キンレンカ-幼女転生の殺し屋の成り上がり(リスタート)-

東山統星

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第一幕 キラー・クイーン

005 強引な株価操作へ

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 姉は、テーブルに置かれた札束と、血の匂いが微かに残るサーシャの姿を交互に見て、震え上がった。

「さ、サーシャ。アンタ一体なにを━━」
「お姉ちゃん」サーシャは静かに、しかし有無を言わせぬ響きで遮る。「お父さんは死んだ。お母さんは捕まった。私たちはふたりきり。このカネがどこから来たかなんて、いちいち詮索しないほうが良いよ」

 姉は怯えながらも、サーシャの翠の瞳に宿る異様なまでの覚悟に押し黙る。それは8歳の少女が浮かべる表情ではなかった。

「お姉ちゃんは、お母さんが帰ってくるまで家を守れば良い。その間、私はカネを稼ぐ。それだけだよ」
「で、でも……」
「大丈夫」サーシャは、その小さな手で姉の手を握った。その手は、裏路地で硝煙にまみれていたとは思えないほど柔らかかった。「お姉ちゃんは、私が守る」

 その言葉に、姉は再び泣き崩れた。だが、それはもはや絶望だけの涙ではなかった。

 *

 数日が過ぎた。 サーシャが稼いできた「仕事」の報酬で、姉との生活はひとまず安定した。
 冷蔵庫は満たされ、滞納していた光熱費も支払われた。姉は少しずつ落ち着きを取り戻し、慣れない手つきで家事をこなしている。 
 その日、サーシャは買い出しの帰り道、あの日と同じイーストAsの薄汚れた路地を歩いていた。両手には、8歳の身体には不釣り合いなほど重い買い物袋をぶら下げている。

(さて、次の〝仕事〟を探さねぇと。カネはいくらあっても足りねぇ)

 そんなことを考えていると、不意に視界の隅に気配が映った。 サーシャは買い物袋を降ろさず、気配の主を睨む。 ゴミ箱の影に、少年が一人立っていた。

「やぁ。クール・ファミリーの金庫番さん」

 切り揃えられた黒髪。病的なまでに白い肌。そして、一切の感情を映さない情熱のバラのような瞳。10歳にして、クール・ファミリーの金庫番を務める切れ者リオがいた。
 彼はあの日のように、ただ静かにジッとサーシャを見つめていた。

「なんの用だい? デートでもしたいの?」

 サーシャが挑発的に言うと、リオはその薄い唇をわずかに動かした。

「……随分重たそうだ」
「見ての通り」
「……持ってやる」

 リオはサーシャに近づくと、その小さな手で、サーシャの持っていた買い物袋の片方をヒョイと持った。サーシャは眉をひそめる。

「なんだよ、そんなに私の関心を買いたいの?」
「……オヤジが呼んでる。事務所まで来てほしい」
「あぁ、そういうこと。お使いって大変だよな」あっけらかんと言い放った。

 リオはサーシャの皮肉を意に介さず、先に立って歩き出した。その小さな背中は、この危険な街に似つかわしくないほど頼りなげだが、放つ空気は紛れもなく裏社会のそれだった。

(コイツ、おれの帰り道を見張っていたのか?) サーシャは、先を行くリオの背中を見つめる。(相変わらず、人形みてぇなツラだ。だが━━)

 サーシャは、この数日間、頭の片隅でずっと考えていた。 あの日、事務所で感じたリオの視線。それは、サーシャの『中身』を見透かそうとするような、値踏みするような目だった。

「なぁ、リオ。この前のネクサス・ファミリーの幹部どうなった?」

 リオは立ち止まることなく、サーシャを背後に近くの石ころに目を向けながら言う。

「……オマエの知ったことではない」
「そんな態度じゃ、女の子に嫌われちまうぞ? この美少女様に」
「……だが、オヤジは良くやったと褒めていた」

 その声には、まだ温度はなかった。だが、それは間違いなく、クール・ファミリーから評価されているという事実でもあった。

「……そして、僕とオマエはタッグを組むことになった」
「あァ? タッグ? ……あ、クールさんが株価操作とか言っていたな」
「……オマエ、株価を激動させる方法、知っているか?」
「知っているよ。たとえば、企業のトップの不正を暴くとか。そうだな……私なら、ロリコンのCEOに詰め寄って、それをマスコミに垂れ込むね。そうすりゃ、ライバル企業の株価が高騰する。ただし不祥事を起こす前に、ライバルの株を買いまくる必要がある」

 サーシャの見た目は、小児愛者であれば誰でも魅力的に感じる幼女。ならばその見た目を活かさない手はない。

「……概ね合っているが、今回株価を暴落させる企業のCEOはロリコンではない。もっとも、女を買い漁っているのには変わりないが」
「へー。ちなみに、なんの企業?」
「……女性向けアパレルブランド会社だ。もしもそんな会社のトップが女をいたぶる性癖を持っている、と知られれば、確実に株価は暴落する」
「なるほど。でもリオ。その前に家へ荷物を置いておきたい。着いてきてくれないか?」
「……隠れ家がバレないように注意していると思ったが?」
「オマエがチンコロするわけないと信じている。だいたい、コンビを組むなら信頼関係が必要だろう?」
「……分かった。ついていこう」

 サーシャとリオは、反対側の道を歩いて少女と姉の暮らす家にたどり着く。

「……ここか」
「あぁ。荷物返してくれ」
「……待っているぞ」

 サーシャは重たい買い物袋を持って、欧州の島国らしいレンガ造りの家へ入った。

「……デート、か」

 なぜ、リオがそんなことを呟いたのか。それはリオにも分からなかった。

 *

「よう」

 サーシャはTシャツにホットパンツというラフな格好のまま、すぐ出てきた。

「……寒くないのか?」
「寒いよ。温めてほしいくらいに」
「……なら上着を羽織れば良いじゃないか」
「なに悲しいこと言っているんだ。くっつけば良いんだよ」

 そう言い、サーシャはリオの身体にべったりとくっついた。柔軟剤とシャンプー、そしてフェロモンのような匂いがリオの鼻に通っていく。

「……なんの真似だ?」
「嫌か?」
「……好きにすれば良い」
(なんだ、結構子どもっぽいところあるじゃねぇか)

 不健康な白い肌を赤く染め、リオはサーシャから顔を逸らしていた。照れているのは間違いない。

「……迎えの車を近くに用意した。そこで上着を羽織れ」
「なんだよ。オマエとハグしても良いくらいなのに」
「……、」口をモゴモゴ動かし、されどなにも発しなかった。

 そのままサーシャはリオから離れず、500メートルくらい離れた場所に停車していたワンボックスカーに乗った。

「おぉ、温かそう」

 モコモコのジャケットを羽織って、サーシャは後部座席に座る。隣には当然リオがいて、運転手はふたりが乗ったのを確認し車を動かした。

 運転手がバックミラー越しにニヤついていた。「リオ、良かったな。可愛いガール・フレンドができて」
「……うるさい」
「オマエ、殺し以外に興味のねぇ殺人鬼だと思ってたから、おれぁちょっと嬉しいぜ」
「……僕だってヒトだ。親を殺したから、この道に進んだだけで」
「なら、余計に良かったじゃねぇか」

 ゲラゲラ笑う運転手に、リオは露骨に不機嫌そうな表情になるのだった。

 クール・ファミリーの事務所へは、そんなに距離があるわけではない。精々2~3キロ程度だ。車なら、ものの10分程度でたどり着ける。

「さて、仕事だ。姉が心配するから、早く片付けよう」
「……呑気だな」
「サディストが女凌辱しているシーンを撮れば良いんだろ? 楽な仕事には違いない」
「……果たして、そう簡単に進むか」

 事務所の階段を登り、サーシャは数日振りにクールとの面会を果たす。

「よー、サーシャ」
「やぁ、クールさん」
「リオからある程度聞いてるだろ? アパレル会社のアホ社長の痴態を撮ってきてくれ。だが、あのSMマニアは馬鹿騒ぎがバレねぇように相当な護衛を配置してる。それにオメェらはガキだから、そもそもクラブに入れねぇだろうな。なんで、要するにステルス・ミッションだ。小さい身体使って、屋根裏辺りから間抜け面撮ってきてくれ」
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