キンレンカ-幼女転生の殺し屋の成り上がり(リスタート)-

東山統星

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第三幕 グレイト・キング・ラット

016 眠れない夜には惚れ薬入りハーブティで

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『テメェみてぇな穀潰しを養うカネはねぇんだ!!』
『アンタの所為でお父さんが怒ってる!! アンタなんか、今すぐ死ねば良いのよ!!』

 チクタク、と秒針の音がやかましい。サーシャは手を組みながら、脂汗を垂らす。

『鉄砲玉にさせてくれ? なら、親を殺せるのかい。……へぇ、もう殺してきたと』
『体制にとって都合の悪い連中を消す。それがおれらの役目だ。変革なんて求めるな』

 汗はすでに身体を包み込んでいた。不愉快な感覚が、雪だるま式に膨れ上がっていく。

『この世界に神がいるとしたら、いつかぶち殺してやれ。死体は犬の餌にでもしろ。まぁ、犬どころか豚すらも食いたくねぇだろうが』
『サーシャ……オマエはおれらの希望だ。必ず生き残って━━』

「はッ━━!?」

 目を冷ましたサーシャは、拳銃を持って辺りにそれを向ける。だが、誰もいない。真っ暗な部屋には、秒針の音以外なにも響いていない。

「クソッ、夢か……」

 ひどい汗塗れになったサーシャは、電球をつけて近くに落ちていたパーカーを羽織る。汗の垂らしすぎでむしろ寒いくらいである。
 時刻は午前2時だった。どれだけ寝たか分からないが、あまり良い睡眠はとれなかった。こういうときはウォッカでも流し込みたい。サーシャは黄色のパーカーに黒のタンクトップというラフな格好で、外に出て酒でも買いに行こうとした。

 しかし、部屋に置かれていた姿見は、酷薄に金髪翠眼になった幼女を映していた。こんな姿で酒なんて買えるわけもない。サーシャはベッドに座り、高熱にうなされているように息をまばらに吐く。

「チクショウ、なんでうまく生きられないんだ。誰も彼も幸せそうに生きやがって━━」

 ドアが開いた。サーシャは拳銃を向けようか迷うが、ひとまずそれを降ろす。

「……どうした? うなされていたように見えるが」

 切り揃えられた黒い髪、病的に白い肌、赤い目のリオが心配げにサーシャを伺いに来たようだった。

「なんでもねぇよ。ただ、悪い夢を見ただけさ」
「……悪い夢?」
「どうも環境が変わると、体調ってヤツは崩れやすくなる。サウスAs市は暖かいが、それがすべて良いほうへ傾くわけじゃない」
「……ハーブティでも持ってこようか? オマエ、顔色悪いぞ」
「あぁ、頼んだ」

 サーシャは冷静を取り繕い、リオを一旦引かせた。とはいえ、起きてから3分くらい経過しているので、だいぶ錯乱状態から抜け出せている。それならばいつも通り、愛らしい幼女をやっていれば良い。

「つか、ここどこだ?」

 サーシャは記憶を辿ってみる。確か、スナイパーに襲われて返り討ちにしてやった。ただ、それ以降の記憶がない。強いて覚えているのは、リオがスマホを見ろと言ってきたことくらいだ。

 そんなわけで、サーシャはスマホを見てみる。メモアプリが起動していた。多分そこに書き残したのであろう。

『マルガレーテさんは、これから会うキャメルさんに逮捕された。キャメルさんはクールのオヤジの妹だ。実力も、今の僕らでは敵わないほど。そこでオヤジが大幅な計画変更を求めてきた。要するに、政府の連中とつながりを作ることが僕らの仕事だ』

 サーシャは先ほど見た悪夢を、また思い出してしまう。

(結局〝おれ〟ら悪党は体制側に生かされているだけだ。国盗りでもすれば、せめて気分も良くなるのかね)

 散々体制にこき使われ、使えなくなったら捨てられる。それが無法者の定めであり、親殺しのサーシャに科せられた罪でもある。

「気にくわねぇこと自体が気にくわねぇ……」

 ドロの中へ沈んでいくように、サーシャは重たい口調だった。
 そんなサーシャの元に、ハーブティを持ったリオが現れる。彼は、「……はい」と茶をサーシャに差し出し、彼女は「あぁ」とそれを飲む。

「なぁ、リオ」
「……なに」
「私たちっていつか、世間に認められる日が来るのかね」
「……多分こない。でも、来ないと思っていたらなにもできない」
「だろうな。考えが似通っていて助かるよ」
「……それなりに稼げて、大人になれば良い車にも乗れるし豪邸にも住める。ただ、いつ殺されるかは分からない。リスクを承知で生きているんだから、それは仕方ない」リオは言葉を区切る。「……ただ、いつかは足を洗う日が来るかもしれない。いや、そんな先のことなんて考える余裕はない。僕らは政府の管理下に置かれているようなものだから」
「キャメルさんのことか……。全く、平穏に生きたいよ」ハーブティを飲み干す。「というか、これ変な味だな。ものすごくしょっぱい」
「……しょっぱい?」
「変なハーブで作ったのかね。リオ、これどこから持ってきた?」
「……キャメルさんが、寝付けないならこれ飲めって渡してきた」
「うーむ。しょっぱすぎて、むしろ寝られなくなりそうだぞ。一体なにで作ったんだろうか」
「……ちょっとティーバッグ見てくる」
「私も行くよ」

 サーシャとリオは、リビングに値する場所へ向かう。リンと住んでいた家より広く、片付いていて、キャメル含む3人で生活するには充分な広さだった。

「んん? リオ、ティーバッグってこれ?」
「……そうだけど」
「なるほど、媚薬入りか」

 なんでそんなものがここにあるか知らないが、サーシャは一瞬でハーブに惚れ薬成分が入っているのを知る。彼女は「はぁ」と溜め息をつき、身体が火照ってくる感覚に苛まれ始めた。

「……?」

 リオは臀部をサーシャにギュッと握られ、怪訝そうな顔になる。別に痛くはないが、サーシャの顔色的にもなにかが変だ。

「リオってさ、誰かとエロイことした経験ある?」
「……ない」
「だろうな……。さて、私は寝付く。もし大人の階段を登りたいのなら、私の部屋をノックしてくれ。以上」
「……どういうこと?」

 サーシャはふらふらしながら、自身のベッドルームへと帰っていっていしまった。リオは訝るように首を傾げるが、まぁ触れないほうが良いだろう。目つきが、殺しのときとはまた違う捕食者のそれだったから。

「……まだ夜中か」

 リオは成長期の子どもらしく、もう寝てしまうことにした。あしたの道はあした考えれば良い。

 *

「やぁ、おはよう」

 なんだかツヤのある肌で、サーシャは起きてきた。朝食を食べ始めているリオの向かいに座り、サーシャはなにか悩みから開放されたように、邪気のない笑みを浮かべている。

「……どうしたの?」
「いくらでも絶頂できるのは最高って話だよ」
「……?」
「まぁ、ストレス発散になったってことさ。キャメルさんに感謝しなきゃ」

 リオはますます目を細めるが、実際なにがあったのか分からないので、相棒が元気いっぱいになったのは良いことだということにしておいた。

 そんなふたりの元に、リビングの直ぐ側にある部屋からヒトが出てくる。

「おはよう。リオくんにサーシャちゃん」

 クールの妹というのは事実だろう。あの男を女にしたら、当然顔立ちは整っているわけだ。髪も茶髪だし、目も茶色い。しかしクールがパーマをかけているのに対して、彼女はむしろストレートパーマをかけているのではないか、と思うくらい短い髪にクセ毛がない。
 また、身長はクールとは比べられないくらい低い。体型も、クールがマッチョだと思えば、彼女のそれは貧相そのものである。
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