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第二部 疑惑 それぞれの思惑
十章 打ち明けられた苦悩 (1)
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そろそろヒヨドリの刻と言うころ、仕事を頼んだ魔導士が戻ってきた。思ったよりも手古摺ったという。謝礼を支払い、一冊の本と一葉の巻紙を受け取ると、すぐ中を確認した。
「お気を付け下さいませ」
魔導士の忠告に頷いて、ギルドの火のルートに向かった。
ヒヨドリの刻をほんの少し回ったところ、貰っていた招待状を火のルートに焚べ、立ち上る炎に足を踏み出せば、魔導士学校の校長室に出た。見るとサリオネルトの後姿が目の前にある。瞬時先に来ていたようだ。絶妙なずらし具合だ、ビルセゼルトが笑った。
とりあえず飲み物を用意するよとビルセゼルトが言う。出してきたのはワインだった。こんな時間に飲むのか、とホヴァセンシルが咎めると、飲まなきゃやってられるかとビルセゼルトが笑う。
サリオネルトは『白か。いつも赤なのに珍しいね』と呑気にグラスを眺めている。
「帰ったらジョゼに南の魔女の城に入れと言わなくちゃならない」
ビルセゼルトが嘆く。
「できることなら酔いつぶれてしまいたいくらいだ」
「ジョゼはビリーの言うことならなんでも聞くんじゃないか?」
ホヴァセンシルが言うと、答えたのはサリオネルトだ。
「よく判っているね」
するとビルセゼルトが
「それで? ジャグジニアの件で来たか?」
と、ホヴァセンシルの顔を面白そうに眺めた。
「他人の女房は判っても、自分の女房は判らない。ホビスの顔にそう書いてある」
辛辣なビルセゼルトに
「そんな言い方はどうかと思う」
サリオネルトが釘をさす。
ビリーは忙しくて少し気が立っているんだ、と執成すサリオネルトを
「判ったような口を利く」
ビルセゼルトが薄ら笑う。そして、沈黙が部屋を支配した。
「すまない……」
最初に言葉を発したのはビルセゼルトだった。
「サリーの言う通りだ。苛立ちをぶつけてしまった。申し訳ない」
そりゃあそうだよな、とホヴァセンシルは思う。学校長だけでも大変なのに今日、ギルド長を兼任させられて、さらに妻を南の魔女の城に移さなくてはならない。自分は魔導士学校に留め置かれて、だ。
そこに持ってきて、俺がわざわざ会いたいとここに来たのだ、さらに問題を持ち込むと予測しているに違いない。
「それで、ホビスの話って?」
なにも気にしていなさそうなサリオネルトがホヴァセンシルに問う。
「ホビスから話があるなんて珍しいよね」
わたしの用事は家族についてだから、兄弟二人で話がしたい。先にホビスの話を聞くよ、ニアのためにも早く帰さなきゃと思うしね。サリオネルトにそう言われればホヴァセンシルに拒む理由がない。何か奇怪しいと感じても、それを詮索する余裕が今のホヴァセンシルにはない。
実は、とホヴァセンシルが話し始める。
北の魔女の城に感じる違和感、それがどうしても抜けない。両親の家から戻ってきたら、城中に蔓延っているように思えた。それが日を追うにつれ強くなる。どうにかして原因を探し出そうと努力してみるが探し出せない。だが、きっと何かが潜んでいる。間違いない。
話が進むにつれ、ビルセゼルトとサリオネルトが身を乗り出してくる。時には二人が顔を見かわす。
ビルセゼルトが、ホヴァセンシルが手を付けずにいたグラスを取って、代わりに別のグラスを置いた。
「冷やしたレモンエードだ」
これならニアに怒られないさ。そして自分はホヴァセンシルから取ったワインを飲み始める。サリオネルトが自分の空いたグラスを指で弾いて、補充を催促した。
つまり、だ、とビルセゼルトがホヴァセンシルの話を纏める。
「ホビスでさえ見つけられない何かが、北の魔女の城に潜んでいる、そういうことだな?」
「ホビスに見つけられないものが、誰に見つけられる?」
と言ったのはサリオネルトだ。
「魔導士に無理でも魔女にならどうにかなるかもしれない」
無理だと思いながらホヴァセンシルが言う。
「たとえば南のジョゼシラ?」
サリオネルトの意見をビルセゼルトが即時却下する。
「ジョゼは、力は強いが器用さに欠ける。探索には向いていない」
「確かにジョゼは正面突破型だね」
ついホヴァセンシルが笑う。チラリとビルセゼルトに見られ、ひやりとする。
「もっと早く相談すればいいものを」
ビルセゼルトがホヴァセンシルを詰った。
ホヴァセンシルが申し訳なさそうに一冊の本を広げる。
「これを見て欲しい」
サリオネルトが覗きこむ。
「王家の森魔導士学校の名簿だな。魔導士に認定された順番に載っている」
「前北の魔女ゾヒルデナスの名が記載されたページだ」
とホヴァセンシルが言う。
「学友を見て欲しい」
どれどれとサリオネルトだけでなく、ビルセゼルトも覗きこむ。そして、ある人物の名を見付け息を飲む。
さらにホヴァセンシルが一片の巻紙を取り出して広げた。
「これは先ほど魔導士ギルドに依頼して調べて貰ったものだ」
読めばゾヒルデナスの学生時代の対人関係が書かれている。
「これは……間違いないのか?」
サリオネルトがホヴァセンシルに確かめる。
「ギルドの調査術のエキスパートが間違った報告をした事はない。調査できないか、正確な報告をするか、どちらかしかない」
そう言ったのはビルセゼルトだ。
「まさか、前北の魔女とスナファルデが恋仲だったとはね」
「しかも……北の魔女になる際、ギルドの妨害で別れさせられている」
「お気を付け下さいませ」
魔導士の忠告に頷いて、ギルドの火のルートに向かった。
ヒヨドリの刻をほんの少し回ったところ、貰っていた招待状を火のルートに焚べ、立ち上る炎に足を踏み出せば、魔導士学校の校長室に出た。見るとサリオネルトの後姿が目の前にある。瞬時先に来ていたようだ。絶妙なずらし具合だ、ビルセゼルトが笑った。
とりあえず飲み物を用意するよとビルセゼルトが言う。出してきたのはワインだった。こんな時間に飲むのか、とホヴァセンシルが咎めると、飲まなきゃやってられるかとビルセゼルトが笑う。
サリオネルトは『白か。いつも赤なのに珍しいね』と呑気にグラスを眺めている。
「帰ったらジョゼに南の魔女の城に入れと言わなくちゃならない」
ビルセゼルトが嘆く。
「できることなら酔いつぶれてしまいたいくらいだ」
「ジョゼはビリーの言うことならなんでも聞くんじゃないか?」
ホヴァセンシルが言うと、答えたのはサリオネルトだ。
「よく判っているね」
するとビルセゼルトが
「それで? ジャグジニアの件で来たか?」
と、ホヴァセンシルの顔を面白そうに眺めた。
「他人の女房は判っても、自分の女房は判らない。ホビスの顔にそう書いてある」
辛辣なビルセゼルトに
「そんな言い方はどうかと思う」
サリオネルトが釘をさす。
ビリーは忙しくて少し気が立っているんだ、と執成すサリオネルトを
「判ったような口を利く」
ビルセゼルトが薄ら笑う。そして、沈黙が部屋を支配した。
「すまない……」
最初に言葉を発したのはビルセゼルトだった。
「サリーの言う通りだ。苛立ちをぶつけてしまった。申し訳ない」
そりゃあそうだよな、とホヴァセンシルは思う。学校長だけでも大変なのに今日、ギルド長を兼任させられて、さらに妻を南の魔女の城に移さなくてはならない。自分は魔導士学校に留め置かれて、だ。
そこに持ってきて、俺がわざわざ会いたいとここに来たのだ、さらに問題を持ち込むと予測しているに違いない。
「それで、ホビスの話って?」
なにも気にしていなさそうなサリオネルトがホヴァセンシルに問う。
「ホビスから話があるなんて珍しいよね」
わたしの用事は家族についてだから、兄弟二人で話がしたい。先にホビスの話を聞くよ、ニアのためにも早く帰さなきゃと思うしね。サリオネルトにそう言われればホヴァセンシルに拒む理由がない。何か奇怪しいと感じても、それを詮索する余裕が今のホヴァセンシルにはない。
実は、とホヴァセンシルが話し始める。
北の魔女の城に感じる違和感、それがどうしても抜けない。両親の家から戻ってきたら、城中に蔓延っているように思えた。それが日を追うにつれ強くなる。どうにかして原因を探し出そうと努力してみるが探し出せない。だが、きっと何かが潜んでいる。間違いない。
話が進むにつれ、ビルセゼルトとサリオネルトが身を乗り出してくる。時には二人が顔を見かわす。
ビルセゼルトが、ホヴァセンシルが手を付けずにいたグラスを取って、代わりに別のグラスを置いた。
「冷やしたレモンエードだ」
これならニアに怒られないさ。そして自分はホヴァセンシルから取ったワインを飲み始める。サリオネルトが自分の空いたグラスを指で弾いて、補充を催促した。
つまり、だ、とビルセゼルトがホヴァセンシルの話を纏める。
「ホビスでさえ見つけられない何かが、北の魔女の城に潜んでいる、そういうことだな?」
「ホビスに見つけられないものが、誰に見つけられる?」
と言ったのはサリオネルトだ。
「魔導士に無理でも魔女にならどうにかなるかもしれない」
無理だと思いながらホヴァセンシルが言う。
「たとえば南のジョゼシラ?」
サリオネルトの意見をビルセゼルトが即時却下する。
「ジョゼは、力は強いが器用さに欠ける。探索には向いていない」
「確かにジョゼは正面突破型だね」
ついホヴァセンシルが笑う。チラリとビルセゼルトに見られ、ひやりとする。
「もっと早く相談すればいいものを」
ビルセゼルトがホヴァセンシルを詰った。
ホヴァセンシルが申し訳なさそうに一冊の本を広げる。
「これを見て欲しい」
サリオネルトが覗きこむ。
「王家の森魔導士学校の名簿だな。魔導士に認定された順番に載っている」
「前北の魔女ゾヒルデナスの名が記載されたページだ」
とホヴァセンシルが言う。
「学友を見て欲しい」
どれどれとサリオネルトだけでなく、ビルセゼルトも覗きこむ。そして、ある人物の名を見付け息を飲む。
さらにホヴァセンシルが一片の巻紙を取り出して広げた。
「これは先ほど魔導士ギルドに依頼して調べて貰ったものだ」
読めばゾヒルデナスの学生時代の対人関係が書かれている。
「これは……間違いないのか?」
サリオネルトがホヴァセンシルに確かめる。
「ギルドの調査術のエキスパートが間違った報告をした事はない。調査できないか、正確な報告をするか、どちらかしかない」
そう言ったのはビルセゼルトだ。
「まさか、前北の魔女とスナファルデが恋仲だったとはね」
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