最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

文字の大きさ
41 / 69
○3章 手汗魔王と死者の王

 -10『死者を統べる男です(前)』

しおりを挟む
 さすがにこの町の要地であるせいか、町中の閑散さに比べ、敷地内の死人の数は多かった。

 戦闘力こそないおかげで撃退は容易いものの、戦いに不慣れながらも前衛を張ってくれているリリオとミレーナの体力消耗も激しい。

 パーシェルの飴も残り少なくなっていた。カラカラと桐の箱から聞こえる少ない雨の音に、パーシェルは相変わらず大粒の涙を流している。

 こういった時にボクが役に立てないのが口惜しい。

 数の多さに手間取ったもののどうにか建物にまでたどり着き、ボクたちは中へと入った。

 宮殿のような広々とした廊下を駆け抜ける。その先に、死人が多く守っている大きな扉を見つけ、死人たちを払いのけてその部屋へと飛び込んだ。

 そこは真っ暗だった。

 おそらくダンスフロアだろうか。
 天井は高く、シャンデリアが微かな明るさを反射して頭上に煌いている。床には、部屋全体に及ぶほど大きな魔法陣が描かれていた。

 ただならぬ様子であるのは明白だ。
 まるで魔術結社が儀式でも執り行っているかのような禍々しさがある。

 その部屋に描かれた魔法陣の真ん中に、椅子座る人の姿を見つけた。

 精緻な装飾の施された礼服に、首元には領主の証である襟章をつけた白髪の男。

 おそらくこの館の主、アイルドだろう。
 しかし彼はずっと背にもたれかかり、眠りこくった風に顔を伏せている。

 恐る恐る様子を窺いながら、ボクたちはダンスホールへと足を踏み入れた。

 ふと、青白い炎が燭台に浮かび上がり、部屋を薄明るく照らし出した。

「困るんだよ。計画にないことをされては」

 低く渋い声が響く。
 しかしそれはアイルドから発せられたものではなかった。

「余計な些事が入らぬよう、野にいる荒くれどもを金でまとめて束ねておいたというのに。この町の昨今の様子を聞けば、冒険者が物見遊山で立ち寄るようなものでもないだろう」

 靴底が小気味よく床を叩く音と共に、ダンスホールの奥からゆっくりと何者かが現れる。

「どうしてここに……ヴリューセンが」

 そこにいたのはまさしく、町の外で兵たちを率いているはずのトラッセルの領主ヴリューセンだった。

 そういえば、確かに町の外での戦闘を眺めた時、彼の姿を見つけられなかった。遠方から指揮をとっているのかと思っていたが、まさかこんなところにいるとは。

「どうしてというのはむしろこちらが聞きたいね。何故きみたちがこんなところにいるのか」

 不敵な表情で彼は言う。落ち着き払った声だ。
 しわのよった目許を動かし、ふと、ボクたちの中のパーシェルに気づいた。

「なるほど、天使族か。もう下界人たちの争いの仲介に来たというのかね? それとも……私に用事である、とかかな?」
「ふえっ?!」

 凄みのある睨みを向けられ、パーシェルは素っ頓狂に驚く。

 急に矢先を向けられ、思いも寄らぬといった風に豆鉄砲を食らっていた。きょろきょろと辺りを見回しているが、天使族の羽が生えた人なんてここには彼女しかいない。

「わ、私ですか……。私はただ、アンセルさんを監視していてたまたまここに……」

「ははっ、またわかりやすい冗談を。天使族という連中というのは、たとえ眠りの最中でも目の前の争乱を知れば見過ごせぬほどの者達であろう。争いを見れば何よりも真っ先に止めに入る。それが天使族だ。外で凄惨な戦が行われているというのに、このような場所に偶然立ち寄るはずがない」

「そ、それは……」

 パーシェルは言葉に詰まっていた。

 本気で「私は巻き込まれただけなんです。関わりたくなかったんです」と言わんばかりにイヤな顔を浮かべている。ヴリューセンの言っている天使像と随分印象が違うのだが大丈夫だろうか。

 本当に心配だ。主に天使族の未来が。

「やはり私の目論見を嗅ぎつけていたというわけか。なにやら私を嗅ぎまわっている連中がいて用心はしていたというのに。いやはや、万事うまくいっていた思っていたのだが、難しいものよ」

 目論見もなにも、パーシェルはいったい何のことだかわかっていないし、もちろんボクやエイミたちにもわかっていない。けれど、何故かわかっている体で話が進んでいるようだ。

「え、どういうこと」
「ちょっと黙っていなさい」

 純粋なボクの疑問もエイミに制される。

 調停者である天使族が自分たちのところにやって来た。これは悪事を知っててやって来たに違いない。もはや隠しておくだけ無駄だと判断した。

 そういうことだろうか。

 ――いや、本当にたまたま来たんですけど。全然事情を把握できてないんですけど。とはとてもじゃないが言い出しづらい状況だ。

 どうやら雰囲気的に、あのヴリューセンが何か企んでいるのは間違いないようだった。だが、その実態などまったくわかっていないし、想像も付かない。

 しかもそれに悪乗りするかのように、

「その通り、あなたの目論見はもうまるっとお見通しよ」とエイミが言葉を続けてしまった。

「……いやいや、なにしてんのさ」
「……自分から喋ってくれてるならちょうどいいじゃない」

 確かにその通りだけど、置かれている状況の不自然さに気まずくなる。

「私たちは行方不明になったと言われる貴方の娘リュンに出会ったわ。彼女によると、貴方の様子はおかしい、と。自分を幽閉し、兵を挙げて隣町に戦を仕掛けるだなんて、それはおかしいと言われても仕方がないわよね」

「……なるほど。実の娘と中途半端に生かしてはおかず、二度と屋敷から出れぬようにしておくべきだったか」

 ヴリューセンがそう冷たく言い払い、彼にぞっとするような恐怖を覚えた。

「そもそも、別にリュンでなくてもよかったのだ。トラッセルがボードに攻め込む口実を作れればそれでよかった。なんなら侵略と言う強攻策でも。とにかく死人兵どもの実践投入による軍事情報を得られればそれで十分だったのだよ」

「まさかわざと死人兵たちにぶつけたのか?!」

 ボクはつい驚きの声を上げてしまったが、エイミは反して冷静に受け止めていた。もしかするとある程度予想が付いていたのかもしれない。

「傭兵まで雇って随分と熱心なものね。その情報収集に」

「これから必要なことではあるからな。兵というものは消耗品だ。再利用ができれば効率も上がろう。しかし天使族に嗅ぎつけられたのでは、もうこの地での実験は終わらなければならないな。なあに、此度の戦いで私の軍がここにたどり着けないあたり、なかなか随分苦戦しているようではないか。死人兵たちの有用性は実証されたというものよ」

 まるで人を物としてしか見ていないような言葉だ。

 最低だ、とボクは奥歯を噛み締めた。

 死人兵の軍事的利用の情報集め。たったそれだけのために、ボードという町をひとつ丸々死人の町に変え、傭兵や私兵たちと戦わせている。

 狂っている。

「大変だったよ。この計画を提案してもアイルドは一向に首を立てに振ろうともせんからな。まあ、領地の民の命を差し出せといえば断るのも無理はないが。だからこそ、このボードを無理やり乗っ取り、死人兵どもの実験場へと変えてやった。アイルドももはや、私の傀儡よ」

 椅子に座ったままのアイルドの身体を、ヴリューセンが椅子ごと蹴りつける。アイルドの身体は力なく簡単に椅子から崩れ落ちていった。

 そんな彼の四肢に、ヴリューセンは指先を向ける。
「……○○××」

 呟くような詠唱。
 途端、彼の右手首が怪しく光を放ち始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...