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覇権争い

交渉開始

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「プロが必要かと思ってな?」
生徒会本部において、しばらく姿を眩ませていた男はそう言った。自信に溢れて居るように見える態度は、同時に彼が自分の実力を確信していることの証明となる。
「わざわざ言いに来たってことは…なにが欲しい?あんたが義理や人情で動くような昔気質の悪者には見えないわ。」
「感が良くて助かるよ。そうだ。その通りだ。これは売り込み営業だ。学園内でのグレート・ゲームにこの俺、イリイチが参戦してやろってんだ。」
男の不遜な態度に眉にしわを寄せたくなるような気分の彼女は、なんとも不愉快そうな口調だった。
「元を辿ればあんたが東京との火種を作ったんでしょうが。無償で働くのが筋ってもんなんじゃないの?」
「筋じゃあ人は動きやしねェ。会長が思慮深いのは結構なことだがよ、別に俺は動く必要ねェんだぜ?なんでも今横浜は反本校感情でいっぱいらしいじゃん。でもよ、あいつらは武功を挙げるために自殺特攻すんぜ。それを感じた俺は心が痛くてね。」
「下らない上辺の綺麗事にすらなっていないわよ。あんた今自分の立場分かってんの?別にって?本校への恨みをあんたに向けさせて、戦争回避だってできるのよ?」
美咲の言葉を聞いたイリイチは、何処かおかしい様子で笑い転げる寸前になるような嫌な笑いを見せる。
「さすがだなァ!ま、それも正論だな。じゃあその手を打ってみればどうだ?」
イリイチにとってのこの駆け引きは茶番だった。横浜の動きを見る限りはここで生徒会が日和るというのは決してできない事だった。生徒会に入った連中は今ようやく生徒の支持を得られる所まで来ている。本校という共通の敵によって。
ここで本校に譲歩することは、即ち、という状態なのだ。
「何も言い返せないってか?そりゃそうだわな。今、本校の連中を共通の敵に挙げている。いや、勝手に挙がったのか?まぁどちらにしても、現実は現実。が俺やイリーナの件は口を裂けても言えないのも現実。そして…。」
「…支持を得たまま、学園横浜が勝利する。それに余計な犠牲は出せない。本校の化け物共相手にこちらが出せて、なおかつ…。とどのつまり…。」
「俺の出番だ。プロは下らない失敗しねぇからプロ。この学園にいるヤツらがどんなに強かろうと、ヤツらは。」
学園同士の小競り合いはごく稀に見られる事態だった。生徒との契約を巡って、学園生徒会、その上の者のために、全く関係の無い一般生徒を焚き付けて反感情と一緒に他校に送り込む。生徒会会長になった彼女がそのの無意味さに目をつけてない訳がなかった。
「汚れ仕事は汚れている野郎にやらせればいい。これは偽善でも独善でも悪ですらない。当たり前のことだ…。ま、それでも横浜の生徒は勝手に暴れるだろうがな。それを最小限に抑えるために俺が居る。分かるか?」
「そうね…。の汚れに塗れたその手で、本校の帝国主義と殺し合いする分には大いに結構だわ。」
なにも上辺だけの行動だけではなにも成し遂げられない。独善的だった彼女の善は、心做しか現実的な者へと変貌していた。
「じゃ、報酬を設定しねぇとな?」
イリイチの嫌味な笑いに、彼女も応答するかのように嫌味な笑顔を見せた。

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