田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件

マルルン

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1年目の春~夏の件

姫香の裏回しで女子チームが結成される件

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 あれから1時間、昼食をとりながらたっぷり談話しての親密度アップ作業。怜央奈れおなは実は16歳で、姫香より年上だと判明したのには驚いた。
 何と言うか幼い挙動はそこかしこに垣間見え、紗良もこれは香多奈ちゃんと話が合うよねと納得模様。姫香も妹認定して、勝手に自分のチームに組み込む事に。

 怜央奈の性格的には、可愛いもの好きのお喋り女子って感じ。年齢よりは幼いのは話していて充分に分かるが、逆に探索者と言われてもピンと来ないかも。
 探索自体はちゃんとしたチームに入っていて、広島市でそれなりの活動をしているそうだ。まだヒヨッコのE~D級探索者で、男3人女3人のチーム構成らしい。
 ただし、今回の研修に参加してるのは怜央奈ただ1人との事。

「みんな年上だし、探索歴も私以外は1年以上はあるからねぇ? 私はお兄ちゃんがそのチームにいるから、入れて貰った感じかなぁ?
 スキルも1つしか持ってないし、あんまり戦闘とかの役には立たないよ」
「それは大丈夫、私が守ってあげるよ……明日は実習訓練で、実際にダンジョン潜ったりするんでしょ? 女の子同士でパーティ組もう、実はこっちに来た早々に嫌な男連中に絡まれちゃってさ!
 ヤンキーっぽい奴らに、田舎者って馬鹿にされて襲われかけたの」

 それを聞いて、ひどいねと憤慨する怜央奈である。ただし実際の所、現在の広島市にはそっち系の不良の存在も多いそうだ。
 怜央奈のチームも、探索中に何度か絡まれた経験があるそうで。3人じゃ不安だから、もう少し人数増やそうよとチーム編成には積極的みたい。

 それには姫香も同意して、良さそうながいたら声を掛けて行こうとのナンパ師振り。その男前な素振りに、姉の紗良はちょっと不安な顔付き。
 いや、行動の指針としては充分に理解出来る。ただ、女の子をナンパして自分のチームに編入させる言う、言葉にするとあまり褒められた代物では無いってだけ。

 それでも、自分たちの安全の度合いを上げる為に努力してくれているのだ。文句を言う筋合いも無く、年下なのに頼もしくもあると紗良は思う。
 そんな訳で、3人はホテル内の食堂を出て彷徨さまよう事に。


 実際は、4時から研修が行なわれると言う、ホテル内の会議室を覗きに行った3名。まだ2時間前なのに、会場はきちんと準備が整ってスタッフも何人か伺えた。
 そしてチラホラ、恐らくは遠方からの研修生の姿が何人か。大抵の人は手持ち無沙汰ぶさたで、スマホをいじったり手元の小冊子を眺めたりしている。

 そのペラペラの小冊子だが、どうやら今回の教本らしい。姫香たちも、入り口でチェックを受けてそれぞれ1冊ずつ貰えて判明した。
 今日を含めて3日間で行われる、講習の内容が簡単にだが記載されている。勉強が好きな紗良はテンション上がってるが、残りの2人は微妙な表情。

 それより可愛い女の子はいないかなと、室内を見渡す姫香であった。そして発見、入り口右後ろの席によく日に焼けた白いシャツ姿の娘さんが。
 怜央奈に知ってる娘かと小声で訊ねるが、彼女も知らないそう。と言う事はやはり、広島の遠方から来た新人探索者って線が濃い。

 それなら物怖ものおじする必要は無いかなと、姫香はハーイとお気楽に声を掛ける。本当に凄い行動力だなぁと、後ろから眺める紗良はやや呆れ顔。
 そして突然声を掛けられた側も、驚き顔で振り向いていた。

「こんにちは、どっから来たの……1人かな? 研修を受けに来た娘でしょ、私もついさっき西広島から出て来たの。
 名前は来栖くるす姫香って言うの、よろしくね!」
「はっ、私は瀬戸内の因島いんのしまから出て来た、瀬野せの美智子みちこと言います、どうぞよろしくお願いしまっス!
 武器は弓矢ともりを少々、17歳で探索歴はまだ8か月の初心者ですが、スキル『海賊』の名に恥じないように精進する次第でっス!
 どうぞ研修中、お見知りおきをっ!」

 大人しそうな顔だけど、どうも快活と言うか武闘派みたいな真っ直ぐな性格の娘みたい。姫香は年上で探索歴も向こうが上と知りつつ、そこはキッパリ無視する事に。
 怜央奈と共に、女子独特の怒涛どとうの会話に巻き込んで、とにかく打ち解ける作業に従事する。悪い娘では無さそうなのは、会話の中からでも充分に汲み取れる。

 怜央奈がスマホを取り出して、それぞれの活躍動画を観賞しようと提案して来た。それは良い案だと、今度は4人固まっての動画の視聴会に。
 既にお互いの自己紹介は終わってるが、室内の人数は一向に増える気配がない。まだ1時間半以上の猶予があるし、それも当然だろう。

 お陰で少々騒いでも、誰も大して注目して来ず助かる。そして因島出身と言うみっちゃんだが、アップされている動画に活躍のシーンはほとんど映っていなかった。
 どうも大人のチームに同伴する事が多く、危ない役目を与えられない過保護振りの様子。撮影役とか、戦闘に参加するにも後衛から弓矢でとかが精々みたい。

 本人はもう少し信用してくれてもと、不満はそれなりにある感じ。今回の実習訓練には、だから前衛デビューも秘かに目論んでいるのだとか。
 そんなみっちゃんの見た目だが、ベリーショートの黒髪は男の子と見間違う程。背も高いし色黒だし、海辺の町の出身なのでその辺は仕方無いのかも。

 性格的に姫香と合うのか、話し始めてすぐにこの2人は打ち解けている様子。そして来栖家チームの動画を怜央奈が流し始めると、その瞳には驚きと賞賛の感情があふれ出した。
 それを見て、何故か得意げな怜央奈である。

「凄いっ、犬や猫が探索に参加しているのも凄いけど……姫香さんは、文句なしにチームの前衛張ってるじゃないっスか!
 格好良いなぁ、憧れちゃいます!」
「ウチのチームは、ハスキー軍団を含めたチームワークが一番の武器かなっ? それが無くても、今回の実習訓練では名を上げる予定だよっ!
 みっちゃんもウチのチームに入ろう、歓迎するよっ!」
「はいっ、是非ともお願いしまっス!」

 そんな予定があったのかと、やや呆れながら話を聞いている紗良である。そして動画をあれこれ鑑賞している内に、時間もそれなりに経過した。
 研修を行なう会場内は、段々と同い年位の少年少女で埋まり始めていた。皆が一様に夏に相応しい薄着で、どことなく浮かれている感じの少年少女の姿もチラホラ。
 或いはそれは、紗良たちの様に遠方から来た人達なのかも。


 それから定時となり、唐突に2泊3日の研修会の開催が会場に響き渡った。会場前の壇上には、スーツ姿の大人が数名ほどきちっと並ぶ。
 明らかに地位の高そうな人から、スーツの似合わない体格の良過ぎる大人の姿も。あの人がA級ランカーの甲斐谷かいたにさんだよと、怜央奈の小声での紹介に。

 驚き顔のみっちゃんと、小首を傾げてその人物を観察する姫香の構図。何にしろ、偉い人の挨拶は短く済んで助かった。
 要するに初心探索者の死亡率を、この研修を通して少しでも下げたいと言う目論見もくろみが向こうにはあるらしい。それを簡潔に、大人たちが説明した感じ。

 “向こう”と言うのは、もちろんこの青少年事業を企画した『探索者支援協会』に他ならない。本当は2泊3日と言わず、3か月くらいの研修期間を組みたいのが本音なのだろう。
 それが無理なので、夏休みの間を利用したこの研修会と言う訳だ。A級探索者を呼んだのも、少しでも少年少女の集まりを良くするためだうか。

 そんな節々に見える気苦労に、何となく同情しながら開会の言葉を聞いていた紗良である。今回集まった人数だが、100人には少し満たない様子。
 80人程度だろうか、何人に声を掛けてのこの数字なのかは定かでは無いが。賑やかな会場内だが、そのざわめきは例のA級ランカーが壇上に立つと徐々に静かになって行った。

 その効果は覿面てきめんで、静かな威圧は後ろの席にいても感じる程。同じ人間とは思えない、異質な存在を感じた面々は揃って口をつぐんで緊張顔。
 その緊張の原因は、間違いなく存在の格差にあるのだろう。自らA級の探索者の甲斐谷だと名乗った人物は、この数日の研修を有意義に過ごしてくれと口にした。

 そして始まる別の研修員による、約1時間掛けての最初の講義。まずは魔素が何なのかとの話らしい、その内容の究明は探索者にとっても割と重要らしく。
 紗良も思わず、ノートとペンを取り出して真剣モード。

 講義を取り仕切っているのは、恐らくは協会の関係者なのだろう。40代の草臥くたびれた感じの中年男性だが、声はしっかりしてるし話も分かり易い。
 統計もしっかり取れているようで、データをもとに講義は進んで行く。人や物は、魔素に長時間触れていると“変質”してしまう。

 それは“大変動”以降の世界では、純然たるルールと化している。そして生き残った人類の変質率は、大体20%程度であると言われているそう。
 “変質”で体調を崩した人間も、やはり2割程度に上っているらしい。魔素に馴染まない人間は、当然だが探索者にはなれない。

 ダンジョンが産み出す魔素やその他の恩恵は、この後もこの世界に定着するかも知れないし、しないかも知れない。ある日ダンジョンが世界から消え失せる事態も、ひょっとしてあるかも知れない。
 だから一概いちがいに、魔素に適応した者を新人類と呼ぶのも躊躇ためらわれる。とは言え、適応者には様々な恩恵が訪れるのも事実。

 ダンジョン内での活動はもとより、魔素によるパワーアップやレベルアップ等々。スキルの適正も、魔素による“変質”の度合いで変化するのではと言われている。
 魔素無くして、探索者は語れないと言っても過言ではない。適応者のみ強くなれる、それが魔素と探索者の関係性である。

 魔素はダンジョン内でモンスターを生み出すが、それを倒すにも魔素による“変質”の力が必要と言う。奇妙な矛盾は発生するが、それが現代の摂理となっている。
 スキルもその摂理の一つ、モンスターを倒すのに不可欠な力となっている訳だ。その結晶とも言うべき存在が、会場の壁際で一緒に講習に耳を傾けている。
 或いはもっとも魔素に適応した人類、それがA級ランクの探索者だ。

「その反面、魔素に毒されて体調を崩す人がいるのも忘れてはいけません。先ほども言いましたが、適応者は特別でその他の人類が淘汰とうたされて行くと言う考え方は危険でもあります。
 何しろ魔素の研究は、この5年間でも大きな進展がないのが事実ですから。スキルの存在もそう、こちらの甲斐谷さんにも何度か実験に携わって貰ってます。
 後生こうせいの為に、様々なデータが必要ですからね」

 そろそろ40分が経過して、魔素と探索者の講義も佳境に入って行く。最新のデータによると、魔素の適応者は順調にその数を増やしているらしい。
 ウチの家族もそうだなぁと、姫香も真面目に講座を受けながら想いにふける。本当に有り難い事だ、ペット共々に体調を崩した者が1人も出なかったのは。

 もっとも講座では、動物の変異に関しては一言も出て来なかった。ただし、月と魔素の関係については少しだけ出て来た。
 統計として確実に、満月の日にはダンジョンも活性化する事実が報告されているそうだ。もちろん魔素も活性化、従って野良モンスターも狂暴化すると報告されているとの事。

 逆に新月の時は、魔素がわずかながらも沈静化するそう。そう言うデータも、探索活動に役立てて欲しいとはスタッフの弁。
 配られたテキストにも、色々と探索関連の情報が記載されていた。しかし最初に書かれているのは、ほとんどがマナーに関する注意事項だった。

 探索者同士のいざこざは止めましょうとか、ダンジョン外でのスキルの使用はよろしくありませんとか。武器の常時携帯は仕方無いとして、それを一般人に向けるのは論外ですとか。
 まるで子供向けの内容だが、まぁそれも仕方が無いのかも知れない。駅のホームでの強盗未遂を思い返しながら、姫香はそう思う。

 一般常識を無視する連中が、少なからず探索者の中にもいるのは事実。さっき何気なく会場内を見回した際に、姫香は例のヤンキー連中が固まって着席しているのに気付いた。
 軽く顔をしかめて、マナーの講義をもっとすれば良いのにと皮肉を交えて思ってみたり。なるほど、連中の遣り口は何となく判明した。

 奴らは宿泊目的で大金か良品アイテムを持って田舎からやって来る、お上りさんが確実にいると知っていたのだ。もし強盗が成功していたら、講義に参加せずドロンしていた筈。
 目論見通りにならず、奴らは致し方なくこの研修に参加したのだろう。新たなカモを見付けるため、恐らくそれ以外の理由は無いと思われる。

 楽して他人から金品を強奪する……そう言う腐った考えしか出来ない連中は、今後の為になるからと育成研修になど進んで参加などしない。
 それについては賭けても良い、姫香も世間知らずのお嬢様ではないのだ。

 もし姫香が奴らの暴挙を騒ぎ立てても、恐らく知らん振りで切り抜ける算段なのだろう。楽観的でモノを考えないのも、連中の毎度の遣り口である。
 姫香の通っていた中学校にも、その手の不良が数は少ないけど存在していた。先生も手を焼く問題児で、一般生徒も迷惑をこうむる事件も何度か起こしていた。

 姫香がその対策を脳内で苦悩している間に、協会スタッフによる第一講座は終了した。時刻は5時過ぎ、6時からは別会場で夕食をしながらの懇談会があるらしい。
 その間を埋めるように、今回招かれたA級探索者の甲斐谷の講座が行われる模様。間を置かず壇上に上がった大柄な男が、少年少女の目にさらされる。
 最初の挨拶でも感じたが、とにかくこの男は圧が凄い。




 ――静まった会議室に、A級ランカーの声が響き始めた。





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