田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件

マルルン

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1年目の秋~冬の件

伝説の剣の周辺の騒ぎに巻き込まれる件

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 サハギンの群れは集落分けの移動中だったようで、中にはサハギン武将やら魔術師やら、挙句の果てには召喚士まで混じっていた。
 探せば王様までいたかもだが、恐らくハスキー軍団に倒されて天寿を全うしたのだろう。とにかく敵の勢いは凄かったが、砦が無い分楽が出来た。

 殲滅せんめつ速度は集落攻めの比ではなく、召喚士が奥の手の召喚に及ぶのも物凄く速かった。そして出て来たのは、ドラゴンかと見紛みまがう巨大イモリ。

 そいつの出現には、恐らくだが敵のサハギンも被害を受けていた。ひょっとしたら、そいつのせいで王様が潰れた可能性も。
 その偽ドラゴンだが、結構素早い動きで暴れ回り始めていた。ただし知能は低いようで、ただ威圧の鳴き声だけは威勢が良かった。

 護人が張り付いて抑えにかかるが、ほぼ無秩序に暴れ回る巨大イモリの固定は難しい。それでも勝手に暴れるイモリを敵陣に押し込めば、向こうが自然に崩れて行く不思議。
 最後には良く分からない尻尾切りスキルで、跳ね回る尻尾に吹き飛ばされる、哀れな敵陣の兵士たちであった。

 戦況が落ち着いた所で、姫香の斬撃とレイジーのほむらの魔剣の攻撃で沈んで行く偽ドラゴン。完全に召喚相手と場所を間違った感が漂う中、取り敢えずの完勝を祝う一行だったり。
 ついでに言うと、召喚主もいつの間にか魔石と化していた情けなさ。

「何か途中から、向こうが勝手に自滅しちゃったね、護人叔父さんっ。ってか、獣人たちって引っ越しするんだね、知らなかったよ」
「集落の人数が増え過ぎたとかの理由なのかな、良く分からないけど。そうだとしたら、オーバーフローの前兆だったのかも知れないね。
 だったら、間にあって良かったと喜ぶべき?」

 姫香の問いに考え込んだ紗良の返しの言葉だが、案外と的を射ているのかも。何しろ誰かのスキルの予知夢で、その映像が浮かんだとか聞いた気もする。
 とにかく宝物の回収だと、魔石を拾いながら香多奈が騒いでいる。そんな中、姫香が偽ドラゴンが暴れて散らばったドロップ品を回収しながら、ようやく念願のモノを発見したと報告して来た。

 ドロップ品も割と豊富で、魔石(小)が5個くらいに武器や防具も高価そうなのが幾つか。たかがサハギンだが、12層ともなると割と良い品を所有している。
 姫香の見付けた宝箱も銀製で、姉妹からは歓声が巻き起こる。そこから出て来たのは上級の鑑定の書が4枚に虹色の果実が2個、MP回復ポーション700mlと上級ポーション800mlの薬品2種。

 魔玉も風と水の2種が5個ずつ、それから当たりのスキル書1枚とやたらと豪華な鎧一式が箱の中に揃えられていた。最後に金の延べ棒的なのが何枚か、箱の底で鈍い光を放っていて。
 感動しながらそれを取り上げる末妹、コロ助も興味深そうに鼻先を近付けているが。美味しそうでないと思ったのか、すぐに離れて行ってしまった。
 そして回収作業は終了、休憩しながら現在位置の把握を始めるチーム。

「もうかなり近付いたと思うんだけどな、一番高い丘なんでしょ? あっちのあの丘なんじゃないかな、良く分かんないけどさっき人影が見えた気がしたよ?」
「一番大きい丘なら、ここから見た限りじゃあ確かにあっちだな。それじゃあ時間もあるし、そっちに向かってみようか」
「時間もそろそろ残り1時間くらいだしねぇ、剣の相性チェックして入り口に歩いて行って、丁度良い位なんじゃないかな?」

 紗良の言葉に時計を確認する護人、確かにそんな感じで時間は丁度良さそうだ。それじゃあ最後の踏ん張りだぞと、リーダーの激励に元気に返事をする子供たち。
 ハスキー軍団もまだまだ元気、行き先が決まると先頭を切って歩き始める。ただしさっきの移住獣人の集団を倒してから、敵との遭遇率はめっきり減ってしまった。

 戦闘が何度かあるも、ハスキー軍団が率先して片付けて行く毎度のパターン。そんな訳で、5分以上掛けて一番怪しい丘へと到着する来栖家チーム。
 そしてようやくご対面の、伝説の剣の威圧感におおっと感動する子供たち。もう抜かれてて無いんじゃないかなとの懸念は外れて良かった、凄いお宝と言う予想は大当たりの予感である。
 とにかくその存在感と、魅了力は半端ではない感じ。

「すっごい剣だねぇ、思ってたより十倍くらい立派かも……この柄の宝石とか、信じられない位に綺麗だよ! これ抜けたら、持って帰っていいんだよねっ!?」
「私からやっていいかな、駄目だったら次は護人叔父さんねっ!」

 こんな時の仕切りは秀逸な姫香が、まずはと一番手に立候補する。護人は何となく周囲を窺いながら、この静けさは何だろうと一人いぶかしんでみたり。
 この伝説の剣の威圧感が、恐らくは周囲一帯へと及んでいるのかも。魔素を大量に放出しているのか、ハスキー軍団も酔ったように足元がふらついている。

 余りここに長居は危険だなと、そんな事を思っている内に姫香の残念そうな絶叫が響いて来た。妹の香多奈も凄く残念そうで、地団駄を踏んで悔しがっている。
 本気で姉なら抜けると思っていたようで、その姉妹の信頼感は称賛に値する。そして次は護人叔父さんねと、明るく振られた自分は一体どうすれば。

 ってか、何だかひたすら嫌な予感……コイツはひょっとして、意志を持つ存在なのでは? 例えば護人の背中で拒絶の反応を示す、薔薇のマントのように。
 そんな奴に浮気しないでと、声にならないシグナルがやたらとうるさく脳内に幻聴が響いている。

 それでもこんな茶番に、長々と時間を掛けるのも馬鹿らしい。ちょっと抜く振りをして……いたら、数センチ柄が浮き上がって驚き慌てふためく護人と子供たち。
 ただし、それ以上はどう頑張っても無理な様子でホッと安堵のため息。

「ああんっ、今の絶対に惜しかったよ叔父さんっ! 絶対少し動いたよねっ、最初よりちょっと浮いてるもんっ!」
「実際、今ちょっと抜けかけてるのかも……試しに香多奈もやってみなよ、駄目ならレイジーたちも動員しようっ!」

 姉の姫香の恒例の無茶振りに、大張り切りで応える末妹と言う構図。珍しく妖精ちゃんも頑張れと声援を送る中、香多奈の小さな手が大振りな剣の柄に伸ばされる。
 その時、まばゆい光が周辺に満ちて行った……気がしたが、実際は定かではない。気が付いたら、香多奈がやたらと長大な剣を掲げて丘の上で放心していると言う。

 それを見守る家族も同じく、これは何の冗談だろうと言う気分。それを打ち破ったのは、突然の襲撃とハスキー達の警戒の吠え声だった。
 ほぼ同時だったのは、ハスキー軍団の鼻をあざむく工夫を向こうがしていたせいなのかも。それとも伝説の剣の放つ魔素だか威圧感で、それが機能しなかった可能性も。

 とにかく、隠れていた襲撃犯のファーストアタックは熾烈だった。敵は3ヵ所に隠れて潜んでいたようだ、その1つからサブマシンガンの銃声が鳴り響く。
 それを身を張って受ける護人とコロ助、コロ助に関しては瞬間移動したかのような身のこなし。その騒動に、悲鳴を上げてしゃがみ込む子供たち。

 コロ助は何故か自然と倍化していて、その体躯で見事に盾役をこなしていた。そして怒りの炎を放つレイジーのお陰で、射撃音は一時止む事に。
 ただし、他の2方向からもボウガンと魔法の氷の槍の連撃が。それを『圧縮』で受け止める姫香と、身体を張って食い止めるルルンバちゃん。

 向こうのチームには外人も混じっていて、どうやら悪い噂の岩国チームの可能性が。その内の1人が、巨大な盾を構えて突っ込んで来ようとしている。
 更には、恒例の魔玉のばら撒きが敵チームから。

「紗良と香多奈はルルンバちゃんの影へ、とにかく耐えてくれっ!」
「私が防いでみせるよっ、護人叔父さんっ!」

 投げられた爆発物に反応して、『旋回』で宙に飛び上がった姫香。そのスピンは2度3度と続いて、終いには大きな旋風つむじのような力強さを備えて行った。
 その風圧で、向こうが投げた小さな魔玉は目的を果たせず散り散りに。見当違いの場所で破裂して行き、こちらの陣営に被害は無し。

 それどころか、姫香が創り出した《豪風》は敵を見初めてそのまま敵陣へ突っ込んで行く。慌てて逃げ出す2人組、拠点の1つはこれでしばらく無力化出来そう。
 ところがマシンガンを持つ拠点が、再び息を吹き返した様子。人を馬鹿にしたような軽い発砲音が、無慈悲に来栖家チームへとばら撒かれる。

 今回それを防いだのは、『隠密』で不意打ちを果たしたツグミだった。その牙を利き腕に受け、思わず絶叫を放つ迷彩のアーミー服を着た外人の襲撃者。
 普段の温厚なツグミからは考えられない怒気を放ち、その奇襲はそのひと噛みでは終わらず無慈悲だった。

 次いでの変化は地面から……影と言うか闇がその男を覆い始め、あろう事か地面の影へと呑み込まれて行く。外国語での絶叫とののしり声はしばらく続いたが、男の顔はやがて全て地面の下へと吸い込まれて行く。
 その後はついに、彼は無音の世界の住人へ。


 一方の姫香も、怒り具合で言えばツグミに負けていなかった。妹を叱咤しったして、反撃に炎の魔玉を向こうに投げ付けろと指示を飛ばす。
 そしてレイジーの最新必殺技へと、繋ぐ布石を催促する頭の冴えを発揮。

 護人は盾持ちの襲撃犯と、丘の途中で足止め戦を始めていた。そして香多奈が投げた炎の魔玉は、目論見もくろみ通りにレイジーの《狼帝》の餌へと昇華されて行く。
 3匹の炎の狼が、襲撃犯を追いかけ始めて相手は途端に混乱におちいる。ただし、氷の魔法を使う日本人っぽい男は、その場で迎撃を始めて踏ん張り始めた。

 よせばいいのに、その努力が彼の寿命を縮める結果に。炎の狼にばかり集中して、肝心のレイジーの接近に気付く暇もなく喉元へと噛み付かれる。
 哀れな魔術師は、そのまま反撃もままならず絶命したのだった。

 盾持ちのアーミー服の大男も、ミケの横槍の『雷槌』とルルンバちゃんのアームの大振りで、信じられないほどの距離を飛んで行く破目に。
 あのまま人と殺し合いをする気も無かった護人は、ホッと胸を撫で下ろす。自陣では、紗良がいち早く怪我を負ったコロ助の治療を始めていた。

 長女はどうも弾丸が体内に残っていて、それをどうすれば良いか分からないと慌てている。姫香も肩からボウガンの矢を生やしていたけど、こちらは防具のお陰で生身に怪我は無い。
 つまりあれだけの用意周到な不意打ちを喰らって、幸いにも怪我を負ったのはコロ助だけみたい。

 いや、コロ助が咄嗟に身をていしてかばってくれなければ、後衛にも被害は及んでいた。半ベソ状態の香多奈が、偉いねぇとコロ助にしがみ付いて頭を撫でている。
 どの道、これ以上の探索は意味が無いどころか危険ですらある。

 やりどころのない怒りと共に、昨日に続いて『帰還の魔法陣』を躊躇ためらわずに使用する護人。治療はこの危険地帯を去ってからだ、末妹をなだめながら優しくそう呟く。
 そう言えば、連中の意図は何だったのだろうと改めて思い起こす護人。思考は呟きで声に出ていたらしく、恐らくここに寄って来る探索者を待ち伏せていたのではと紗良の冷静な予想。

 なるほど、どことも分からない場所でいきなりの遭遇戦を行うより、確実に探索者が寄る場所に罠を仕掛けるのは賢いやり方かも。
 しかも伝説の剣を抜いた後なら、それを横取り出来る可能性も。

 そう思い至って、案外賢い襲撃犯だったのかなと考えるも。他人の懐に堂々と手を突っ込むやからを、褒め称える自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう護人である。
 そんな事を考えていると、姫香が何かを拾って戻って来た。

「香多奈の抜いたあの仰々しい剣無くなってたよ、護人叔父さん……代わりにが落ちてたけど、持って帰るべきかな?」

 姫香が差し出したのは、明るいオレンジ色の大振りな卵だった――




 そこから『帰還の魔法陣』で、一気に“弥栄やさかダムダンジョン”の入り口前へと無事に脱出を果たした一行。慌てて出迎えるスタッフに、姫香は小型カメラを返却する。
 ところが向こうも、こちらに対して文句と言うか言いたい事があったよう。どうやら留守中の来栖家のキャンピングカー周辺で、数時間前にひと騒ぎあったらしい。

 それは護人のあずかり知らぬ事ではあるが、車の護衛の魔人ちゃんが見事に責務を果たしてくれたようで何より。
 ところが彼はやり過ぎたらしい……襲撃犯の腕を3人分叩き切って、落とし物としてここのスタッフへと届けに来たそう。

 もちろん魔人ちゃんの言葉など、ただの人間の彼に通じる筈も無い。ただし、昼を待たずにダンジョンから出て来た、やさぐれ探索チームの雰囲気から何かやるなとスタッフも察していた様子。
 こっそり後をつけて、その襲撃の一部始終を見ていたそうな。

「見てたんなら、食い止めてくれればいいのに……」
「そんなっ、奴らは札付きのチンピラですよっ!? 私1人で止められる筈も無いでしょうにっ!?」

 何にしろ、キャンピングカーの護衛を魔人ちゃんに任せておいて本当に良かった。その後の魔人ちゃんのお茶目な挙動はアレだが、これで後腐れなくこの場を去る事が出来る。
 ダンジョン内で、3度も同業者に襲われたのは腹立たしい出来事ではある。ただし、このスタッフに文句を言っても何も始まらない。

 最後に集めた大体の魔石の数を報告して、無事に帰還許可を彼から貰う。そして怪我を負ってるコロ助を労わりながら、何とかキャンピングカー前へと辿り着く。
 そんなコロ助は毎度の事のように、血を流しつつも割と元気だった。

 これもHP効果なのかも、ある意味ダンジョン内のモンスターよりタフある。留守番をしていた魔人ちゃんも、コロ助の怪我の容体を覗き込んで、弾丸が4つめり込んでるねと指摘して来る。
 そして、AIロボルルンバちゃんの《念動》で取り除いては如何いかがと、さり気なく助言をくれる紳士振り。




 ――その言葉に沸き立つ一同、それからコロ助の全快に10分と掛からなかった。









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