憧憬のエテルニタス

寄賀あける

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第三部 宣戦布告 苦悩の果て

十六章 夫婦 (2)

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 パスタに刻んだトマト、それをオリーブオイルでえて粉チーズをかけただけの食事を摂りながら、ビルセゼルトが言った。南の魔女の城で出された食事は一口食べただけだ。
「こちらからホビスに接触できないだろうか?」

 ワインの入ったグラスをもてあそびながら、サリオネルトがそれに答える。
「ホビスからの警告にあった『首謀者はジャグジニア』というのが間違いないことなら、残念だがホビスを助けるのは無理だ」
魔導士学校教師棟ビルセゼルトの住居、居間での話である。

 そう言えば夕食を食べ損ねたとビルセゼルトが言いだし、サリオネルトはワインだけでいいと言い、そしてサリオネルトがホビスをなんとかできないか、と話し始めたところだ。

「自分からホビスを助けたいって言いだしたんじゃないか」
「助けたい、じゃなくて、なんとかできないか、だ」

「同じことだと思うが?」
「あのままではホビスは孤立無援だ。それをどうにかしたいと言ったんだ」

 食べ終えた食器をビルセゼルトが宙に消す。そしてサリオネルトを睨み付けた。
「で、サリー、ホビスの両親と弟をなぜ東に移した?」
「それは……」
サリオネルトが口ごもる。

「信用できない、と判断したからだろう? ホビスに呼応して事を起こす可能性があると見た。だから出産で力が弱まるマルテミアの西ではなく、容赦ないソラテシラを選んだ」

「両親はともかく、弟のクリエンシルは保護に向かった魔導士に『ホビスがそんな事をするはずがない』と言って抵抗した」
めったに表情を変えないサリオネルトが顔をしかめる。
「クリアは兄を信奉している。兄が間違えるはずがないと信じている」

 今は北の魔女に非があると思っていても、ホビスが北の魔女を支持しているとなれば、簡単に北の陣営に寝返る。

「おや、こっちを騙そうとするヤツには騙されてやれ、ではなかったのか? クリアがホビスの陣営に加わりたいなら行かせてやればいいじゃないか。ギルドに付くか北に付くかは各人の自由で、と会議でも決めた事だ」
ビルセゼルトがサリオネルトを非難する。

 対してサリオネルトはこう答える。
「ホビスはなぜ、クリアを手元に呼び寄せなかった? ギルド側にいて欲しいとホビスが考えたとわたしは見るよ」

 デリアカルネもジャグジニアの両親も、北の陣営に殺された。クリエンシルは西の陣地にある街の魔導士だったから、北は手を出せなかった。だから殺されずに済んでいるのだと、サリオネルトは言った。

「それを自由にさせて、わざわざ北に行かせ、命を落とす危険に曝せと?」
「だけど信用できない。矛盾だな」
ビルセゼルトが鼻で笑う。

「でも、まぁ、サリー、落ち着け。おまえの心配は理解できるよ」
なぜ、デリアカルネとジャグジニアの両親は殺されたんだろう? とビルセゼルトが呟く。

「少なくともホビスの指示じゃない。ジャグジニアの両親に至っては、ホビスに加えジャグジニアの線も薄い」
「うん、それはわたしも同感だ。だから、万が一、ホビスの目の前でクリアが殺されたらと思うと、クリアを放置しておけない」

「そんなことになればホビスは発狂するだろうね。下手すれば北の陣営皆殺しにするかも」
「そうだろう? クリアを捕らえたのは正解だ」

「いっそ、北の陣営の手によってクリアが殺されたとでも、デマを流すか?」
「それで? ホビスに北を破壊させて終わりにしようって? 馬鹿を言うな」

「心配ない、デマに惑わされるホビスではない」
本気で抗議するサリオネルトにビルセゼルトが笑う。

「なにしろ、どう転んでもホビスは難しい立場だ」
婚姻の誓いを立てたのだから、妻ジャグジニアを裏切るわけにはいかない。かと言って本音は従いたくないはずだ。

「あの夫婦はホビスが仕切っていると思っていた」
「ホビスは少し好きにし過ぎたのかもしれないね。ニアは自分を裏切らない、と過信しすぎた」

「実際、ニアのほうがホビスに惚れたんだろう?」
「マリが言うにはそうなんだけど」

 サリオネルトがチラリとビルセゼルトを盗み見る。
「うーーん、わたしも少し責任を感じないでもない」

 初めてニアとマリにあったのは、マグノリアの木の上で日向ひなたぼっこしていた時だ、とサリオネルトが語る。
「すると木の下からビリーを悪く言う声が聞こえた。なんだろうと聞いていると、どうやらビリーに振られて泣いているニアをマリが慰めているところだった。いつだったか、ニアと話がしたいというビリーを連れて行ったあの場所だ」

 あぁ、覚えているよ、秘密基地みたいな場所だった。ビルセゼルトが気まずそうな顔をする。

「すると枝が折れ、二人に見つかってしまった」
自分で枝を折ったんだろう? とビルセゼルトが笑う。まぁね、と笑って、サリオネルトが続けた。
「それで、ビリーのせいで泣く彼女に知らんふりもできなくて、ニアを慰めるつもりでわたしは言った。『次に出会う人はきっとキミを離さない』とね」

「で、それがホビスだった、と? ニアはサリーの暗示にかかってホビスに夢中か」
「かもしれない、ってだけだよ。でも、そうだとしたら、ニアは本当にホビスを愛していたかは判らないな、と思った」

「どうせ、もともと恋なんて勘違いの賜物だ。芽生えたものをどう育むか、きっかけがなんであろうと、それが肝心だ。サリーが気に病むことじゃない」

 するとサリオネルトが笑う。
「気に病んでなどいないさ」
そして続ける。
「さすが、ギルドに強要されて結婚しただけはある。説得力があるね」

「なにが言いたい?」
怒りを隠しもせずにビルセゼルトはサリオネルトを睨んだ。
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