若がえる“老夫” と 老いてゆく“少女”は

すみれ

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 老夫は、鳥の鳴き声で目を覚ました。その鳥は家の表にある林の中に巣を作って暮らしている。羽は鮮やかな葵色で、人懐こかった。

 老夫は白い頭をかきながら、重い身体をベッドから起こして窓を開ける。朝陽とともに春の風が部屋を包んだ。

 老夫は牛が10頭ほどいる小さな牧場を営んでいる。家の裏口から出て、番犬と一緒に牛を牛舎から外へ出す。今日も相変わらず 牧草地は碧く光り、白黒の牛がよく映えている。

 牛を牛舎に戻して搾乳をする。老夫は搾った牛乳を一升瓶に入れて家へ戻り、搾りたての牛乳を使って朝食を作った。


 朝食を食べ終えると、老夫は白い30cm四方のキャンバスを持って出かけた。 絵を描くのが老夫の趣味だったのだ。

 今日はどこの辺りに行こうか。いつもより、少し遠くの方へ行こうか。そうしよう。と、心に決めて表の玄関を開けようとした。 

 「んっ?開かんなぁ。」

 どうやら玄関の前に荷物があって開かないようだった。郵便屋が届けてくれたのだろう。きっと若者の配達人だ。近頃の若者は、配慮が足りないなとぼやく。 

 仕方ないので裏口から表の方へとまわった。しかし、不思議なことに表へ近づくにつれて何か声がする。

 少し怪しく思いながら表へ行くと、そこには木籠に入れられた赤ん坊が蝶々と戯れていた。 

 「あ、赤ん坊⁈」
 
 老夫は驚く。なんせ、この辺りは人里離れた場所だったからだ。前の通りを歩く人は日に2、3人ほどだ。

 
 老夫は上等な布団にくるまれた赤ん坊を木籠から持ち上げて腕に抱く。 

 赤ん坊は白い肌に栗毛色の髪を持ち、葵色の目と紅く小さな唇でわらっている。ふにゃふにゃと身体を動かし、小さな手を上へ上へと老夫の頬に触れようとする。 

 老夫もつられて口元を緩める。赤ん坊の白くて柔らかい頬を撫でると、ふにゃっと咲う。なんて愛くるしいのだろうとより一層口元に締まりがなくなる。

 「こんなに笑ったのはいつぶりだろう。」

 老夫はここ数年、笑っていなかったことに気づいた。いや、笑えなかったのだ。 


 これが、幸と不幸の始まりだった。



 
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