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超能力者開発指数(PKDI)

戒厳令

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学園は危機に見舞われていた。傭兵組織による襲撃によって。
「命令系統がしっかりしていない時に限ってなんで問題が起きるのよ!」
美咲は頭を抱えていた。前会長の義経だったら難なく片付けるであろう問題も、新米会長には荷が重い。
「こちらは飛車角落ちだ。イリイチと翔が学園に帰ってくるまであと1時間はかかるだろう。今すぐに緊急幹部会を開く許可を出せ。」
対称的に会長代理こと大智は落ち着いた様子だった。動じることも無く、コーヒーを飲みながら一服している。
「なんでそんなに落ち着いてられるのよ!?相手の数は一個大隊、1000人よ!PKDI4の生徒たちも把握出来ていない今、彼らに命令をくだすことも出来ない。実質的にあんたの仲間と私の仲間で戦うことになるわよ?」
「そりゃそうだ。就任して1週間。まともに命令系統を整えて置かなかったのは失敗だったな。ま、俺たちは元々だ。旧順位がなくなった今は誰も命令には従わんさ。」
大智は達観したような様子で遠くを見つめている。ただでさえ少ない手駒のうち、イリイチと翔というこちらが持つ最高の駒が今使えないのは厳しい現実だ。さらに、リーコンがいなければ情報でも勝ちが怪しくなる。
「だが…。」
大智は一息おいて、指示を出し始める。
「動員可能な生徒は全員動員しよう。こちらのメインになるのは、あんたと桑原だ。なに…赤子同然だ。」
それを聞いた美咲は覚悟した様子で今使える命令系統を全て起動する。
「生徒会から学園生徒へ。所属不明の傭兵一個大隊が学園制圧に向けて向かってきている。戒厳令発動。繰り返す。戒厳令発動。」
「桑原を呼ぶ。段階3の1位が居ないと話にならねぇ。」
大智はすぐに電話をかける。時刻は9時半。まだ起きているはずだ。
「もしもし、さっきの放送通りだ。今すぐ本部に来い。状況を話す。」
電話を切った大智は椅子にもたれて首を後ろに回す。疲労が溜まる仕事だ。
「落ち着いている暇はない。さっさと翔たちを呼び戻すわ。」
疲れる仕事をこなしているうちに未来は走ってきた。息切れをおこしながら会長室のソファーに座る。息切れが収まるといつもの調子に戻った。
「で、どうすればいいの?」
「学園の中に敵を入れないことだな。防衛用の設備は反応しない。言い換えれば超能力者がいたとしても中には入れないという事だ。ここら辺は民家も少なくし、何も無いから暴れ放題だ。」
わかったというニュアンスで未来が頷くのを確認したら、大智はその場即席の書類に署名する。
「これ、殺人許可証な。スパイ映画とかでよくある。厳密に言うと、学園が許可する。日本政府が警察を使用して殺人犯を逮捕しても、学園が取り戻すことを保証するものでもある。治外法権極まれり。」
「わかった。配置につく。」
特に驚いた様子もなく、位置情報通りの配置についた。武器を大量に取り出しいつでも大丈夫だと言わんばかりに待っている。
「学園の武器庫から武器が大量流失した事件があったんだけど、それってあの子がやったのかな?」
「この際それはどうでもいいことだ。」
空間超能力者。様々なものがいるが、彼女はそのランキングで間違いなく最上位に入るだろう。常時別次元へのアクセス権を持つものは限られている。
「他の有力生徒は黙りね。支持基盤をろくに持たずに会長になった以上は仕方がないことか。」
美咲と大智という中軸は異質なものだった。絶対的な強さでも圧倒的なカリスマでもない。本来ならこの座にいたはずの者がふざけた理由でならなかったから、今の捻れた状態が出来上がっているのだ。開発指数4の生徒はもちろん、指数3の生徒ですら彼らの味方ではない。
「基盤が弱いのはこれから変えていけばいい。困難な時にこそ人間は進化する。」
一個大隊と17歳の超能力者3人の闘いは始まろうとしていた。

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