隣の席のヤンデレさん

葵井しいな

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深淵を見た

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 「それじゃ、好きなだけゆっくりしてってね」
 「は、はい」
 
 真白ママがそう言って、パタンと扉を閉めていく。
 十畳ほどの部屋の中には私と真白ちゃんの二人きり。
 
 とりあえず、落ち着こう。
 出された飲み物に口をつけ、ふぅと息を吐いた。

 手錠はすでに真白ちゃんの手によって外されている。
 久しぶりの解放感。けれど軟禁されていることに変わりはない。
 ……気のせいかもしれないけど扉が閉まった後、ガチャリって鍵を閉めた音が聞こえたからね。

 「千歳ちゃん、後ろなんか見てどうしたの?」
 「う、ううんっ! なんでもないよ」

 真白ちゃんの瞳が濁り始めたので、咄嗟に言葉を返す。
 「ママ綺麗だもんね、ぶつぶつ……」となにやら不穏な雰囲気を放っている模様。
 
 かなり気まずいので、私は明るく声を上げてみせた。

 「ま、真白ちゃんの部屋、女の子らしくて可愛いね!」
 「えっ、そ、そうかな?」

 おおっ、食いついてきた。
 前のめりになる彼女に、うんうんと頷きを返す。

 「ぬいぐるみたくさんあるし、部屋全体がピンク色でファンシーな感じ。私の部屋はどちらかというと殺風景だから、こういうの憧れちゃうな~」
 「ありがとう、部屋を褒められたの初めて……」

 照れているのか彼女の頬がピンク色に染まった。
 恥じらう姿は私の何倍も乙女で、とても可愛らしい。

 「……今度、千歳ちゃんの部屋にもお邪魔したいな」
 「いいよ、おいでよ! なにもおもてなしとかできないけど」
 「そんなの気にしないで」

 お互いに和気あいあいな状態で会話が続いているぞぉ……と、感じていたのは私だけだったらしい。
 すぐさま真白ちゃんの瞳に深淵を見た。

 「……私、千歳ちゃんのことならどんなことでも知りたいの。朝は何時に起きるのかな、寝起きの体温はどの位なのかな、寝癖はどんな感じなのかな、ベッドから降りる時はどっちの足からなのかな、盗聴器と小型カメラを仕掛ける場所はどの辺がベストなのかな、家でどのくらい笑うのかな、机の引き出しにはなにが入っているのかな、日記とかつけているのかな、家具の配置箇所はどんな感じなのかな、服とか下着は何着ぐらいあるのかな、いつも座っている椅子の硬さはどのぐらいなのかな、ゴミ箱に入っているものはどんなものかな、お菓子を食べた後に指をなめるのかな、お風呂上りはどんな匂いがするのかなとか……」
 
 家に、上げたくないなぁ。
 瞳を濁らせながらぶつぶつと呟く真白ちゃんを見て、ぼんやりそんなことを思う。
 
 ……その後、二時間ほど話を聞かされたのち、なんとか家に帰ることが出来ました。
 ふぅ~っ。
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