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覇権争い

ブリトンの民

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「ブリトンの民は断じて断じて奴隷にはならず!」
大英帝国という国があった。七つの海を股に掛けて世界中に大量の植民地をもち、ヨーロッパ社会の覇者であり続けた。2つの大戦争によって大英帝国は崩壊したが、いまでも国際社会に一定の発言力をもつ大国のひとつだ。
アーサー。彼はいま復讐のために準備をしていた。横浜からおわれた彼は諦めの悪さによって学園東京にいた。劣等民族スラヴ人、イリイチという例外によって彼の名誉は破壊し尽くされた。
「私は戦闘に負けた。イリイチという不条理によって。だが、まだ闘争に負けた訳では無いのさ。まだ終わってはいない。アイツを叩き潰すために、スパイ東京派の1人である山崎康太はイリイチに負けた。これからの流れは覇権争いグレート・ゲームだ。私の軍隊は学園東京の生徒。敵は学園横浜だ。楽しいぞ!」
高笑いが止まらない。彼は今千載一遇の機会がやってきている。学園東京の権力闘争に勝ち抜いて、イリーナという爆弾を名目にして学園横浜に対して戦闘の正当化を進めている。
「康太はまだ使える。相手が悪すぎただけだ。学園横浜にいるスパイ東京派の中では最も実力のある者の1人だ。そして一枚岩ではないのは向こうもこちらも同じ事、馬鹿が背伸びして会長になるから団結出来ていないんだよ。」
アーサーの副官である阿部は横浜の現状を把握仕切っていた。一個大隊を送り様子見をしてみたが、いくら相手に超能力者が1人もいないとはいえ、反抗戦力が僅か1人。PKDI:ランク3第1位の桑原未来のみ。どんなに相手を過小評価していてももう少し多くの超能力者を出すのが通例である以上は、これは横浜の圧倒的な団結度の低さを知らしめる結果となったのだ。
「超能力者開発指数というアイデアは良いものだが、肝心のランク4生徒が全く生徒会を支持していないとなれば、中央集権も名折れだな。イリイチや鈴木翔、柴田公正らが纏まる前に各個撃破していけば横浜に敵はいなくなる。」
阿部を初めとした東京の指導部は横浜は大したことはないという結論を出しつつあった。
東京の意向は単純なものだった。12校ある学園の指導的地位にあたる学園東京に従わなくなっている学園横浜を粛清したいのだ。関西にある学園兵庫や中国地方の学園広島、九州、学園福岡にはある程度の自治権を与えないと、やがて分裂する危険性があるが、関東にある学園東京第二、学園埼玉、学園千葉、そして学園横浜に対して自治権を与える意味は無いのだ。いわば植民地である。そういう状態で今まで生きながらえていた。
だが、これ以上横浜が東京に対する敵対行動をするのなら学園横浜の上層部を粛清して親東京の傀儡を立てなければならない。
「様々な利権が絡み合い、目的のために騙す。操る。裏切る。目的のためなら手段を選ばない連中が、だが!我々はそれを望まない。横浜がイリイチとイリーナを差し出すなら、白紙和平をする準備がある。」
土地不足に苦しむ東京にてそれに相応しくないほどに広い執務室にて皇帝の如くに座っている本校総長、川上哲也は冷静であった。学園に長老として君臨する「学園の親愛なる祖父」は平和的解決の糸口を見出していた。
「総長閣下。東京の威厳は著しく傷つけられています。ここで横浜に対して平和的に解決を試みるのは我々の外交的敗北を意味します。総長命令であるならば仕方がないですが、これは学園横浜に対する最後通牒です。」
対称的にアーサーは盛り上がっていた。東京生え抜きではない彼が東京の名誉について熱弁するのはなんとも奇妙な話ではある。
執務室から出てきたアーサーは阿部に向かって陰口を叩く。
「あのご老人は平和ボケしている。ありとあらゆる敵対勢力は叩いて潰すのが本校の役目だ。全く、平和維持軍ピースキーパーの上級大将だがなんだか知らないが、大方学園同士が闘うことになれば自分の年金が減らされるとでも思ってるんだろ。くそが。」
爽やかな喋り口の割に言っていることは辛辣だ。アーサーの性格をここ半年で理解した阿部は特に反論することもなく、ただ相槌を打っている。
「だが!総長命令はありとあらゆる命令の上位に立つ。横浜にイリイチとイリーナの出頭を命じるようにしろ。拒絶した場合はこれが最後通牒として横浜にいるスパイ東京派に蜂起させろ。」
阿部は頷いた。そして彼も熱弁を振るう。
「ありとあらゆる命令の上位に立つ!戦前みてぇだな。ヒトラーやスターリン、便宜上天皇陛下もそうか。何が戦国時代だ。この学園は70年以上前からなにも進歩していねぇ!」
文句を言いながらも阿部は文章制作を始める。アーサーは何かを考えている様子で生徒会長室の会長席に鎮座するのであった。
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