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はじまり
トウヤ1
しおりを挟むロワンside
「報告致します」
黒い大理石の上へと跪いた為、膝頭がとても冷たい。
静寂が辺りを支配し、冷たい空気が肌に突き刺さる中、晦冥の奥の玉座で気配が動き、一層深く頭を垂れた。
「月堕ちの大森林にて、異世界人を発見致しました」
「———月堕ちの森だと?」
低く、獣が唸る様なこの声を聞いたのはいつ以来だろうか
跪いた自分の爪先のさらに先に、浅黒く光る肌を持った大きな足が現れ、停止した。
生温い風が吹くと同時、黒い大理石が忽ち白色へと変貌を遂げ、辺りを仄かな灯が包む
それを合図に、ゆっくりと頭を上げた
「…ラーチルに堕ちなかったのは、いつ以来だ」
「私が知る限り、700年ぶりかと」
目の前に立つその男、魔王陛下
後ろに撫で付けられた黒緑色の髪を押さえ付けたその手で顎を摩ると、ニタリと笑う
「僥倖。…今、ソイツは?」
「肉欲の鬼人と共にスタットに居ます」
「肉欲の……アルドか…。今回の異世界人は男か?女か?」
「若い男です」
フッと息を吐いた陛下が、安心の色を顔に浮かべた。彼が何を思い安心したのかを察し、次の言葉を続けるのを少し躊躇う
「男なら心配無いか」
「…いえ、それが……」
なんとも歯切れの悪い自分の言葉に、氷の様に冷たい色をした双眸が私を見下ろした
「…もう、手を出したのか?男だろう?」
仄かに光っていた灯りが揺めき、白い大理石がジワジワと黒ずんでいく
空気は冷たく、息が詰まり、彼が怒っているのが手にとる様に分かった。
だが、私にはまだ言わねばならない事がある
全てを言葉にした時、私は無事にこの部屋から出る事ができるのだろうか…
言葉を選ぶ私の胸倉を陛下が掴み上げた
透き通った、アイスブルーの瞳。表情は無い
「お前が居て、止めれなかったのか」
「…いえ、そうですね…」
「それとも止めなかったのか」
「…違うのです、陛下」
「お前が合流する前にヤられていたのか」
「いえ違います…」
冷たい汗が背筋を伝う中、出来るだけ平常心に見える様にと努める
歯切れの悪い私の返答に苛ついてなのか、足元の大理石がみるみるとどす黒い色へと変貌を遂げていった
この部屋が、陛下の気分と共に変化すると言う話は、この魔国では誰もが知っている
何と言い伝えれば、私はこの場から無事に解放されるだろうか
「……初代の掟は覚えているな」
「勿論です、陛下」
アイスブルーの瞳を細めた陛下が、低い声で言葉を続ける
初代魔王陛下が異世界から来たと言う話は魔国では有名だ
その初代様が残した掟の1つの事を言っているのだろう
「で、何故アルドを止めなかった?」
「何と言いますか…止めなかったと言うより…」
言葉を濁す私の瞳を覗き込んだ陛下が、ピクリと片眉を上げた
「お前が言葉に詰まるのは珍しいな。そうか…」
思案顔の後ニヒルに口角を上げた陛下の手が、私の胸元から離れ、顳顬から伸びる黒く逞しい角へと指を這わした
コツコツ、と這わした指先で数回角を叩いた後、私の瞳を見据える
辺りはいつの間にか晦冥に包まれ、黒緑の髪と、漆黒の角が闇へと溶け込んでいく様だ
「…お前が先に手を出したのか」
「………はい」
その返答と共に、胸が酷く痛み、崩れる様に両膝をついた。
まるで、心臓を握られている様な感覚。いや、実際に握られているのだ
「これは面白い。お前が人間にか…!」
「っは、い…」
「それで…まだアルドと共に居るというのはどういう事だ」
「…そ、れが、私にも…」
心臓が一層強く痛み、口からゴポリと血液が漏れ出した。
口から零れ落ちた血液を見た陛下が、冷たい瞳で私を見下ろす
「その人間の事、詳しく教えろ」
床に沈み込みそうになる手前、大理石が白く輝き、煌びやかな光が辺りを照らした
握られている様に痛かった心臓からは痛みが引いて行く
マントを翻し、玉座へとついた魔王陛下が私を見た。
「どんな人間だ?」
その人間、トウヤ
私は彼の事をまだ計りかねている
その日私は、実に久しぶりに外に出た
あまりに久々過ぎた所為か、回復薬を忘れるという失態を犯したのだ
減り続けるHPとMP、補給しなければ…と目につくモンスターを狩り続け、血液を飲んでいる最中、雨の気配を感じ手近な洞窟へと身を寄せた
弱いモンスターしか居なかった為、体力と魔力の残量は心許なく、どうしたものか…と考えている時、彼が現れたのだ
濡羽色の髪、翡翠色の瞳、人間とは思えない程白く美しい肌
———とても、美味しそうな香り
人間の血を飲む日が来るとは思いもしなかった。
だがその香りを前に耐えられない程、この時の私は飢えていたのだ
実際、彼の血液は美味しかった。今まで飲んだどの血よりも美味しかった
そして、驚異的なまでの回復力
S級のモンスターの血液の更に上をいく程の回復量
"異世界人では?"その可能性に思い至るまでに然程時間はかからなかった。
彼の血を飲んだ後、催淫状態へと陥った彼に流れる様に手を出していた。
歯止めは効かなかった
事が済み、顔見知りであり、共犯者でもあるアルドと、可能性を擦り合わせ、たどり着いた結論
"間違いなく異世界人"
手を出した事を悔やもうと、後の祭り
ラーチル国ではない場所に堕ちた異世界人は、700年ぶり
人間の手に染まっていない異世界人…
宗教国家ラーチル
異世界人は何故か其処に堕ちる
何か特殊な魔法を使っているのかと調査をした事もあり、"異界召喚転移魔法"なるものがあるという事までは分かったが、詳細は不明
そして、その国ラーチルに堕ちた異世界人は、洗脳され、戦争の駒となる
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100年に一度、訪れる異世界人と、それと共に減り続ける魔族
だが今回は何故か、ラーチルに堕ちなかった
それなのに、私は…手を出してしまったのだ。
謝罪して許されるだろうか…彼を手放す訳にはいかない。どんな手を使ってでも手元に置いておかねば
だが、そんな私の考えは杞憂に終わった。
人間にしては美しい青年
私が微笑む度、照れたように笑い返してくれる
口数は決して多くは無いが、人当たりの良い好青年
自分の事には無頓着なのか、又は済んだ事は気にしないタイプなのか、初対面で犯された相手も簡単に許してしまうような性格
異世界人は最初、元の世界に帰りたい。と嘆く者が多いと噂で聞いたが、そんな気配は彼からは微塵も感じなかった
彼と話せば、話すほど不思議が湧き上がった
異世界の変わった知識と、そのユニークスキルがあれば、この世界では簡単に生きていけるだろう。
だが彼は、普通に生きたい。と、目立つのは嫌だ。と
その気持ちも分からないではないが、私が特殊な力を持った時、その様に言えるだろうか?
目立つ事が好きな訳では無いが、特別であるという事は、とても気分が良いものではないのだろうか…。
"どんな人間だ?"
魔王陛下の言葉を頭の中で反復する
どんな人間?
優しく、自分に無頓着で、静かな青年
少し抜けている所があって、危なっかしいと思うこともあった
何故か、どこか掴みどころの無い青年
目の前に居るのに、目の前に居ない様な不思議な感覚
トウヤに一度、「元の世界に帰りたいか」と聞いたが、「帰りたく無い」と即答された。どこか、後ろ暗さのある青年
"分からない"
私が今出せる答えはそれだけだ。
まだ出会って数日、全てを解る方が無理なのかもしれない
ただ、今の私に1つ言えることは
トウヤをもっと知りたい
「ラーチルは避けろ。…初代の掟は守れ。後はお前の好きにしろ」
「はい」
「一度犯したのにまだ共に居るのは都合がいい。嫌がらないのなら身体を繋げておけ」
「ええ」
「初代の掟を守った上で、繋ぎ止めろ。絶対に逃すな」
「分かりました。
…初代様の掟を守る上で、陛下に一つお願いが」
「なんだ?」
玉座で足を組む陛下へと、1つの願いを告げると、鼻で笑った陛下が指を弾いた。
準備は整ったようだ
闇魔法で青鴉を召喚し、言葉を託す
「行っておいで」
腕を振るのを合図に青鴉が飛び立ち、闇へと姿を消した。追うのはアルドの魔力だ
「…相変わらずお前の魔法は最上級だな」
「いえ、彼は短文しか伝えれませんよ」
「それで十分だ。
逐一報告を怠るな
———ラーチルには絶対渡すなよ」
陛下も執念深いお方だ。
だがそれ程、ラーチルという宗教国家は恐ろしい
「それにしても、お前が冒険者とはな…」
「何か可笑しいですか?」
「…可笑しくないと思っているのか?」
表情をあまり顔に出さない陛下が、珍しく驚いた顔を見せる
少しばかり心外だ。
だが、これでやっとトウヤに会える
トウヤの元へ行ける
後はどうやって、あのお人好しの彼を言いくるめるか。
まあ、最終手段として泣き落としも使えるだろう。私が少し悲しい顔を見せるだけでも、彼は首を縦に振るだろう。
何故こんなにも、彼の事が気になるのだろうか。一緒に居たいと思っている自分の気持ちに、少しばかり戸惑う
早くトウヤの顔が見たい。
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