身を引いても円満解決しませんでした

れもんぴーる

文字の大きさ
11 / 34

再会 2

しおりを挟む
ベッドの上にはもう逃げ場所がなく、震える体で自分の体をきつく抱きしめるしかなかった。
余裕をなくした険しい顔で迫ってくるアルビンにぎゅっと目をつぶった。

その時、ドアの外が騒がしくなったかと思うとドアが吹っ飛ばされ、数人がなだれ込んできた。

「エヴェリーナ!大丈夫か?!」
髪が乱れ、頬を赤くし服が引き裂かれた状態のエヴェリーナを見て、
「貴様!!」
この国の騎士に取り押さえられていたアルビンを思い切り殴りつけた。
そして上着を脱いでエヴェリーナにかけ、抱き上げた。
体を震わせ、泣いているエヴェリーナは抵抗もせず、されるがままだった。

エヴェリーナは、ドラン王国第3騎士団に連れていかれ、医者に診察された上事情を聴かれた。
しかし、相手が聞きたいことは何も話せなかった、こうして襲われるまで表の顔しか知らなかったのだから。

ステファンが身元引受人となり、彼が宿泊している宿に連れていかれた。
「もう大丈夫だから、これ以上聴取されることはないと思うよ。ゆっくり休んで」
「・・・・ありがとうございます。」
「僕が焦って君を連れ出そうとしたばかりにこんなことになって…すまなかった」

エヴェリーナは横に首を振った。
「いえ・・・あのままだと知らないうちに通訳として密輸に関わってたと聞かされました。こんな私の為に迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。」
うつむいたまま、膝の上で手を握り込んでお礼を伝えた。

ステファンの前にいるのがいたたまれず、逃げたいのにもうどこにも行くところがない。
「・・・あの男が好きだった?」
ふたたびゆるゆると首をふる。
「婚約は解消しない。僕は君としか結婚するつもりはないんだ。今まで、君の事色々傷つけてしまってごめん。今回のことで自分の馬鹿さがよくわかった。これからやり直させてほしい、君のそばにいさせてほしい。守らせてほしい」

ステファンから言葉できちんと伝えられたのは初めてだった。
未来なんて知らなければどんなにうれしいだろう。
でも、前も大切にすると言ってくれていたステファンが妹と関係を結んだのだ。人の気持ちは変わるのだ。

「・・・ごめんなさい。」
「どうして!」
「ステファン様にはこれから素敵な出会いが待っていますわ。私のことは捨ておきください。」
「この先も僕は君以外考えられない。」
「口先だけなら何とでも言えるんです!」
我慢していたのにこらえきれずに口にしてしまった。
「あ・・・ごめんなさい。なんでもありません。お、お世話になりました。」
頭を下げて挨拶すると、カバンをもって出ていこうとした。

瞬間にぎゅうっと抱きしめられた。
「どうして信用してくれないの?何かあったなら教えてほしい。僕はエヴェリーナだけを愛してる。もう離れたくない」
「・・・ステファン様はいずれテューネと結ばれるんです」
「そんな事あるわけないだろ?!」
「そうなるんです。だからもう…お放しください。」
「納得できない。あの母親や妹に何か言われたの?僕はあの子に興味なんかないよ」
こないだの様子からみて、あの二人が何かしてても不思議はない。エヴェリーナにあることないこと吹き込んだのかもしれない。

「エヴェリーナ?」
どんとステファンを突き飛ばすと
「貴方は、私がいないときにあの子を抱くの!そして婚約解消されて実家を追い出されたあなたは逆恨みして私を殺すのに手を貸した!何が私を愛してる?守りたい?ふざけるのもいい加減にして!」
「何を言って・・・」
「もうあんな惨めな思いは嫌なの!あなたたちの側にいるなんてまっぴらなの!」
「落ち着いて!何の話かゆっくり教えて!」

興奮して泣きながら話すエヴェリーナは、ずっと我慢していたものがあふれ出し自分を抑えられなかった。
何も好き好んで一人異国に出てきたわけではない。自分の気持ちを押し殺して、それでも前向きに頑張っていこうと自分を叱咤してやっとなんとか立っているというのに

「なのに・・・どうして探すの?どうして追いかけてきたの?ほっておいてくれないの?」
感情をあらわに、ボロボロになっていく様子のエヴェリーナをともかく落ち着かせたかった。

「ね、君の母上と妹は領地に送られたよ。幽閉みたいなものだ。」
「・・・え?」
「エルノー伯爵が、二人の行動を見過ごせないと決心されたんだ。伯爵も今まで君に申し訳なかったと詫びていた。」
「そんな・・・今更だわ。・・・二人は何を?」
「・・・君が行方不明になったから僕と妹の方を婚約させようと考えたんだよ。僕は、テューネの事なんて目に入ったことはない。」

興奮状態から力が抜けたようにもう一度ソファーに座り込んだ。
「・・・でもテューネはやはりそうだったじゃない。もう・・・解放されたいの。ずっと苦しんできたの、お願い。ほっておいてください。」
「・・・。僕が君を殺したとか、彼女とその・・・関係したとか何のことか全くわからないよ。君を好きなのに、どうしてこんな目に合うのかわからないで一生過ごせというの?せめて納得できる説明をしてほしい。」

「あ・・・」
エヴェリーナは自分の非道さに初めて思い至った。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね

りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。 皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。 そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。 もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

処理中です...