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チャプター1 銀髪碧眼幼女、LTAS(エルターズ)に立つ
021 オマエ、名前なんだっけ?
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ヘーラーは「うー……」とうねる。そんなに酒が飲みたいのか。
「わかったな? じゃ、シャワー浴びて上に来い。体臭は大事だからな」
そういい、ルーシはようやく上の階へ上がっていく。
「よォ、説得できたのか?」クールは怪訝そうな顔だ。
「まあな。渋々といった感じだが、やはり酒が飲めないというのがひびくらしい」
「よくわからんな。なにかを成し遂げたときに飲むからうまいのであって、普段から浸かっていたら楽しみも消えるだろうに」ポールモールはそう言った。
「アイツはすこし違うんだよ。なにかに依存していねェと心が粉々になるんだ。たぶんな」
「一応姉妹だもんな?」クールは嫌味ったらしい。
「ああ……アイツの弱さはよくわかる。私もそうだったからな」
ルーシの昔とは、酒と煙草とクスリだ。ヘーラーと比べれば悲壮感こそ違えど、なにかに依存していないと苦しくて仕方がないという気持ちはわかる。ヘーラーもおそらくは天界人という人間界とは違う世界で暮らしてきたと考えれば、この淀んだ人間の世界へ来てストレスが溜まっているのだろうと。
「だが、学校に入ればすこし変わってくるだろ? 私もろくに学校なんて行った記憶ないし、年齢だって離れているが、なにかに属していればわかることもあるはずだ。裏じゃスターリング工業のCEO。表じゃ学生。素晴らしいじゃないか」
「だな……」クールはニヤッと笑う。
「ま、ヘーラーがしっかりシャワーを終えるまですこし時間が空く。ちょっとこれからのスターリング工業について話し合おう」
*
「──雅ってヤツはサクラ・ファミリーを掌握したと」
「ああ。だが、アニキだけでなく、CEO当人にも会わせろとやかましい。どうする?」
「この姿で会ったら舐められるだけだろ。だが、いつかは謁見してやらねェとな。どっちが上かちゃんとわからせる必要がある。ま、どうしてもうるせェんなら仕事用の携帯に連絡してこい。適当なところで向かう」
「わかった。で? その盃ってのは近いうちにやるのか?」
「まーな。私とクールは義姉弟。そして悪いが、オマエは子ということになる。部下どもの前じゃ敬語使ってくれ。別にこういったところでタメ語なのは咎めないからよ」
「わかってるさ。アニキがオマエと同格なら、文句はいわない」
「つっても、姉弟ってのは姉と弟って意味だけどな。10歳のガキの弟になるって意味わかんねェぜ。おれもう32歳なのによ」
「言葉のあやだ。私が男だったら兄弟っていってどっちが兄なのかわからなくするが、そうもいかないだろ? とにかく、気にするな。まあ、気にしていねェだろうがな」
「ああ、親になったり弟になったり……もう気にする余地もねェ」
そんなことを話していると、ようやくヘーラーが現れた。
──相変わらず痴女みてェな格好だな。服買いに行くとき、いっしょにつれていけばよかった。こんなのといっしょにいたら、こっちまでビッチだと思われそうだ。
と、感じたのはルーシだけでなかったらしい。
「えーと……なんだっけ。名前忘れたわ。まァ良い。オマエそんな格好で外出るの?」
クールは珍しく怪訝そうな顔をしていた。それにうなづくはポールモール。
確かに、ヘーラーの格好は異常だ。腹が見えるシャツらしき服に、前世を思い出すかのような短い青いスカート。他は靴だけ。チアガールですらもうすこし露出度は低いだろう。
「え? 私のいた世界ではこんな服装が普通なんですけれど……」
「……おれらは男だ。だからスーツを着る。ルーシはガキの見た目だが、一応スーツを着てる。これがロスト・エンジェルスの正装だからな。でも、オマエの場合、正装どころか売春婦じゃねェか。しかも髪色ピンク。ポーちゃん、ヘアカラースプレーと女物のスーツ用意できる?」
「ええ、子分に取りにいかせることはできます」
「すこし待つかァ……。待ってばっかだな」
*
そんな待ってばかりの人生を過ごす無法者と天使は、手にした女物のスーツと金髪に染め上げる1日限りのスプレーを部下から渡され、ヘーラーへ速攻で着替えるよう命じる。
「終わりました……。やはり髪がピンクじゃないのが馴染みませんね……」
「いや、随分まともになった。シャワー浴びてるからニオイもねェし、口臭もない。もしも姉弟の姉みたいな立ち位置じゃなきゃ、ナンパしてたかもな」
髪色ひとつ変えただけでこのいわれよう。この国におけるピンク色の髪の毛というのは、自分からガバガバだと認めているものなのかもしれない。いや、それ以上だろう。
「……そんなにピンク色の髪っておかしいんですか? ロスト・エンジェルスだって、金髪・茶髪・黒髪・赤髪・青髪・緑髪・紫髪・銀髪・白髪っておおきく分類されると思うんですけれど」
「ああ、この国のヤツらはみんな髪色豊かだな。ブリタニカとかガリアは金・茶・黒、まれに白しかいねェのに。でもな、おれが生まれたときからピンクに生まれたヤツはみんな髪を染めてるんだよ。色はなんだって良い。けど染めないといじめられるかもしれない可能性すらあるんだ。それに……試験で合格点とれても、ピンクなんて受からねェぞ?」
(ひでェいわれようだな。まァ確かに街へはピンク色はいなかったし、キャメルもそういっていたしな。たぶんそういうルールなんだろう)
「郷に入っては郷に従えってな。私もオマエの名前忘れたが、とりあえず金髪で試験受けろ。受からなかったら元も子もない」
「え、え……ルーシさん、クールさん、嘘ですよね? こんなに関わりのある美人の名前を忘れるわけないですよね? そ、そうだ。ポールモールさんは私の名前いえますか?」
ポールモールは思わず目をつむった。そして手で額を隠し、おおきくため息をつき、首を横に振り、やがて心底いいにくそうに言葉をつなぐ。
「……悪い。おれもオマエの名前が思い出せない。アニキと違って人の名前を覚えることはできるんだが、それでもな」
「わかったな? じゃ、シャワー浴びて上に来い。体臭は大事だからな」
そういい、ルーシはようやく上の階へ上がっていく。
「よォ、説得できたのか?」クールは怪訝そうな顔だ。
「まあな。渋々といった感じだが、やはり酒が飲めないというのがひびくらしい」
「よくわからんな。なにかを成し遂げたときに飲むからうまいのであって、普段から浸かっていたら楽しみも消えるだろうに」ポールモールはそう言った。
「アイツはすこし違うんだよ。なにかに依存していねェと心が粉々になるんだ。たぶんな」
「一応姉妹だもんな?」クールは嫌味ったらしい。
「ああ……アイツの弱さはよくわかる。私もそうだったからな」
ルーシの昔とは、酒と煙草とクスリだ。ヘーラーと比べれば悲壮感こそ違えど、なにかに依存していないと苦しくて仕方がないという気持ちはわかる。ヘーラーもおそらくは天界人という人間界とは違う世界で暮らしてきたと考えれば、この淀んだ人間の世界へ来てストレスが溜まっているのだろうと。
「だが、学校に入ればすこし変わってくるだろ? 私もろくに学校なんて行った記憶ないし、年齢だって離れているが、なにかに属していればわかることもあるはずだ。裏じゃスターリング工業のCEO。表じゃ学生。素晴らしいじゃないか」
「だな……」クールはニヤッと笑う。
「ま、ヘーラーがしっかりシャワーを終えるまですこし時間が空く。ちょっとこれからのスターリング工業について話し合おう」
*
「──雅ってヤツはサクラ・ファミリーを掌握したと」
「ああ。だが、アニキだけでなく、CEO当人にも会わせろとやかましい。どうする?」
「この姿で会ったら舐められるだけだろ。だが、いつかは謁見してやらねェとな。どっちが上かちゃんとわからせる必要がある。ま、どうしてもうるせェんなら仕事用の携帯に連絡してこい。適当なところで向かう」
「わかった。で? その盃ってのは近いうちにやるのか?」
「まーな。私とクールは義姉弟。そして悪いが、オマエは子ということになる。部下どもの前じゃ敬語使ってくれ。別にこういったところでタメ語なのは咎めないからよ」
「わかってるさ。アニキがオマエと同格なら、文句はいわない」
「つっても、姉弟ってのは姉と弟って意味だけどな。10歳のガキの弟になるって意味わかんねェぜ。おれもう32歳なのによ」
「言葉のあやだ。私が男だったら兄弟っていってどっちが兄なのかわからなくするが、そうもいかないだろ? とにかく、気にするな。まあ、気にしていねェだろうがな」
「ああ、親になったり弟になったり……もう気にする余地もねェ」
そんなことを話していると、ようやくヘーラーが現れた。
──相変わらず痴女みてェな格好だな。服買いに行くとき、いっしょにつれていけばよかった。こんなのといっしょにいたら、こっちまでビッチだと思われそうだ。
と、感じたのはルーシだけでなかったらしい。
「えーと……なんだっけ。名前忘れたわ。まァ良い。オマエそんな格好で外出るの?」
クールは珍しく怪訝そうな顔をしていた。それにうなづくはポールモール。
確かに、ヘーラーの格好は異常だ。腹が見えるシャツらしき服に、前世を思い出すかのような短い青いスカート。他は靴だけ。チアガールですらもうすこし露出度は低いだろう。
「え? 私のいた世界ではこんな服装が普通なんですけれど……」
「……おれらは男だ。だからスーツを着る。ルーシはガキの見た目だが、一応スーツを着てる。これがロスト・エンジェルスの正装だからな。でも、オマエの場合、正装どころか売春婦じゃねェか。しかも髪色ピンク。ポーちゃん、ヘアカラースプレーと女物のスーツ用意できる?」
「ええ、子分に取りにいかせることはできます」
「すこし待つかァ……。待ってばっかだな」
*
そんな待ってばかりの人生を過ごす無法者と天使は、手にした女物のスーツと金髪に染め上げる1日限りのスプレーを部下から渡され、ヘーラーへ速攻で着替えるよう命じる。
「終わりました……。やはり髪がピンクじゃないのが馴染みませんね……」
「いや、随分まともになった。シャワー浴びてるからニオイもねェし、口臭もない。もしも姉弟の姉みたいな立ち位置じゃなきゃ、ナンパしてたかもな」
髪色ひとつ変えただけでこのいわれよう。この国におけるピンク色の髪の毛というのは、自分からガバガバだと認めているものなのかもしれない。いや、それ以上だろう。
「……そんなにピンク色の髪っておかしいんですか? ロスト・エンジェルスだって、金髪・茶髪・黒髪・赤髪・青髪・緑髪・紫髪・銀髪・白髪っておおきく分類されると思うんですけれど」
「ああ、この国のヤツらはみんな髪色豊かだな。ブリタニカとかガリアは金・茶・黒、まれに白しかいねェのに。でもな、おれが生まれたときからピンクに生まれたヤツはみんな髪を染めてるんだよ。色はなんだって良い。けど染めないといじめられるかもしれない可能性すらあるんだ。それに……試験で合格点とれても、ピンクなんて受からねェぞ?」
(ひでェいわれようだな。まァ確かに街へはピンク色はいなかったし、キャメルもそういっていたしな。たぶんそういうルールなんだろう)
「郷に入っては郷に従えってな。私もオマエの名前忘れたが、とりあえず金髪で試験受けろ。受からなかったら元も子もない」
「え、え……ルーシさん、クールさん、嘘ですよね? こんなに関わりのある美人の名前を忘れるわけないですよね? そ、そうだ。ポールモールさんは私の名前いえますか?」
ポールモールは思わず目をつむった。そして手で額を隠し、おおきくため息をつき、首を横に振り、やがて心底いいにくそうに言葉をつなぐ。
「……悪い。おれもオマエの名前が思い出せない。アニキと違って人の名前を覚えることはできるんだが、それでもな」
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