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1年目の秋~冬の件
広島周辺の探索者&ダンジョン事情その4
しおりを挟む広島市で活躍している有名な探索チーム『反逆同盟』だが、何もA級の甲斐谷だけが名前が売れている訳では無い。B級ランクの“巫女姫” 八神真穂子も、予言の方面で名を轟かせていた。
その彼女も、西広島の“弥栄ダムダンジョン”のオーバーフローと、それに伴う大事件を予見したらしい。市内の協会は、ここ数日その話で持ち切り。
広島市もその予見されたダムからは遠いとは言え、廿日市市とはお隣さんだ。ちなみに弥栄ダムがあるのは大竹市で、山口県の岩国と接している小さな市である。
距離的にはJRの鈍行で1時間程度、近いとも言えないし遠過ぎると突き放す事も出来ない微妙な距離だ。広島市の協会としては、廿日市市のギルド『羅漢』からの要請もある。
そんな訳で、市内の探索チームに一応は参加を募っている次第。その内容は、移動費用やらの諸経費+1日チームに15万円とまずまず。
市内のダンジョンの間引きでは、魔石の買い取り費用にちょびっと上乗せが関の山だ。この良条件に、食い付かんばかりの少女が協会のロビーにいた。
『ノームの靴』と言うチームを、若干15歳で率いている二ノ宮凛香と言う少女である。とは言え、他のメンバーも似たような年齢ばかり。
一応申し込みに気持ちが傾いていると言うと、受付のお姉さんが参加予定チームの情報を流してくれた。件の『反逆同盟』も参加するかも知れないらしいし、安心度は高いとの事。
そのダンジョンは巨大過ぎて、大規模での探索隊を編成中なのだとか。その中に気になるチームを発見して、凛香は思わず受付のお姉さんに質問してしまう。
この『日馬割』と言うチームは、田舎で活躍している地元探索オンリーのチームでは無いのかと。その素朴な問いには、ギルド『羅漢』のマスターが口説き落としたらしいよとの返答が。
詳しい経緯は不明だが、向こうもモロに西広島のチームである。他人顔は出来ないんじゃないかと、お姉さんはそんな推測をしている。
凛香はこのチームのE‐動画を、以前偶然に見た事があった。犬や猫を同伴させて、何やら楽しそうに探索していたのが印象に残っていたのだ。
更にはスレ版で、子供を同伴させているんじゃないかと、ちょっとだけ炎上しそうになっていた筈。凛香はそれに対して、子供が探索して何が悪いと、思わず擁護の意見を発してしまっていた。
書き込みなどした事が無いのに、周囲の大人たちの反応に腹が立って。
自分のチームは親無しの子供ばかりで、繋がりと言えば同じ集合住宅に住んでいたって程度だ。以前は3つ年上のリーダーがいたのだが、その男の子は探索で呆気無く命を落とした。
かくして凛香にリーダーの座が回って来て、機能しない行政の救助政策の中で生き延びる日々。放置された店舗や家屋に押し入って、食料や物資を得て命を繋ぐのも日常茶飯事だった。
そしてたまに野良と遭遇し、命懸けの鬼ごっこを体験したり。そうやってしぶとく生き永らえるも、状況はちっとも好転しなかった。
元々都会に未練など無かったのだが、かと言って田舎に頼れる親族もおらず。荒廃して行く都会を眺めながら、その日暮らしで生き永らえていると。
ダンジョンに入ってモンスターを倒せば、強い力を得られると言う噂を耳にする事に。しかも魔石とポーションが、換金率が高い儲けになるらしい。
その頃の仲間は、リーダーを含めて子供ばかりだが8人もいた。この人数なら、何とか敵を倒せるんじゃないかとの希望的観測でチームは発足した。
それが初代『ノームの靴』の、チーム結成秘話である。その時のリーダーは亡くなったし、“変質”で体調を崩した子もチームに2人もいる。
今は5人編成チームで、旨味のありそうな探索場所を探して潜る毎日。
夏には協会から研修参加の話も来たが、同じ年代の子供達と仲良くお勉強なんて、正直耐えられそうになかったので断った。
自分たちが一番不幸だと言うつもりは無いが、恐らく格差は想像以上にある。それを改めて突き付けられるのに、凛香は耐えられそうになかったのだ。
今も動画で確認したチームは、庭で花火やバーベキューを楽しんでとても幸せそう。周囲には豊かな緑が拡がり、頼もしそうな保護者までいる。
自分たちは持たざる者の集合体集団だ、こんな楽園住まいの探索者チームとは立場が全く違う。そう思いながら、凛香は協会の喫茶ルームで尚もそのチームの動画を観賞する。
探索者を続けるうえで、“強さ”は絶対に必要な能力である。ただし“探索を楽しむ能力”など、必要なのかと凛香は不思議に思う。
多少の妬みは混じっているが、命の危険に対しての不真面目さが窺えて腹立たしい。その思いが、凛香の心に湧き立って消えてくれそうもない。
E‐動画の活動に関して言えば、凛香もその界隈ではちょっとした有名人である。少しでも食費の足しになればと、唯一持っていたスマホでの撮影を投稿した所。
美人の探索者がいるぞと、オジサン探索者連中を中心に有名になったのだ。それが話題となって、動画再生数が伸びて今では市内の有名チームの仲間入りを果たした。
もっとも、探索能力に関してはトップのチームに較べられる程の力を持たないけれど。ただ単にアイドル的な立ち位置に押しやられ、応援してくれる大人が少し増えただけ。
それが欲しかった生活の助力になるとは、何とも皮肉な話ではある。例の犬猫同伴の探索者チームに限っては、特に女の子の魅力で売り出すつもりは無い様子。
それでも不思議な魅力で、結構なファンは付いているみたい。
凛香も興味が湧いて、そのチームの最新の動画を観てみる事に。するとそのチームに弟子入りし、居候までして修行に励む同年代の女の子の姿が!
思わずその行動力と、居候を受け入れる家族の懐の深さに声を失う凛香。世紀末とも言われるこの“大変動”以降のこの現代で、何と言う絆の物語だろう。
にわかには信じ難いが、こんな人たちも未だにいると言う発見は、少女にとっては驚きだった。そして考える、これを直接確かめるにはどうすれば良いだろうかと。
そう言えば協会の受付のお姉さんも、探索者同士の横の繋がりは大事だと、親身になって心配してくれていた。
アレは確か研修旅行の誘いの時だったか、その時は特に心には響かなかったけど。考え直してみると、幾つもあった筈の助言や未来の選択肢を、拒んでいたのは自分の依怙地さだったのかも知れない。
迷った結果、凛香はさっきの受付のお姉さんに訊ねてみる事に。すると、割と簡単にそのチームとの接触の手段が入手出来た。
「このチームの地元でね、毎月最初の日曜日に『青空市』が開催されるの。そこでこのチームは、毎回販売ブースを借りて探索で入手した品物とか売ってるそうよ?
広島駅から電車で1本だから、市内からも行く人はいるみたいよね」
「そうだったのか、知らなかった……その町についてだけど、市内と違って食糧問題とか関係ない豊かな土地なのかな?」
「う~ん……市内に較べれば、田舎はどこも豊かには違いないけど。この日馬桜町はちょっと特別で、他からは“魔境”って呼ばれてる場所なのね!
大きくは無い町なのに、ダンジョン数が25個もあるんですって!」
――それはビックリ、凛香の決意は一瞬にして揺らいでしまった。
平成の大合併の前は、廿日市市は人口こそ多かったモノの、面積的には全く大した事は無かった。それが佐伯町や吉和村を次々と吸収して、次第に大きくなって行き。
挙句の果てには、カープ二軍寮のある大野町や、世界遺産“厳島神社”の建つ宮島町を合併して行き。その面積と勢いは、お隣の広島市に迫る勢いとなっていた。
いや、それはちょっと過度の誇張を含むけれども。
そもそも人口では段違いに差を開けられてるし、吉和村を吸収したって人口の増加は微々たるモノ。それが今や、“大変動”以降の人気物件になろうとは。
誰も思わなかった事態だが、吉和への人口流入は一時期それは凄かった。そのせいで諍いも起こったりはした時期もあったが、今は概ね平和である。
そんな経緯を持って面積を広げて行った廿日市市だったが、お隣の大竹市はそんな華やかさとは全く無縁。平成の大合併で、ただし大きな夢だけは持っていた。
何しろお隣は有名な宮島を有する大野町と、県は違えど岩国市が存在する。別県同士の合併も不可能じゃ無いよねと、どちらと合併しようかなと浮かれていた所。
どちらからも袖にされると言う、まさかそんな悲しい未来が待っていようとは。そんな市に超広域“弥栄ダムダンジョン”が出現しのは、果たして偶然か否かは不明。
それでも、ギルド『羅漢』の高坂ツグムが予知したのだ。何らかの騒動は、近々確実に起こると周囲は凄い騒ぎよう。
そしてもう1つ、見逃せない吉和周辺の予知の内容が……それは“もみの木森林公園”に、蜘蛛の女王が出するとの内容だった。
ここにはダンジョンなど存在しないので、この予知は新造ダンジョン出現とも取れる。この予知は、そんな訳でかなり厄介な案件に認定されてしまった。
それを踏まえて、昼夜を問わずのパトロールが業務に組み込まれ。割を食ったのが下っ端のギルド員や、元警察官や消防署員で構成された自警団である。
彼らは元は市民を守ると言う任務を持ってたが、溢れる野良モンスターに対しては話が違うと職場を放棄して。結果、職を失って自警団に組み込まれた救われない者達である。
ただし、人手不足の昨今ではそれなりに使い道もある。そんな連中の集まりだから、溢れ出る愚痴は止められないのは致し方ない。
まぁこうやって、敷地だけはやたらと広い夜の森林公園をパトロールさせられれば、確かに文句の一つも言いたくなる。
若いからと言う理由だけで割り当てられた深夜の見回りに、しかし彼らは全く熱心では無かった。どちらも元警官の彼らは、手にはボウガンと鉈を所持して恰好だけは立派。
両者はそれなりに、物騒な体格と雰囲気を有していた。ただし醸し出しているのは、ヤル気の無さと早く帰って寝たいと言う欲望のみ。
それでもさすがに、その不審車を見逃す程に眼は曇っていなかった。それは一般的な大きさのキャンピングカーで、音もなくゆっくりと動いていた。
月明かりのお陰で、車上に座る3名の人影もバッチリ窺える。2人は思わず立ち止まって二度見するも、それは消えてはくれなかった。
「おっ、おい山田……アレって何に見える? 俺の見てる幻でなけりゃ、車の上の人影に角みたいなの生えてないか?」
「うん、何だアレ……? それより運転席に人が居ねぇぞ、どうやって動いてるんだ、あのキャンピングカー?」
キャンピングカーが静か過ぎるのは、井森はガソリン車じゃ無いからと思っていたのだが。山田に言われて改めて運転席と助手席を見るも、確かに誰も乗っていない。
どう言う事だと首を傾げるが、車の上の鬼の姿は見過ごせない。いわゆる野良モンスターだ、アレを放置するのは道義的にもとても無理な相談。
車は尚もゆっくりと近付いて来ており、サイドの扉が開きっぱなしなのに気付く2人。その中は真っ暗で、扉の奥から冷たく不穏な空気を放っていた。
怖気づく2人だが、手に持つ重たい感触のボウガンに束の間勇気づけられ。即座に移動した木陰から、狙いをつけての狙撃へと移行する。
敵は3体、その内の1体は小柄な子供のシルエット。
そして恐らく、残り2名は若い女性と老人の姿をしていると、そこまで認知して山田の記憶は途絶えた。若い女と目が合った気がしたが、それを確認する術は永遠に来ずの結果に。
井森はもっと明確に、自分が殺される場面を自覚していた。放たれた矢弾は弾かれて、気が付いた瞬間には目の前に額に角を持つ老人が出現していたのだ。
それから心臓目掛け、手刀を一突きされた感触が。
――そんな彼らの死体が発見されるのは、翌朝になってからだった。
元は宝石の形をしていた、意志を持つ向こうの世界の生命体はとても暇だった。ダンジョンが産み出す魔素を時折横取りしながら、自分と相性の良さそうな生命体が通り過ぎるのを待つ日々。
今は立派な剣の形になっているが、その理由すら既に朧気な始末。時折訪れる野蛮な生命体に、妥協してついて行こうかなと挫けそうになりながら。
それでも我を通し続けているのは、まぁ幾つか理由が存在する。1つは己に訪れた進化である、もう少し魔素を吸収すれば、自身での移動も可能になりそう。
それからもう1つは、ある種の予感とでも言おうか。ダンジョンが活性化して来たこの時期は、確か知的生命体が大挙して押し寄せるシーズンでもある。
つまりは、自分の噂を聞きつけた輩も、少なからずやって来る筈。それが恐らくは、最後の選り好みになるだろう。
そこでの相性チェックが全滅なら、仕方が無いので自己進化にパワーを注ぐしかない。まぁ、下手に変化すると元に戻るのも大変なのだが。
手段としては取りたくは無いが、我が儘ばかりも言っていられない。何しろ、待ってばかりの日々は本当に暇なのだ。
暇とはある種の悪である、碌な考えが頭に浮かばない極限状態だ。
異界の生命体はひたすら待つ、その運命の出逢いが訪れる時を――
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