとんどもぬけの殻なのかも」

 ボクの言葉にエイミが頷く。

「それに、いくら死んでるから思考能力がないとはいえ、開けた平原にわざわざ出て戦わせるなんて理に適っていないわ。歩みの遅い彼らをただ的にさせているだけのようなものよ」

 言われてみるとその通りだ。

「効果的に使うのならば、町の中に敵を引き込んで、狭い場所から急襲するほうがはるかに効果的だと思うわ。それをしないということは――」

「そもそも町の中に入れたくないってこと?」
「もしくは、死人兵の戦闘能力そのものを推し量ろうと試しているのか、というところかしら」

 その両方であるのかもしれない。
 しかしどれも憶測でしか過ぎないものだ。

「確かめてみる必要がありそうね。ちょっと、パーシェル」
「――はいっ?!」

 後ろでこそこそしていたパーシェルが、急に声をかけられビクリと震える。

 手元には桐の箱。
 手と口の中にはたくさんの黄金色の飴。

 むしゃむしゃと口に入れ、隠れながら食べているところを見られ、彼女の額に冷や汗が流れる。

「い、いや、これはですね?! 決して、誰かのために使われてしまうのならその前に自分で食べてしまおうだとか、そんな浅はかな考えを持っていたわけではなくてですね?!」

「……没収よ」
「そんなぁ?!」

 無慈悲なエイミの一言に、パーシェルは白い翼をしょんぼりとたたんで落涙していた。
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