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12話
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「その子が、ノエルの選んだ子か」
「うん。シス」
ノエルが、ノルンコールに行ってから、3日。
連れて帰ってきた少女は、目の下に隈があり影はあるが、体は健康そうな少女だ。
ノエルにシスと呼ばれた少女は、自分より小さなノエルに隠れるようにして、親指をしゃぶりながらこちらを見ている。
「個性的な子だな。珍しく健康そうだし」
パルメと偵察型ナノマシンから送られてくる街の様子では、いいところの子供でもない限り、やせ細っている子ばかりだったはずだ。
シスは、ここに連れてくるまでに、ノエルに洗われ着飾られたのだろう艶やかな、床までつきそうな黒髪を揺らして、真新しい黒のセーラー服を着ている。
「人を食べてたから」
「え? あー、まぁ、そういうこともあるのか? しかし、病気とかは?」
「ナノマシンが健康に保つ。心は壊れてるけど」
なるほど、だから体は健康そうなのに、心が健康じゃないから幼い仕草に、影があるのか。
人を食べていたということに衝撃を受けたが、そちらはパルメの調査の中でもあったことだ。
街は多死多産、栄養は足りず、しかし、死体処理は徹底しなければ疫病が流行るという知識はある。
アーコロジー内は循環社会で、人の死体までもが活用先がある。
ナノマシンで病気にもならないとなれば、そこに禁忌感はそこまでないのかもしれない。
ただ、それにありつくまでの障害を考えると、手を出すものが少ないというだけで。
「シス。ご主人様に挨拶」
「んんっ、シスはシス。ご主人様。よろしく」
ノエルに前に出されてもじもじとして、こちらをあまり見ずにシスがあいさつをする。
その動作はまるっきり人見知りの子供のそれだ。
「よろしくシス。そうだ、いいものをあげよう」
俺は、シスの歓心を買うために手の中にウサギのぬいぐるみを創り出す。
「う? っ!? なに、なにそれ!」
「ウサギのぬいぐるみだよ」
「ウサギ! ウサギ! ぬいぐるみ!」
近づいてきたシスに、ぬいぐるみを渡す。
「ふわふわ。ふわふわ。むぐっ……ぺっぺっ」
しきりにぬいぐるみを触って、抱きしめたり撫でたりした後に、シスはそれを口に含んだ。
なんでも口に入れようとするなんて、子どもどころかまるで赤ん坊だ。
「シス。ご主人様にお礼して」
「ご主人様。ありがとう」
むぎゅむぎゅとぬいぐるみを抱きしめて、いまだに口に含んだりしているが、気に入ったのかシスが嬉しそうにお礼を言ってくれた。
あげた甲斐があるというものだ。
「紋章の基本形はできてる」
手の中に基本形となった紋章が投影される。
ノエルがノルンコールにいる間に、通信で2人で相談しながら作った紋章である。
これを基本として、個性を付け足したものを、それぞれの紋章として採用する予定だ。
「私は、個性が少ない。これをこのまま使用することが個性」
そう言って、ノエルはそれを自分の右頬に刻む。
「シス。ウサギは気に入りましたか?」
「うん」
「ならば、シスの紋章は兎耳にしましょう。手を出しなさい。チクっとしますよ」
テキパキと、ノエルはシスの左手を差し出させて、その左手の甲に紋章を刻む。
基本形の紋章に、兎耳の文様が付けたされた紋章だ。
「……」
上に向けて手をかざして、その手の甲を眺めるシス。
しばらく眺めて満足したのか、手を下ろして、そのまま親指をしゃぶり始める。
親指のしゃぶり癖があるからか、手の甲がこちらに向いて、紋章が目立つところに来る。
「上出来」
「ん」
紋章を刻むときに、ナノマシンを弄るため、痛みが走るはずなのだが、とくに暴れることもなかったシスの頭を撫でるノエル。
本当はパルメの弟子であるミアに先に刻みたかったが、ノエルと作った出来立てであり、それを刻む相手も丁度いたのだから、シスが先になったのは仕方ないだろう。
「うん。シス」
ノエルが、ノルンコールに行ってから、3日。
連れて帰ってきた少女は、目の下に隈があり影はあるが、体は健康そうな少女だ。
ノエルにシスと呼ばれた少女は、自分より小さなノエルに隠れるようにして、親指をしゃぶりながらこちらを見ている。
「個性的な子だな。珍しく健康そうだし」
パルメと偵察型ナノマシンから送られてくる街の様子では、いいところの子供でもない限り、やせ細っている子ばかりだったはずだ。
シスは、ここに連れてくるまでに、ノエルに洗われ着飾られたのだろう艶やかな、床までつきそうな黒髪を揺らして、真新しい黒のセーラー服を着ている。
「人を食べてたから」
「え? あー、まぁ、そういうこともあるのか? しかし、病気とかは?」
「ナノマシンが健康に保つ。心は壊れてるけど」
なるほど、だから体は健康そうなのに、心が健康じゃないから幼い仕草に、影があるのか。
人を食べていたということに衝撃を受けたが、そちらはパルメの調査の中でもあったことだ。
街は多死多産、栄養は足りず、しかし、死体処理は徹底しなければ疫病が流行るという知識はある。
アーコロジー内は循環社会で、人の死体までもが活用先がある。
ナノマシンで病気にもならないとなれば、そこに禁忌感はそこまでないのかもしれない。
ただ、それにありつくまでの障害を考えると、手を出すものが少ないというだけで。
「シス。ご主人様に挨拶」
「んんっ、シスはシス。ご主人様。よろしく」
ノエルに前に出されてもじもじとして、こちらをあまり見ずにシスがあいさつをする。
その動作はまるっきり人見知りの子供のそれだ。
「よろしくシス。そうだ、いいものをあげよう」
俺は、シスの歓心を買うために手の中にウサギのぬいぐるみを創り出す。
「う? っ!? なに、なにそれ!」
「ウサギのぬいぐるみだよ」
「ウサギ! ウサギ! ぬいぐるみ!」
近づいてきたシスに、ぬいぐるみを渡す。
「ふわふわ。ふわふわ。むぐっ……ぺっぺっ」
しきりにぬいぐるみを触って、抱きしめたり撫でたりした後に、シスはそれを口に含んだ。
なんでも口に入れようとするなんて、子どもどころかまるで赤ん坊だ。
「シス。ご主人様にお礼して」
「ご主人様。ありがとう」
むぎゅむぎゅとぬいぐるみを抱きしめて、いまだに口に含んだりしているが、気に入ったのかシスが嬉しそうにお礼を言ってくれた。
あげた甲斐があるというものだ。
「紋章の基本形はできてる」
手の中に基本形となった紋章が投影される。
ノエルがノルンコールにいる間に、通信で2人で相談しながら作った紋章である。
これを基本として、個性を付け足したものを、それぞれの紋章として採用する予定だ。
「私は、個性が少ない。これをこのまま使用することが個性」
そう言って、ノエルはそれを自分の右頬に刻む。
「シス。ウサギは気に入りましたか?」
「うん」
「ならば、シスの紋章は兎耳にしましょう。手を出しなさい。チクっとしますよ」
テキパキと、ノエルはシスの左手を差し出させて、その左手の甲に紋章を刻む。
基本形の紋章に、兎耳の文様が付けたされた紋章だ。
「……」
上に向けて手をかざして、その手の甲を眺めるシス。
しばらく眺めて満足したのか、手を下ろして、そのまま親指をしゃぶり始める。
親指のしゃぶり癖があるからか、手の甲がこちらに向いて、紋章が目立つところに来る。
「上出来」
「ん」
紋章を刻むときに、ナノマシンを弄るため、痛みが走るはずなのだが、とくに暴れることもなかったシスの頭を撫でるノエル。
本当はパルメの弟子であるミアに先に刻みたかったが、ノエルと作った出来立てであり、それを刻む相手も丁度いたのだから、シスが先になったのは仕方ないだろう。
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