憧憬のエテルニタス

寄賀あける

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第二部 疑惑   それぞれの思惑

五章 語り始めた星 (3)

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 マルテミアの想像通り、ジョゼシラは母親譲りの美貌で、学校一の美男子と持てはやされたビルセゼルトと並べばまるで一対の人形のようだ。

「三年で、すっかり女性らしくなったわね」
ジャグジニアとマルテミアが耳を寄せ合いくすくす笑う。
「最初見た時は男の子だと思ったっけね」

 深紅のモールのついた銀のローブは、せっかくのジョゼシラのプラチナブロンドをかすませたが、深い緑色の瞳とバラ色の頬は美しくえた。ニッコリと笑顔を見せれば見とれてしまうほどだ。
「うん、今日だけは世界一の美女の座をジョゼシラに譲るわ」

 一方、ビルセゼルトは緊張のあまりカチコチで、いつもの軽さが消えて、これはこれで却ってこの場に相応ふさわしい顔つきになっていた。

「もう少し晴れやかな顔はできないものかな」
あきれるサリオネルト、
「あら、あなたはニコニコし過ぎでギルド長に『もっと真面目に』って言われたじゃない」
マルテミアに暴露され、ハハハと笑って誤魔化した。

「ところで赤ちゃんはできた?」
ジャグジニアがマルテミアに尋ねる。慌ててホヴァセンシルが止めるがジャグジニアはお構いなしだ。

 ジャグジニアが知ると心配するから、とマルテミアが流産したことは知らせていない。マルテミアはいつもの優しい笑顔をジャグジニアに向け
「それがまだなのよ。ジャグジニアは?」
と答えた。ホヴァセンシルはもちろん、今度はサリオネルトも面白くない顔をする。流産から二年以上経つが次の兆しがないことを密かにマルテミアが気にしていると察している。

「授かりものと言うだろう。欲しい欲しいと言ってみたって、授からない時は授からないものだよ」
とサリオネルトが言うと、
「欲しいから欲しいと言って何がいけないの?」
ジャグジニアが頬を膨らませ
「まぁ、わたしもまだなんだけどね」
と寂しげに笑った。

「そう言えばホヴァセンシル、親父さんの容態はどうなんだい?」
サリオネルトが話を変える。
「一進一退ってところかな」
ホヴァセンシルの顔は晴れない。

「歳も歳だしね、もう永くは持たないかもしれない」
「そうか、心配だね。おふくろさんはどうしてる?」

「親父に付きっ切りさ。元気な時はむしろ足蹴にしていた癖にって驚くよ。やっぱり好きあって一緒になった夫婦なんだなと、息子としては感無量だね」
ホヴァセンシルらしく、少しお道化どけてみせた。そして
「そっちはどうなの?」
サリオネルトに近況を訊く。

「二人しかいない息子がそろって統括魔女と結婚するって言い出して、しかもあの騒ぎだろ? おふくろはすっかり体が弱ってしまって、寝たり起きたりの状態なんだ。両親を絶対許さないって息巻いてたビルセゼルトが折れたのは収穫かな。今では時どき、柄にもなく花束もって見舞いに行くらしいよ」

「ビルセゼルトなら、花束を持っていてもになりそうね」
ジャグジニアとマルテミアが笑う。どうせ俺たちには不似合いだろうさ、と二人の魔導士が笑った。

「あとは、赤金あかがね寮のシス……俺たちの従弟で魔導士ブランシス、あいつはわたしの配下になって、西の魔女の城で頑張っているよ」
「あぁ、あのシスか。サリーサリーって言いながらビリーにしがみ付いていたあのシスか」
ホヴァセンシルが思い出し笑いをする。

「なんだ、それ」
いぶかるサリオネルトに、ホヴァセンシルが当時のことを話すと、
「いたわね」
二人の魔女もクスクス笑う。
「よっぽどサリーが好きだったのよ」
「そんな事があったとはね」
サリオネルトは初耳だったようだ。

「結構優秀で、わたしとしては大助かりだよ。ギルドから寄越せと言われたけれど、断ってよかった……ビリーも仕事は順調で、校長の仕事の傍ら何本も論文を発表しているんだ。よくそんな時間が取れるものだと感心する。こないだは今まで誰も解読できなかった古文を読み切って――ギルド長が来たね。式が始まる」
サリオネルトが話を打ち切った。

 ギルド長が結婚の意思を二人に確認し、二人が結婚の誓約をする。それを同席した魔導士たちが『見届けた』と宣言すれば式は終わり、解散となる。

 ギルド長が終了を宣告すると同時にジョゼシラが、ほっと一息ついていたビルセゼルトを置き去りに、マルテミアとジャグジニアに駆け寄った。それを見ていた魔導士の誰かが
「花婿はもう花嫁に逃げられたぞ」
と冗談を言い、どっと周囲に笑いが起きた。

「三年ぶりだね、二人とも」
ジョゼシラが二人に抱き付いて再会を喜んでいると、ビルセゼルトも追いついて
「勘弁してくれよ」
と泣きごとを言う。

「これくらいで参っていたら、先が思いやられるなぁ」
サリオネルトが笑い、
「ビルセゼルトはとっくに覚悟ができているだろうさ」
ホヴァセンシルも笑った。

「はいはい、魔女と結婚するんだ。尻に敷かれる覚悟がなければね」
と言うビルセゼルトが、キッとジョゼシラに睨み付けられ肩をすくめる。そして六人の笑い声は、また一段と大きくなった。

 ひとしきり近況を報告し合う三人の魔女を眺めながら、夫である魔導士たちは
「三魔女……圧巻だなぁ」
と、これはサリオネルト、
「この三人の魔女の夫が俺たちだなんて変な気分だ」
溜息を吐くのはホヴァセンシル、
「あ、そうか、夫になったんだった」
ビルセゼルトがギョッとする。それぞれがこっそりと耳打ちし合い、ニヤニヤ笑っている。

「そう言えば、ジョゼシラ、あなた、南の魔女にはいつなるの?」
ジャグジニアがジョゼシラに訊いている。この時、三人の魔導士たちが、やはりそれぞれの思惑を持って耳をそばだてたことに三人の魔女は気が付いていない。

「んー、三年は先かな。母上は疲れたから早く引退したいってよく口にするけど、わたしにはまだまだ任せられないとも言うし。早く引退して父上とゆっくり過ごしたいらしい」
「南の魔女さまと背の君は仲がよろしいようね」
ジャグジニアが言うと、
「とんでもない」
ジョゼシラが否定する。

「父上はしょっちゅう母上を叱ってばかり。母上はなにを言われても『あなたの言う通り。ごめんなさいね』と謝ってばかり。わたしには物凄い剣幕で怒るのに、母上は父上に怒ったことがない」
「あの魔女さまを叱りつけることができる魔導士って……」
マルテミアが青ざめる。

「それにしてもなぜ魔女さまは叱られてばかりなの?」
とはジャグジニアの疑問だ。

「んー、父上のひげをカールさせたり、眉毛をすべて抜いてみたり? あ、こないだは父上の顔に自分の名前を書いてたよ」
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