アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる

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番外編 前公爵夫妻 3

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「話はすべて聞いたわ」
 険しい顔で入ってきたのはヴァランティーヌだった。

「なんだお前は?」
「ふふ、さすが若いころから耄碌しているだけあるわね!」
 ヴァランティーヌは居丈高に言い放った。そして視線で子分(アベル)に合図をする。
 アベルはしぶしぶと
「この御方をどなたと心得る。我らが国の王女ヴァランティーヌ王女であらせられるぞ」
 とさきほど、ヴァランティーヌ王女に覚えさせられたセリフを宣った。
 そんな二人の後ろにはナリスとフェリクスが真っ青な顔で立っている。

「これは王女殿下! まさかこちらにいらっしゃるとは。ご挨拶が遅れましたが・・」
「必要ないわ。覚えるつもりもないし、二度と会うことはないのだから。私は陛下より勅命を受けてまいりましたわ」
「な!」
「公爵と言えば王家を、ひいてはこの国を支える者。権威とともにその責も重い。能力だけでなくその精神も真っ当でなければならない。あなた達の愚かさを見抜けず、亡くなった公爵夫人、そして公爵、そして二人の令息に苦しい思いをさせてしまったことを陛下は心を痛めております」
「王女殿下、お聞き下さ・・・」
「王女殿下のお言葉を遮るつもりか! 不敬だぞ! 王女殿下、続きを」

 子分になりきっているアベルに王女は満足そうにうなづきかけると
「前公爵夫妻は二度と王都の地を踏むことを許しません。そして領地ではなく、王家直属の郊外のさびれた土地で暮らしなさい、使用人も許しません。そこから逃げ出せば拘束します」
「そんな馬鹿なことがありますか! 殿下は何か誤解をされている!」
「陛下の勅命です。逆らうのですか?」
「あなたはナリスの婚約者でしょう! ナリスは私を親のように慕っている! ナリス‼何とか言いなさい!」
 ナリスは王女の横を通り、祖父に近寄った。
 前公爵は笑顔になると
「おまえからも王女にとりなして・・・」
 と言いかけた時、ナリスが思い切り祖父を殴りつけた。
「ナリス‼ やめなさい!」
 公爵がまだ殴りかかろうとするナリスを止める。

「どうして! おじい様が・・こいつらが母上を殺したも同然って! なのに私たちを捨てて出て行ったなんて嘘ついて! 私は父上の言葉を信じずに憎んでしまった・・・許せない!」
「私が悪いのだ、何も気がつくことが出来なかった私が。お前が憎しみに囚われることはない。それは私の役目だ。お前たちには幸せになってもらいたいのだ。それが彼女の・・・お前たちの母の願いだった」
「何を言う!あの女はナリス・・・ぎゃっ!!」
 ヴァランティーヌ王女は鉄棒入りの扇子を前公爵の顔面にぶつけた。
 そして控えていた騎士たちに前公爵夫妻を拘束させ、余計なことを言わない様に猿ぐつわを嵌めさせた。
 母親がナリスに手をかけたことを話させるわけにはいかない。

「さんざん人をいたぶり、バカにしてきたのだからこれからの生活は人に頼らず何でも自分で出来るのでしょうね?あなた達は優秀なのだそうだから。もし、やっていけないのなら、私に手紙を寄こせばいいわ。謝罪や反省の手紙なんかいらないわよ? 『ゴミくずのような我々に、お恵みを』と慈悲を願いなさい。そうすれば最低限の使用人を派遣してあげてもいいわ。週に一回だけね。さ、連れて行って」
 何か文句を言うのに唸っているが二人とも連れていかれた。


「私、先ほどの部屋で待機していますわ。まずはご家族でゆっくりとお話してください」
 公爵とナリス達息子の三人だけを残し、ヴァランティーヌはアベルとともに別室で待つことにした。
 これからあの三人は話し合うことがたくさんあるはずだ。そしてようやく本当の親子としてやり直すことが出来るはず。

 別室でお茶を入れてもらうとアベルが
「姉上・・・あれでよかった?」
「よくやったわ。あの場にふさわしい名台詞だったでしょ」
「・・・恥ずかしかったよ。ふつうに姉上が王女と名乗れば良かったじゃない」
「わかってないわね。ドラマチックにした方が、権威が増すってものよ。それにね、あの話を隣室で聞いていたナリス様とフェリクス様がどんどん傷ついて、泣いて・・・本当はもっと言ってやりたかったけど、あまり私が出しゃばっていい事でもないと思ったから・・・」
「十分すぎるほど出しゃばってたけどね。初めは陛下の勅令を伝えるだけだと言ってたのに、結構バカにしてたよね」
「全然よ、言い足りない。本当なら再起不能にまで心を抉ってやりたかったわ。あ、これからでも間に合うわね。あ~、本当に権力があって良かった、ヤギの神様に感謝だわ」

ヴァランティーヌはそっと手を合わせるのだった。
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