憧憬のエテルニタス

寄賀あける

文字の大きさ
54 / 115
第二部 疑惑   それぞれの思惑

十一章 疑われた愛 (2)

しおりを挟む
 ジョゼシラがビルセゼルトの胸で、人差し指と中指を歩いているかのように交互に動かしている。そして
「ねぇ、何を考えているの?」
と問う。

 うん? と答えながらビルセゼルトはそれ以上は何も言わない。その替わり少し上体を起こし、ジョゼシラの頭の下に伸ばしていた腕に力を込め、ジョゼシラを引き寄せると口づけた。
「愛しているよ……」
くすぐったそうな顔をしてジョゼシラが笑う。
「どういう風の吹き回し?」

 ビルセゼルトはホヴァセンシルに見せた芝居を思い出していた。送言術でサリオネルトに『俺に絡んで来い』と言ったのはビルセゼルトだ。俺たちが揉めれば、ホヴァセンシルは腹をくくるしかない、そう思った。

 サリオネルトに『ジョゼを追放しろと言われたらどうする』と問われ、『力を封じて隠遁する』と答えた。芝居とは言え、嘘は吐けない。もちろん本音だ。だが、もしそんな事になったとき、ジョゼは俺に従ってくれるのだろうか? 心が離れていくかもしれない、そんな不安は強く心を揺さぶる。そしてホヴァセンシルとジャグジニアを思った。

「今夜は随分優しいね」
とジョゼシラが言う。
「なにがあったか話してみたら?」

「おや、俺が優しいと、おまえに隠し事があることになるのか?」
「いつもなら、わたしが誘わなきゃその気ならない、いつもなら腕枕なんかしてくれない、いつもなら……」

「あぁ、もういい、もういい」
ビルセゼルトが笑いだす。
「俺の可愛いジョゼが、いっつも不満なのはよく判った」

「隠し事とは思ってないよ。だけど、少しは悩みを打ち明けてくれてもいいかな、と思う。寂しいよ」
ジョゼシラが、抱き付くようにビルセゼルトに寄り添う。

「心臓の、トクントクンって音が聞こえる」
「ドキドキではなくて?」

 微かに笑ったビルセゼルトがジョゼシラの髪を撫でる。
「下手に悩みを打ち明けたら、情けない男だと思われそうだ」
そう言いながら、ビルセゼルトはジョゼシラが『寂しい』と言った事を気にしていた。

「いまさら? あなたが情けないのは、知り合った時から知っている」
「そうきたか! 情けない男を夫に持って、おまえは苦労するな」

「いいや、楽しい。この情けない男をどうやって鍛え直そうかと考えるとゾクゾクする」
そしてクスクス笑う。
「帰って来た時は、どうしたものかと思ったけれど、機嫌が直ったようだね」

「うん……」
ギルドでの会議、そのあと校長室で、サリオネルト、サリオネルトとホヴァセンシル、さらにサリオネルトと、頭の痛い話ばかりに追われた。予定通りに講義を行い、生徒一人一人に目を配り、その才能と人物をチェックするという、やはり神経を使う仕事の合間にだ。

「さすがに今日は疲れた」
本当はもう一つ、しなくてはならないことがあった。そろそろジョゼシラにもげん王について話しておかなくてはならないと、思っている。

 近ぢか南の魔女の居城にジョゼシラが移ることを考えると、早く話しておくに越したことはない。いくら火のルートを使えば一瞬と言っても、そう頻繁に行き来できるものではない。出向くにしても、そのために時間を作らなければならないことに変わりはない。

 夏至の日は近い。そして、今日のホヴァセンシルの話から敵の姿も見えつつある。少なくとも潜む場所は特定できた。ジョゼシラの理解と協力を取り付ける材料になる。

 ジョゼシラの様子を窺うと、何が楽しいのか、うっすらと笑みを浮かべて、またビルセゼルトの胸で指遊びをしている。その指にビルセゼルトの手が近づき、そっと握った。自分と比べ、なんて小さい。細い指は力を籠めれば折れてしまいそうだ。

 握ったままその手を、自分の口元に押し当てる。そして目を閉じた。

「トクントクンがトクトクに変わった」
されるがままのジョゼが呟いた。
「あなたが悩んでいると、わたしも苦しいって知ってる?」
「うん……」

 言わなくちゃダメだ。だけど言いたくない。ジョゼの助力が必要なのは判り切ってる。閉じていた目を開き、まじまじとジョゼシラの手を見る。この手に初めて触れたのはいつだった?

 初めて会った時のことはよく覚えている。南の魔女ソラテシラに命じられて、魔導士学校の一年の教室に会いに行った。あの魔女、自分の娘を誘惑しろ、と笑いながら言ったっけ……
『あのコ、自分が女の子だって自覚に欠けてるようなのよね。あなたが教育してやって』

 出入り口付近にいた一年生に頼むと、すぐ呼んできてくれた。出てきたジョゼを見て、正直、『面倒だな』と思った。小柄でやせっぽちで、目つきばかり鋭い。これがあの、妖艶な南の魔女の娘か?

 名を名乗り、顔を見に来たと言ったら
「好きなだけ見るといい。気がすんだら言ってくれ」
と、言葉使いも今まで知っている女の子とは違っていた。それから夕食の時間まで、そのまま廊下に立ち尽くして、お互いに睨み合った。

 途中、講義が二つあったようで、教師が二人、『何をしている?』と声を掛けてきたが、睨みあっているのがビルセゼルトとジョゼシラと知ると、見なかったふりをして教室に入っていき、何事もなかったように講義を進めていた。

 下手をすると自分を上回る魔導士のビルセゼルト、そして南の魔女の娘でただでさえ扱いにくいのに、噂では恐ろしい力を持つと言われるジョゼシラ、その二人が何をしているかは判らないが、邪魔をして、どちらか、あるいは両方の不興を買っては堪らないとでも思ったのだろう。

 途中、意地の張り合いにも飽きて、送言術を使って話しかければ少しは怖気づくかと思ったが、一年生相手にそれは弱い者いじめというものだと思ってやめておいた。それが夕食の時刻になり、ほかの生徒がぞろぞろ食堂に移動し始めると、『おなかかないの?』と向こうから送言術を使って話しかけてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

処理中です...