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欲求不満野郎

オーダー

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午前9時頃、イリイチとリーコンは起床した。二日酔いをした事の無いイリイチと二日酔いが当たり前なリーコンでは朝を迎えることの意味が違う。
「頭痛てぇ…コーラでも飲むか。」 
「そういや大智がいねぇな。女の所にでも言ったのか。」
他者に対して無関心な彼らは、別に友だちがどこにいようがいまいがあまり気にすることでもなかった。
そんな朝に携帯が鳴る。どうせロクな事でもないのだろう。その証拠に連絡先に入っていない電話番号だ。一応出てみる。
「もしもし。何か用ですか?」
「おい、お前の仲間を拉致った。解放して欲しければ…」
「解放して欲しければ土下座してケツでも舐めろとでも言うのですか?武蔵先輩。」
いきなり出鼻をくじかれる想いだが、構わずに続ける。
「三浦大智。大事なお友だちだろ?てめぇら無法者にとって、仲間ってのは大事なもののはずだ。そうだろ?」
「大智…伝言を頼みますわ。お前そこで死ぬんなら部屋にある酒全部貰っていいかって。」
突拍子もなく重要なのは酒だと言わんばかりに、大智に対する心配がない。
「お前、舐めてんのか?」
「舐めてんだよ。どうせあいつにボコにされたんだろ?負け犬が」
「まぁいい。お友だちを解放してほしいのなら今すぐ生徒会本部にこい。歓迎するぞ。」
イリイチは深いため息をつく。
「じゃあ、大智と少しだけ話させてくれよ。あいつの意思次第だ。」
少しの間を置き、大智の声が聞こえる。
「よぉ、イリイチ。生徒会本部っていうのはそんなに悪くないぞ。ただ、やっぱそっちに戻りたいわ。」
どうすればいいと思う。」
「端的に言おう。俺の安全保障をしてくれ。報酬は幾らで引き受けるんだ?」
「煙草1箱な。今から行くから待ってろ。」
再び武蔵へと電話の相手が変わる。
「という訳だ。義経先輩に伝えといてください。ラスボスは今からそちらに向かうと。」
電話を切る。髪の毛をセットし、仕事用にわざわざ用意してある黒色のスーツに着替える。学園からくすねた散発式ハンドガンを隠し、準備が整いつつあるのを確認する。中々気合いが入っているようだ。
「さぁ、仕事するか。リーコン、いざと言う時のために生徒会本部のネットワークに入っておけ。非常事態になったら連絡する。」
「了解。同志イリイチ。」
学園内を最短距離で歩き、生徒会本部まで近づいたのなら、そこは思っていたよりも広大であった。
「あまり使いたくねぇが…仕方ねぇか。」
第六感解放式第二号。ほんの一瞬だけ目が赤色を帯び、それを合図として周りの人間全ての意思を全員に読み込ませる。当然の如く生徒会本部内の生徒及びその周りの人たちは全員意識不明になる。
「雁首揃えればいいってもんじゃないからな。これだけ数がいれば当分目は醒めない。」
イリイチはそういう運命の元で生まれてきたのだ。今でこそ制御出来ているものの、昔は無意識に発生して苦難に襲われることはしばしばあった。だが今は制御できている。その分退屈な人生ではあるが、それこそ致し方ない。
「…はぁ。会長室まで結構あるじゃねぇか。」
無駄に広い生徒会本部を仕方なく歩く。なんとなく入った部屋にて綺麗な日本刀を見つけるのであった。
「本当にビックリハウスだな…。日本って国は平和って聞いていたが、実は戦闘民族だったんだな。これは貰っていこう。」
日本刀。本来の名前はあるはずだが、なんとなく気に入っていた日本語、浪人という名前にした。まぁ名前なんてどうでもいい。大事なのは使えるかどうかだ。
会長室の扉が開く音がする。大きな音と共にロシア人は現れたのだ。
「おぉ、義経せんぱぁい!!!会いたかったぜ。」
「俺もだよ。イリイチ。おい、武蔵。こいつをぶち殺せ。」
「おいおい、ここまで来てまだ自分じゃあ闘わねぇのかよ!?ひょっとして先輩陰キャなん?」
「必ず殺せ。」
闘いの火蓋は落とされた。とは言ってもほんの数秒で終わった。早撃ちを決める。
「ビックリドッキリメカだ。拳銃に劣化ウラン弾を使用するなんて初めて見たわ。この学園は闇そのものだな。」
劣化ウラン弾。そもそも銃弾に使用するものでは無い。頑強な装甲戦車をぶち抜くためのものであって、人に撃ち込むメリットはないからだ。だが、ここはなんでもありの超能力者学園。耐久力で言えば装甲戦車よりも上なバケモンだって存在するのだ。それを踏まえた上で、リーコン協力の元、学園武器庫から見つけ出した。
「声も出ねぇぐらい痛いか。まぁいい。死ぬ玉でもねぇだろ。」
武蔵は最初は声にならない悲鳴を上げ蠢いていたが、やがて意識を落とした。
イリイチは薄ら笑いを浮かべる。
「シックス・センスは決して嘘をつかねぇ!今日、お前の不能は問題じゃあなくなるさ!さぁかかってこい、カマ野郎。」
義経は高笑いをする。
「かかってこい?お前がかかってこいよ。ビビってんのか?奴隷野郎が!」
大智は眺めていた。これはどちらに転ぼうと、義経の戦術的敗北は必至だと。
「あんたはイリイチを舐めすぎている。イリイチが貴方を舐めてるんじゃない。
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