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覇権争い

やがていつかは…

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本校の惨状はいつまでも続いている。僅か1名の超能力者を打倒できないがために。第2校の戦局が大きく変貌したことも、横浜にて会長の精神を揺さぶることによって新たなる局面を造ろうとしていることも、全ての情報が遮断された本校には知る由もない。
「ある人は言いました。1度目は悲劇。2度目は喜劇。今回は喜劇だな。なァ、名もなき超能力者の皆さんよ。」
彼の爆走は止まることを知らない。数を当てれば、シックス・センスによって全滅を起こし、個人を当てれば、それは自殺にも等しいことだった。
彼らの努力を踏みにじるかのような現存本校司令部による事実上の見殺しもこの事態の緊急性に拍車を掛けている。
行きは自信に溢れた超能力者、帰りは死を待つ哀れなに変わった瞬間、イリイチの携帯は音を鳴らす。
「久しぶりだな、イリイチ。そういやまだ再開の挨拶をしていなかったことを思い出したよ。俺だ。アーサーだ。」
「よォ!ライミー!どうした?無条件降伏する気になったか?それとも、なんだ、あれだ、あれ。またつまらないガラクタを送るのか?」
「いやァ、そろそろ電池切れのお時間かと思ってな?電子回路にシックス・センスを任せるのは難儀なものだろ?なぜ知ってる?って言おうとしただろ?なんでだと思う?」
思いのほかイリイチの現在の状態を把握しているようだった。現実問題、人工脳髄がオーバーヒートを起こして酸素欠乏になれば、次の瞬間に、イリイチは
彼らの意趣を返される運命なのだ。
「…リーコンから漏れたか。ったく、使互いに同じみたいだな。知っての通り、俺の頭の半分は人工。だが!テメェらに負けるほど落ちぶれちゃあいない。心配無用だ。」
「流石だな。流石はあのイリイチ様だ。その減らず口がいつまで続くか見物だ。じゃ、早くここまで到達するのを待っているよ。」
受話口の先には、勝ちへの道筋の見えたイングランド人がにこやかに笑っていた。使えない部下や本校ネットワークの遮断といった事案は、アーサーにとっては取るに足らない問題に過ぎない。
「結局、私を討伐するには自分で殺らなきゃ行けないことは分かっているだろう。逆もまた然りだかな。ま、部下無能どもが少しでもすり減らせるか高みの見物と行こうか。」
他人に対する期待を全くと言っていい程持っていない彼らの決着は、最終的に1対1で闘うことで全てを終わらせようとするシナリオが既に書かれていた。アーサーにとっての宿敵は、イリイチにとっての宿敵になってあがろうとしている。
「やがていつかは…。」
本校がイリイチの消耗のために送り込める兵士は残り1名。そう遠い未来の話では無くなっている。
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