隣の席のヤンデレさん

葵井しいな

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 「こ、ここが真白ちゃんのお家?」
 「うんっ、そうだよ」

 学校から歩くこと約十分。
 顔を上げた先にあったのは、二階建ての立派な一軒家だった。
 私の家よりも大きくてけっこう広めの庭なんかも付いている。
 ここでバーベキューとかしたら楽しそう。羨ましい限りだ。

 「ささ、上がって」
 「お、お邪魔しま~す」

 真白ちゃんの後に続くように声を上げつつ、私は扉をくぐった。
 玄関先を見ると靴が一足置いてある。家族のものだろう。

 なんて考えが頭をよぎっていると、パタパタという音が近づいてきた。
 少しして現れたのは若い女性。見た感じ真白ちゃんを大人っぽくした感じだろうか?

 「おかえりなさい真白。……あら、そちらにいるのはお友達?」
 「うんっ! 同じクラスの綿貫千歳ちゃんだよ、ママ」
 
 えっ!? この人真白ちゃんのお母さんなの! 若すぎない!? お姉さんかと思ったよ!

 驚きのあまり口をあんぐりと開けていると、真白ママはにっこりと微笑んできた。

 「いつも真白と仲良くしてくれてありがとね。どうぞゆっくりしてって」
 「いえいえこちらこそ! あの、はいっ! ゆっくりします(!?)」

 緊張のあまりテンパるも、なんとか言い終えることが出来た。
 とりあえず落ち着こうと下を向き、そこではたと気づく。

 真白ちゃん、そういえば手錠かかったままだよ!
 
 若干ヤンデレ気味の真白ちゃんから拘束されてたことを、今の今まで忘れていた。
 どうしよう、こんなとこ真白ママに見られでもしたら……。

 友達にこんなことしちゃダメでしょ、って怒られちゃうよねきっと。

 手錠の付いた腕をどうしようかと考えを巡らせていると、なにやら熱い視線を感じる。 
 視線を辿った先には少し表情を曇らせる真白ママの姿が。

 「あ、あのっ、これは」
 「真白ダメじゃないの」

 私の言葉を遮るように被せてきた真白ママは、

 「そのまま付けたら、お友達の手首に痣が出来ちゃうでしょう? 女の子なんだから気にかけてあげないと」
 「……へ?」
 
 あれぇ、なんか予想してた回答と違うような。
 
 首をひねる私をよそに、真白ちゃんが口を開く。

 「ごめんなさいママ。これ初めて使うから、そこまで考えが回ってなくって」
 「ううん大丈夫よ、初めては誰でも失敗するものよ。……私もパパを捕まえるのに苦労したもの。カバンの中に盗聴器を仕込んだり、デートで招いた部屋に監禁したり、私以外を見れないように……」

 うーーん、おかしい。
 真白ママの口から聞きづてならない言葉がわんさか飛び出してる。
 それとキラキラした目で聞いてる真白ちゃん。

 場違いな私はさっさと帰ろうかなと思ったけど、手錠が付いたままなので無理。
 汗がダラダラと流れているのは暑さのせいだと思いたい。

 「あらまあ千歳さんたらすごい汗ね? 今タオルと冷たい飲み物用意するから。真白、部屋に案内してあげて」
 「うんっ」

 おかまいなく、なんて口にしようとしたけど真白ちゃんに引っ張られ、廊下を進む羽目になる私。
 後ろを向くと真白ママがニッコリ笑顔。
 
 今日、無事に帰れるんでしょうか……?
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