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1年目の春~夏の件
行くか戻るか長々とチームで議論を交わす件
しおりを挟む今は姫香も意識を取り戻して、それより重傷だったコロ助も元通りに動けるようになっていた。紗良の回復スキルと纏っているHP様々である、下手なポーションより凄い効き目だ。
それでも戦いの傷跡は、ずっと酷く心と体に刻まれたのも確か。現在は、護人と子供達でこの先に進むか戻るかの議論中だった。
何しろたった2層進んだだけで、この有り様である。
「でもアレは、変則的なトラップのせいじゃん! 通常の敵は全然大した事ないんだから、進んでも問題は無い筈だよ、護人叔父さん!」
「だがなぁ、回復して貰ったとは言え、姫香とコロ助は酷い打撃を受けたじゃないか。副作用があるかも知れないし、今日の所は引き返すのも手だぞ?
幸い、2層しか進んで無いから戻るのは一瞬だし」
「でも逆に言ったら、肝心の間引きがたった2層しか進んで無いって事ですね。敷地内のダンジョンですから、放置は怖いんじゃないでしょうか、護人さん?」
休憩をしながら、延々と両者の議論は交わされて良く。そして紗良の言う通り、その核心を突かれると弱い護人である。
その隣では、香多奈がさっきの小部屋から回収した収穫品を眺めて嬉し気に妖精ちゃんと話し込んでいた。ちなみに、炎の魔人のドロップは1個も無かった。
その代わり、魔人の出て来たランプは回収出来てこれは魔法の品で間違いなさそう。ついでに、部屋のタンスやら何かに隠されたアイテムも少々。
鑑定の書が2枚にそれより大きな革の巻物が2枚、赤い爆破石が5個にポーション系の薬品が2種。なかなかの収穫量だが、末妹の興味はモロに魔法の品らしきランプに集中していた。
護人と姫香の議論などマルっと無視して、終いには妖精ちゃんの指示で透明な魔石をランプに投入する始末。そして巻き起こる、周囲を巻き込むプチパニック。
何とさっきの魔人が、小さな炎&煙の演出と共にニョキっと生えて来たのだ。ただし身体は小さくて、妖精ちゃんと同じサイズと言う。
彼女の説明では、この召喚は与えた魔石サイズに準ずるそうな。それを召喚した香多奈は大興奮、ハローと早速コミュニケーションを取っている。
向こうも割とフランクな様子で、意思の疎通は出来ているみたい。そんな事態を、驚き顔で見詰める周囲の面々であった。
「えっ、香多奈……それってどうなってるの!? さっき倒した巨人が、小っちゃくなって復帰してるように見えるんだけど!?」
「あっ、これ? えっとね、妖精ちゃんのアドバイスで、ランプの精を復活させてみたんだけど……倒された事でダンジョンのしがらみを破棄出来たから、今度の召喚からは召喚主の意に沿えるんだって。
妖精ちゃんとも仲が良いみたいだし、多分いい子だよ?」
そうらしい、小さくなった魔人はそれなりに可愛いく見える。とは言え、さっきの死闘があったばかりの護人は、急に仲良くとは行けそうもない。
どう言う事なのかと、なおも香多奈に詳しい説明を求めてみるも。戦ったのはダンジョンの意思であって、今の所有者は来栖家にあるとの説明である。
そんな訳で、仲良くしようって言われたよと末妹の翻訳もかなりフランク。その話を信じて良いのかなと、姫香もかなり疑わしげな表情。
それを無視して喋りまくる魔人から、香多奈は良い情報を貰えたようで。あの部屋に隠し戸棚があるらしいよと、途端にテンションが上がっている。
果たして、その内部情報は本当だった。家族全員で調べに向かったところ、壁に隠された戸棚からは立派な朱色のサーベルが発見された。
それを見たチビ魔人は、割と上位の魔剣だナと注釈を入れてくれる。だから仲良くしようゼと、役に立つアピールが逆にウザい。
ただし、彼が姿を形作るには透明な魔石が常時必要らしい。雑魚から得られる小粒サイズ程度だと、姿も小さく時間も数十分が限界だとの話。
妖精ちゃんが言うには、コイツに勝ててラッキーだったねとの事。早い時期に下僕に出来たのも、これからの探索と成長を考えれば幸運以外の何物でも無いっぽい。
つまりはコイツ、今後は下僕扱いで良い模様。
「召喚魔法的な感じなのかな、動画でそんなの見た事ありますけど……扱ってたのは、ベテランの強豪チームですよ。恐らくレアな魔法か、道具が必要なのかと。
それを考えれば、確かにラッキーではありますね?」
「それじゃあソイツにちょっと聞いてみてよ、香多奈。この先の層に、アンタより強い敵が潜んでいるかどうかをさ」
紗良の言う召喚魔法は、使用者こそ少ないが確かに存在はする。それを今後、来栖家チームで使えるなら確かにラッキーではある。
そんな事よりも、先に進む許可が欲しい姫香である。ある意味反則の、敵対していた魔物にこの後の仕掛けを聞きに掛かると言う。
そしてそのチビ魔人、そんな訳無いジャンとフランクに肩を竦める素振り。自己評価が高いのか、自分より強い敵などそうそういる訳無いよとの言葉。
さっき負けた癖に、何と言うか強気な態度はかなり鼻についてしまう。ただしそれを聞いた姫香は、凄く嬉しそうな表情で自信を回復していた。
そして、それなら進んでも問題無いよねと、護人を強引に説得に掛かる。結局は、危なそうならすぐに引き返すとの約束を言質に、取り敢えず進む許可をもぎ取る事に成功した。
そんな訳で休憩後、再び進み始めるチーム『日馬割』なのであった。
炎のチビ魔人の言った言葉は、あながち間違いでは無かった様子。3層も4層も、出て来る敵は2層までとほぼ変わらない雑魚敵ばかり。
つまりは大鶏に角兎、それからコボルトが少々混じって来た程度。そいつ等も持ってる武器は棍棒や小剣程度で、護人と姫香のコンビは危なげなく対処する。
それを眺めるチビ魔人は、ちょっと不満そう。
「武器の使い方も、理力の扱い方もまるで駄目だって魔人ちゃんが言ってるよ? レイジーやルルンバちゃんの方が、まだ見込みがあるってさ。
そんな訳で、ダンジョン出たらコーチしてくれるって!」
「余計なお世話よ、だいたい気とか理力を扱うってカンフーやSF映画じゃないんだから。普通の人間は、そんな事言われても対応出来る訳ないでしょ」
確かに姫香の言う通り、ただし探索者に関してはどうなのだろうか。上級鑑定書で知る事となった、理力やSPの値はもしやそれを意味するのでは?
などと思う護人だったが、あのチビ魔人に教えを乞うのも確かに腹立たしい気も。それでも強くなれるのなら、その案は一考の余地はあるのかも知れない。
3層と4層の支道では、やはり影魔人の待ち伏せが一番の脅威だった。それをツグミとミケの連携で、何事も無く排除がして行く来栖家チーム。
追加の雑魚のパペットなど、物の数では無くコロ助の餌食に。本道も支道も順調に踏破出来たのは、ルルンバちゃんの罠発見能力の恩恵も大きかった。
ちなみに宝物だが、3層の本道でツグミが兎穴を発見した。そこを香多奈がチェックしたところ、アイテムが色々と紛れ込んでいた。
鑑定の書が2枚に緑色の魔玉が3個、どこの国のか不明の銀貨が24枚に兎の意匠のブローチが1つ。巣穴から入手にしては、たくさん取れたと満足そうな末妹。
4層では支道の小部屋に、壊れかけた納屋が存在して一同ビックリな展開に。置かれていたのも使われていない瓦が100枚以上とか、板材や角材が数十枚とか。
植木鉢や漬物石まであって、完全に農家の納屋である。一体どこで拾って来たのかと、ダンジョンの節操の無さに呆れ返る一行。
ただし、使えそうなモノを探し出す子供たちの執念もこれまた凄い。妖精ちゃんとチビ魔人の助言もあって、探し出せた良品は何とか数点に及んだ。
丈夫そうな草刈り鎌とか短弓と矢束のセットとか、変わり所では鬼瓦とか。護人もつい欲が出て、木板や角材が魔法の鞄に入らないかお伺い。
実際農家では、獣除けやら柵作りなどで板材はよく使うのだ。紗良は充分入るから持って帰りましょうと、笑顔で返答してくれた。
彼女も元は農家の娘である、そして護人の修繕やDIYを目にする機会も多々あって。その辺の理解もバッチリで、護人にしても大助かり。
瓦も持って帰ろうと言う香多奈を軽く諫め、取り敢えず1ダースずつ板材を確保して4層は終了。そして5層も、中ボス部屋まで万事良好に辿り着く結果に。
護人が心配する程も無く、そこまではイレギュラーの気配は無し。
「チビ魔人の話は置いといて、ここまでは順調だったよね、護人叔父さん。中ボス部屋の作戦だけど、今まで通りで良かったかな?」
「そうだな、いつも通り姫香と香多奈で速攻の投擲攻撃をして……ミケも今回は参戦を頼むよ、MPの回復はバッチリ出来ているかな?
他の者は壁役になって、押し上げて行く感じで行こうか。もし硬い敵が混じってたら、ルルンバちゃんの出番だな」
任せてとの勇ましい返事と共に、投擲武器を手にする姫香。紗良は銀の槍も取り出したのだが、少女が選んだのは安定と実績のシャベル2本セットだった。
香多奈も、さっき入手した赤の爆破石を選択する。チビ魔人が言うには、それには炎ダメージが封じられているらしい。
本道に出没する、動物系の敵が相手なら相性は良さげとのアドバイス。
そんな訳で、毎度の速攻を念頭に中ボス戦に挑む来栖家チーム。硬質な木製の扉を開け放ち、いざ戦いの幕は切って落とされる。
そして目にする、巨大な中ボスの姿に吃驚な一同。それは3メートルサイズの雄鶏の姿をしていて、何故か尻尾の方には蛇の鎌首も窺えた。
チビ魔人の注釈を、素早く翻訳して注意を促す末妹。いわゆるアイツは、コカトリスと言う手強い幻獣らしい。
石化ブレスは怖いから注意と、恐ろし過ぎる台詞を放ちながら。翻訳ついでに、末妹の見事なフォームでの投擲攻撃。
それに負けじと、姫香も中ボスへと『身体強化』込みでのシャベルの投擲を敢行する。ちなみに敵の前衛にいるのは、コボルト3匹と大鶏が5匹のセット。
ハッキリ言って、ボス以外は壁役代わりの雑魚に等しい。ミケの『雷槌』とレイジーの魔炎で、あっという間に駆逐されて行く哀れな壁役モンスター。
ボスのコカトリスも、炎の魔玉とシャベルの投擲で大ダメージを受けていた。石化ブレスを見舞われたら、来栖家チームに防ぐ術など無いのは当然である。
かと言って、子供達を焦らすのも悪手には違いなく。護人が悩んでいる間に、姫香の2本目のシャベル投擲が見舞われた。
更にはルルンバちゃんの、砕石チャージがコカトリスの足元に命中。完全にバランスを失って倒れ込むた中ボス、これでブレスの心配は半減した。
敵はついでに、姫香の投擲で首筋から大流血している模様。
それでもしぶとく生きているのは、鶏の持つ生命力故だろうか。何しろ奴らは、首をチョン切っても走り続けると言われている生物なのだ。
ってか、先行し過ぎたルルンバちゃんが鶏の脚に捕まれてピンチ。それを救うべく、香多奈の『応援』を貰ったハスキー軍団とミケが駆け寄って行く。
護人と姫香の前衛ペアも、覚悟を決めて前進を選択する。とにかく奴の嘴には細心の注意で、ブレスの兆候があったら潰す構えの護人である。
そんな2人の前衛到達より先に、ミケの再度の雷落としが中ボスにヒット。鶏の首より先に、尻尾の蛇の鎌首がダウンして動かなくなった。
完全に命が尽きた様子で、項垂れたままピクリとも動かない。しかしコカトリスの鶏頭は、最後の悪足掻きにと大きくその嘴を拡げる仕草。
凶悪なブレスの準備中に、その喉元へ噛み付きに掛かるレイジー。
「よくやった、レイジー……姫香っ、止めを刺すぞ!」
「はいっ、護人叔父さん……!!」
苦しみ藻搔くコカトリス、ツグミとコロ助も次々に噛み付いて、相手を動けない状態に持ち込む。そこに『身体強化』で走り込む姫香、巻物で強化された鍬を思い切り敵の胸元へと撃ち込む。
中ボスの絶叫はしかし、レイジーのせいで血に塗れたくぐもった吐息にしか聞こえなかった。続いて同じ個所を、護人の《奥の手》が貫き手攻撃。
これが止めとなった模様で、コカトリスは黒い粒子となって消えて行った。そして後には、ドロップ品が数点転がって行く。
それを確認して、安堵の吐息と共に額の冷や汗を拭う護人。圧勝に見えたが、石化のブレスとやらが通っていたらと思うとゾッとする。
取り敢えず、助言をくれたチビ魔人に感謝するが、向こうは相変わらずフランクな態度。そんな中、香多奈が嬉しそうにルルンバちゃんと一緒にドロップ品を拾っている。
お掃除ロボも、幸い大きな故障個所は無い様子。ってか、ポーションでは恐らく治らない気も。紗良なら治せるのか、その辺も不明である。
ハスキー軍団も全員無事な様子、近付いて来たレイジーを撫でながら再び安堵の表情を浮かべる護人。それでも紗良は、怪我が無いかのチェックに余念が無い。
その気遣いは、本当に有り難い限り……そしてドロップ品は、魔石(中)とスキルの書が1枚、それから尾羽根のような飾り羽根が3枚だった。
ついでに部屋の奥に、木製の宝箱が1つ。
――それを見て嘆く子供たちは、少々贅沢だなと感じる護人だった。
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