憧憬のエテルニタス

寄賀あける

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第三部 宣戦布告 苦悩の果て

十三章 告発 (2)

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 そこに現れたのは西の魔女マルテミアの代理、夫で補助役の魔導師サリオネルト、ビルセゼルトの上席に座した。

 サリオネルトは長く伸ばした髪をいつもは後ろにひとまとめにしているのに、今日はサラサラと流している。神秘力を高めると言われるバターブロンドの彼の髪は、太陽のように輝き、力の強さをひけらかしているように見えなくもない。

 高位の魔導士にしか見分られないが髪の輝きの中には、強い力が発散させるきらめきも混ざっている。自分の優位性を誇示していると言えなくもない。好戦的な意見を言う相手がいたら威嚇するつもりもありそうだ。だが……

 むしろ夏至の日が近づくにつれて増していく自分の力が発散する煌めきを、髪の輝きでカモフラージュする目的もあるのではないか。そうだとしたら、少し厄介だ。げん王が誰かという議論、今日は出てきて欲しくない。

 間を置かず、南の魔女ジョゼシラが現れる。全体に会釈して、敬意を示してから、こちらは東の魔女ソラテシラの次席に座を取った。

 サリオネルト、ジョゼシラ、二人とも、あらかじめの申し合わせ通りフードのないローブを着用している。すぐに戦闘態勢を取るのは避けたい。まだ、ジャグジニアを北の魔女の居城から連れ出していない。連れ出しに成功していた場合は戦闘の意思を示すフードのついたローブで、と意思の一致を見ていた。

 交戦の意思のない事については、ビルセゼルトは学術魔導士のローブを着たままでいる事でも示していた。神秘術を使えば即座にギルド長に相応ふさわしいローブに着替えることも可能だが、えてそうしなかった。学校長としての立場を堅持するとの意思表明でもある。最下座に席を決めたのも、同じ考えからだ。

 ジョゼシラ、サリオネルトの登場で、ソラテシラの笑顔の色が少し変わる。相変わらず笑顔だが、後ろに怒りを隠している。

 ビルセゼルトを中心に、自分のあずかり知らぬところで事が動いていることに気が付かないソラテシラではない。

「マルテミアさまのお加減はいかがですか?」
ソラテシラがサリオネルトに話しかける。
「おかげさまで母子ともに順調と、癒術魔導士から言われております。臨月ということもあり、大事を取ってわたしが代理で参りました」

「それはなによりです。サリオネストさまのことですから、さぞやマルテミアさまを大事になさっているのでしょうね」
「畏れ入ります。世間を騒がせて思いをげた仲、互いに手を取り合い添い遂げるのが義務と、夫婦ともども肝に銘じております」

「男のお子と判っているとか。名はもう決めたのですか?」
「顔を見てから決めようと妻と話しております。その時に備えて、いくつか候補を上げておりますが、これがなかなか難しい。良い名がありましたら参考までにお聞かせいただけるとありがたく存じます」

「名を決めるのは一苦労ですものね。我ら魔女、魔導士は今まで使われたことのない名を選んで子に授けねばなりません。これも市井の人々にはない能力を持つ者の、義務の一つなのでしょうね」
さりげなくサリオネルトが使った言葉を織り込んで、ソラテシラは、『あなたがたがしていることは、その義務に反していないか』と詰問している。

「ソラテシラさまのおっしゃる通りでございます。我々の持てる力は世のために使うものだと、常々より念頭に置き、勤めにあたっているところでございます」
「さすがサリオネルトさま、ご立派な心掛けです事。ところで、見事な黄金の髪。伸ばされたのですね」

「はい、バターブロンドのこの髪は闇を寄せ付けない上に、神秘力を強めます。伸ばす価値もあるかと」
「それは……まさか、わたしの銀色の髪が闇を呼び寄せやすい事をご存知の上でおっしゃっている?」

「ソラテシラさまもご冗談のきつい。プラチナブロンドの髪は月の輝きと記憶しております。神秘力を寄せ集める髪色とのことです」
サリオネルトは顔色一つ変えず、いつも通りの穏やかな笑みを浮かべたまま、すらすらと言葉を並べている。言葉を巧みに操る技にまた磨きがかかったとビルセゼルトは思った。

 対するソラテシラはどうにかサリオネルトの動揺を誘いたいようだが、人目もあることからあからさまな事も言えず苛立っているようだ。ふっとそっぽを向いたところを見ると送言術か覗心術を使ったが成功しなかったのかもしれない。

「ジョゼシラさまは統括魔女のお勤めに慣れましたか?」
今度はジョゼシラを崩しにかかる。
「これはソラテシラさま。わたしごときに『さま』は不要でございます。お呼び捨てくださいますよう」
ジョゼシラも負けていない。

「統括魔女のお勤めも本日で四日目、そろそろコツが掴めてまいりました」
挑戦的な視線を隠しもしないジョゼシラだ。
「ただ、ギルド会議の出席は初めてのこと。いささか緊張しております」

「ジョゼシラさまは度胸のあるかたと思っていたのですよ? ものじするところも見た事がありません。それが緊張なさるなど、珍しいこともあるものですね」
「お褒めの言葉、ありがたく。しかし買被かいかぶりが過ぎるようです。わたしに、もどうやら人並みの感情が存在しているようです」

「褒め言葉と誤解させてごめんなさいね。そんな積もりはなかったのです。それにしても人並みの感情とは。このところ勘違いをすることが多くなったのではありませんか?」
ソラテシラはサリオネルトよりも容赦なくジョゼシラを攻めている。こちらは親子喧嘩と後から言い包めることもできると踏んでいるのだろう。

「勘違いを勘違いと気付かぬことは有りがちの事、自分の勘違いを相手の勘違いとき違える事もまたしかり。勘違いした者同士、そちらだ、こちらだ、と言い争ってもらちがあくものではなさそうです」
「あら、まるでわたしが勘違いをしているように聞こえますよ」

「他者に対し、感情があったのか、と恥ずかしげもなく面と向かって言えるかたが、勘違いなどしていないとおっしゃる。勘違いもはなはだしいとはこの事かと」
「侮辱された気分なのですけれど? これも勘違いかしら」
ソラテシラは相変わらず笑顔だが、指先が微かに震えている。

 いい加減にしろよ……静観を決め込んでいたビルセゼルトがジョゼシラに言葉を送る。ジョゼシラからの応答はない。

何故なにゆえわたしがソラテシラさまを侮辱いたしましょう? それともソラテシラさまには、わたしに侮辱される心当たりがおありなのでしょうか?」
「それは、そう、心当たりなどありませんよ。けれど、八つ当たりとか、それこそ勘違いで恨まれることがないとは言い切れません」

「では、勘違いでも八つ当たりでも、恨まれることのないようご自愛ください」
「そ、そうですね。そう致しましょう」
こちらはジョゼシラの脅しに屈し、ソラテシラが逃げたようだ。

 会議室の空席は、補佐席一席を含め、三席。補佐席はもう一人の小ギルド長。これは来ないか、来られないか、どちらかだとビルセゼルトは予測していた。そして空席の一つは、ギルド長としての自分の席、これは空席のままで問題ない。そして最後の一つ。北の魔女、もしくはその代理の席――

 ビルセゼルトはホヴァセンシルを待っていた。必ず来る、そう信じていた。
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