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全ての陰謀を終わらせる陰謀

糾弾

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超能力者学園における校則は無いに等しい。県内最高進学校の校則であれば髪を染める、ピアスを開ける、パーマをかける、などの「見た目」に対する校則というものは非常に緩い。だが、それに加えて喫煙飲酒を黙認されるどころか居酒屋やタバコ屋がただ広い校舎の中にある高校は超能力者学園のものだ。更にいえば武器の所持も学園に許可を貰えば可能であり、最近の流行に乗る形で大麻も黙認されている始末。学園横浜を含む12校の校則というものは言わば「法律」なのだ。
では法律と言うからには犯罪者を裁くための機能を持っているのか。結論から言ってしまえばある。学園在籍生徒限定の裁判は存在するのだ。この犯罪事項の中にて最も重い罪の1つ。「学園外での超能力使用」の嫌疑をかけられた者は十中八九退学処分。それも、超能力に頼り切った者がもう二度と超能力を使った仕事が出来ないように「絶縁」として公示される。学園で作りあげた地位は崩れさり、創成に恨みを持つ者から狙われても学園及び平和維持軍ピースキーパーによる保証は一切受けられない。殆ど死んだようなものだ。
「間違いなくこれに当てはまるな…。」
とにかく長い学園横浜内規を記したページを鑑みるに、優希は「学園外での超能力使用」によって起訴され、即座に絶縁となるだろう。絶縁が概ね確定している人間に好き好んで関わろうとする酔狂な人間は居ない。昴は悩んでいた。
「仲間がいる…。この学園でそれなりの発言力を持つ者が。今学園横浜は本校との対立に勝ったことがルールとなっている。そのルールの中でのMVPは…。」
噂は空を漂い、気がついた時には彼の耳にも届いていた。あまり超能力者開発指数に詳しくなく、自分の段階すらも知ってかしらすが。それでも学園横浜序列第1位、第2位、第3位の発言力は大きなものであることは、噂と順位が証明してくれた。
「第1位が鈴木翔、第2校解放作戦の英雄。第2位がイリイチ、ゆうちゃんの災難の原因。第3位が柴田公正、横浜防衛を1人で成し遂げた。」
セオリー通りに考えれば第1位、鈴木翔に嘆願するのが正しいだろう。噂によれば結構慈悲に溢れた人物のようだから。それは第3位の柴田公正も同様だ。
「ただ…。この機会をひっくり返す力に溢れた人物は…。」
昴とイリイチは、軽くではあるが話したことはあった。物腰の柔らかい口調とは裏腹に、雰囲気は特徴的なものだった。威圧感に満ち溢れ、髪の色や目の色、肌の色が違うのもそう意識させるが、凛々しい外見をもった男であった。
優希からすれば仇敵であるイリイチもイリイチからすれば大した存在ではない。そこをつくしかない。
彼の居る場所というのは大体決まっている。人間には習慣がある以上、この時間に居る場所は、あの時の喫煙所に違いなかった。
「すいません。イリイチさん。ゆうちゃ…、山下の事なんですが…。」
「あァ、あん時のか。山下?あいつなら捕まったよ。会長殿はお怒りのようで、このままなら退学は固いかなァ。」
ロシア人は涼しそうに煙草を飲んでいる。目の前に居て鬱鬱しい害虫の駆除が始まりご満悦のようだ。再び咥えはじめた時点に、昴は助命嘆願を始める。
「こんなこと言うのは可笑しいかも知れませんが…。お願いします!退学は勘弁してやってください!幼なじみなんです!」
「………まぁ別に構わないけどさ。あの小物に常識を叩き込む役をお前がしてくれるならな。いいよ、会長代理と内務委員の口説きで山下の退学は取り消しになるように手筈を整えとく。」
非常に呆気なくイリイチはその場でリーコンと大智に電話をする。親指を上にあげ、それを昴にみせたならば、恐らく彼女は退学だけは免れるだろう。
「今回だけだかんな。あまり余計なことするなってあの子に教育しておけ。」
菩薩のような対応を見せたイリイチに感謝する形で深く頭を下げる。それを見て曇りのない笑顔で腕を振り、イリイチはどこかに帰って行ったのだった。
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