隣の席のヤンデレさん

葵井しいな

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祈りのようななにか

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 「えー、これから席替えをしたいと思います」

 放課後、帰りの会で先生がそんなことを言った。
 するとあちこちから歓声が上がり始めた。

 確かにもうそんなタイミングか。
 二年生に上がってから三ヶ月も経つし、ここいらで変化を求めようというのも分かる。
 納得したように頷きながら隣を見やる。

 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」

 真白ちゃんの顔が蒼白だった。
 瞳は相変わらずよどんでいて、ぶつぶつと同じ言葉を繰り返している。
 今にも倒れてしまいそうだ。

 「真白ちゃん、大丈夫?」
 「私、席替えしたくない。千歳ちゃんの隣がいいの」

 嬉しいことを言われ、思わず胸がきゅんと鳴る。
 私としてもそのお願いは聞いてあげたいけど、教室の雰囲気に飲まれてしまっていた。
 多勢に無勢、今の私はなんの役にも立ちそうにない。ごめんね。

 そうこうしているうちにも話は進められていき、教卓の上に箱が用意された。
 手が突っ込めるように上に穴が開いているタイプのものだ。
 すでに中にはくじが用意されているらしい。
 
 「じゃあ、出席番号順に引きに来て」

 一人、また一人とクラスメイトがくじを引いていき、とうとう真白ちゃんの出番。
 プルプルと足を震わせるその姿は、まるで生まれたての小鹿のよう。
 
 「……っ」

 席へと戻ってきた彼女は、四つ折りになったくじを開けられないでいた。

 うんうん分かるよ、緊張の瞬間だもんね。
 
 私も同じようにくじを引きに行き、ぱらっとめくってみる。
 十番という数字が書かれてあった。

 これと、黒板に書かれた数字がある場所が自分の席になるという寸法だ。
 どれどれ……右端から二列目の一番後ろの席か。悪くないかな。
 
 「真白ちゃんは、何番だった?」
 「怖くてまだめくれてないの」
 「大丈夫だよ、祈りはきっと通じるから」
 「ほんとに?」
 
 私は大きく頷いてみせる。
 もしも離れたら監禁されるかもしれないななんて考えが脳裏をよぎり、冷汗がダラッダラだ。

 「……私、五番だった」
 「五番? ていうと」
 
 もう一度、黒板を注意深く見てみる。
 右端の一番前の席が一番で、左端の一番後ろが三十番という並びだ。

 ということは五番目って……。

 「あっ、真白ちゃん私の隣だよ!」
 「う、うそ! やったぁ」

 喜びのあまり真白ちゃんが私に抱き着いてきた。
 私も奇跡が起こってちょっとうるっときてます。
 
 「……百合」
 「……百合だ」 
 「……百合ね」

 こころなしか周囲の人たちから生温かい目で見られている気がする。
 多分、気のせいだと思うけど。

 このまま喜びをかみしめたかったものの、さっさと移動しろと先生のお小言が飛び、教室内での大移動が行われた。
 
 「また隣だね」
 「うんっ」

 新しい席へと腰かけた私に、真白ちゃんが笑みを向けてくる。
 同じように私も笑いかけた。

 こうして私の隣の席はまたもヤンデレさんとなったのでした。
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