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新興宗教の奇天烈乱舞

地下組織

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話は隠密に消えていった。カルト教団の目論んでいた「不老不死」の破綻は、日本に居た信者、総勢15,000人の夢を打ち破る。
その余波は、関東最大の裏組織、10,000人を越えると言われる「七王会」の貸元頭、No.2である男にも届くところであった。学園横浜に対して薬物を供給していたのは所謂ではなく、僅かながらでも情報を抜き出すためという意味合いが強いものだ。栄光を手に入れた人間の傲慢は、人間が唯一平等である「死」を恐れていたのだ。
「創始真理会は1晩で壊滅し、これで人喰い鬼オーガに知能を持たせることによる実質的な不老不死は不可能になりました…。更に、学園横浜のガキ共がオヤジを狙っているとの情報もあります…。」
「…してやられたな。あれだけの規模を持つ組織を1日で滅ぼすとは…。大概まともなヤツらではない。こちらも超能力者で武装しなくてはな…。」
彼がここまで頭を抱えるのはとても珍しいことだ。学園横浜が派遣してくるであろう超能力者に対する対策も重要ではあるが、彼が抱えている問題はそれだけではない。老齢により近々現総長は引退することが決定している。其方のほうに苦慮しているのだ。彼には今風のヤクザのように金を効率良く稼ぐ手段を知らない。総長の判断次第で、玉突き的に昇格することを無下にされる可能性は極めて高いのだ。
「俺の総長からの評価はあまり高くない。あの胡散臭い宗教が作った不老不死で関心を貰おうと思ったんだがな…。クソ。」
跡目争いが勃発しようとしている。その事態に目敏い学園横浜が目をつけない筈が無かった。
「と、言うことね。皆も1度は耳にしたこともあると思うけど、この関東にある7つのヤクザの組が合体して出来たのが七王会。ここのてっぺんは関東の裏のてっぺんど同意義って訳。そして今のてっぺんは定年退職ってな感じで引退するのが決まっている。跡目候補は2人。まず、学園横浜に対して薬物を蔓延させた張本人。胴元年坊。七王会の最高幹部たちの頭、No.2ね。そして…。それに対抗するのが、最高幹部の中でも最大派閥を持つ長州武治。」
ホワイトボードに美咲が書き込んでいくのは、彼らの力関係である。昴が個人的な感情を捨てて、内偵をリーコンに依頼したのだ。そこには寸分の狂いのない現状が記されていた。
「この長州ってヤツは極秘ではあるけれど総長の座が内定している。それに対して胴元は薄々気がついている。でもヤクザの世界は、上が白だと言えば黒でも白になる。だから胴元にはそれを止める術はない。では…?」
「……ヤツらは内部抗争を繰り広げるだろうな。その犯罪履歴を全て貰っておくと。生き延びた方の悪どい犯罪を全部洗いざらい警察に渡して逮捕。たとえ軽犯罪でも、どちらかがどちらかを殺した、或いは依頼したこともぶちまけるから組からは絶縁。そうなればヤツは詰み。」
「そ。要するに関与しないのが1番な訳よ。あのイカれた宗教が残っていたら私たちもキツかったけれど、現実はやはり映画のように華やかではないしね。」
切羽詰まった人間は後先を考える余裕はない。単調な話であった。
「たとえ相手が社会のダニでも殺しちゃえばこちらが悪いってなる。情報詮索は外部、というかリーコンに委託した。そのかわり報酬も大半アイツが持ってくけどな。ま、はした金で人を殺せ、ってのがおかしな話なのさ。」
翔は政府に向かって吐き捨てるような口ぶりであった。喜劇以外の何物でもない物語に、悲しくなるほどに愚直な彼らが演壇に登るのは、それから数日としない内であった。
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