憧憬のエテルニタス

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第四部 落城   永遠への憧れ

十八章 緒戦 (1)

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 攻防、と言っても攻めるのは北であり、守るのは西という立場は変わらないまま、一進一退を繰り返していた。北の砲撃が西の守りを崩すと、すぐさま内と外、つまり内は西の陣地、外は東と南の陣地から再度守りが固められる。

 いっそ東や南の陣地も攻めて、西への援護を遮断したらどうかと言い出す者もいたが、それでは一度にギルド全体を相手とすることになる。却ってハイリスクだと言って、ホヴァセンシルは許さなかった。

「どこかに弱い場所があるはずだ。そこを探して攻めろ。一箇所崩せば後は容易たやすい」
そう指示を出しながら、内心ホヴァセンシルは冷や冷やしていた。自ら砲撃を繰り出せと言われたならば、それを拒む言葉を俺は持っているだろうか?

 ビルセゼルトが西に入った気配はない。だとしたら俺の術を跳ね返せる使い手はサリオネルト一人。体力勝負となれば西の魔女の援護が見込めない今、サリオネルトに勝ちはない。

 手を抜けば必ず見破られる。本気で攻撃すれば、陣地の結界程度、即座に崩壊させられる。自分は表に出なくてすむ方法を、ホヴァセンシルは考えなくてはならなかった。

 今のところ、西の陣地に損害を与えられていないわけではない。今はすぐさま補填されているが、そういつまでも修復し続けられるもんじゃない。やがて疲弊し、結界は必ず破られる。それを待てとホヴァセンシルは北の城に詰める者たちに言い聞かせていた。

 いっそ夏至の日まで、この攻防が続けばいい。周囲の目を盗んで作った暗号を、ビルセゼルトはきっと解読したはずだ。だから東も南も、ここを攻めてこない。

 夏至が訪れて、示顕王が成立したら、たとえそれがサリオネルトであろうとかまわない、危険はないと証明してみせろ。そうしたら終戦へ向けての交渉が始められる。ホヴァセンシルは祈りを込めて戦況を眺めていた。

 そんなホヴァセンシルの願いも虚しく、開戦当日の夜半、一気に西の結界が弱体化した。思わずホヴァセンシルは腰を浮かせたが、すぐさま補修された結界を見て座り直している。

(マルテミアの陣痛が始まったか? 結界の土台が貧弱になっている。高位魔導士しか気が付かないとは思うが……)

 マルテミアの出産の様子については当然だが、北には一切情報がない。どうしたものかとホヴァセンシルは考えを巡らせていた。

 そのころ西の魔女の居城の産室で、間隔が短くなった陣痛にマルテミアが苦しんでいた。

「もう少しですよ、すぐに生まれますからね。気をしっかりなさってください」
取り囲む魔女たちは口々にそう言いながら、心の中では別のことを考えていた。子宮口が開かない。このままでは死産もあり得る。それどころか母体が持たない。

 急に弱体化した結界を、慌てて強化したサリオネルトが伝令を寄越したが、産室の魔女たちはなんと答えるべきか迷った。

 陣地を守る結界に加えられる北の攻撃、それが起こす炸裂音と衝撃が、産室に伝わっていないはずもない。そんな時、マルテミアが立て続けの陣痛に苦しんでいると、サリオネルトに告げてよいものか? 産室の様子を、サリオネルトが知ったらどうなる?
「大丈夫です。マルテミアさまにはわたしたちが付いております。ご安心くださいませ」

 西の陣地の結界の土台の欠損は甚だしいものだった。マルテミアの様子が気になるサリオネルトだったが、ここまで酷くなると寸時と言えど油断できない。結界を常に強化し続け、それに最適なこの場所を動くことは躊躇ためらわれた。

 すると、陣地の内側、市井の人々が暮らす街の一つから、空に向けて放たれる光があった。ダガンネジブが大地と影に頼る保護呪文を投げたのだ。大地が強化され、自らを保護し始める。

 影である限り、つまり夜が明けるまでは、影=闇が陣地内を守る。極めて特殊な保護術だが、それだけに破るのも難しい。さすがはダガンネジブ、ソラテシラを服従させた唯一の魔導士――

 だが、街に配備した魔導士たちには待機命令が出ていたはずだ。
「ダガンネジブは東の魔女の背の君、命令違反を大目に見るよう、伝令を出せ」
サリオネルトは心内では感謝の念を抱きながら、近くにいた魔導士にそうめいじた。

 西の陣地内で、空に放たれた光をホヴァセンシルも感知していた。
(大地と影の保護術……サリオネルトの仕業ではない。大地と影を操れるといったら、東の魔女の夫ダガンネジブあたりか)

 ホヴァセンシルはつい、クスっと笑ってしまった。西の街にあの大物を配置することを考えつくなんて、ビリーもやるじゃないか。

「どうかしたの?」
すかさずジャグジニアが問いかける。本音は言えない。
「いや、今、西の陣地から空に向けて保護呪文が投げられた。気が付いただろう?」
「それが何か?」
「大地と影の混合呪文だ。現時点で扱えるのは、たぶん東の魔女の夫・魔導士ダガンネジブだけだ。東の魔女の夫を西の陣地に配備するほど、ギルドは追い詰められている」

「ホヴァセンシルさまを恐れての事でしょう」
横に控えるドウカルネスが言う。
「先ほど一気に結界が弱体化しました。西の魔女は出産で、自分の陣地も守れない状況なのでしょう。我らが勝利はすぐそこです」

「ふむ……まぁ、気を抜くな」
チラリとドウカルネスを見て、ホヴァセンシルはそう答えた。

 東の陣地ではソラテシラが夫の保護術を感知して、やはりクスっと笑っている。
「久々に術を使ったのではないかしら。今でもちゃんと使えるのね」
「ソラテシラさま、どうかなさいましたか?」
すぐ近くに控えた魔女がそんなソラテシラをいぶかった。

「我が夫ダガンネジブが西の陣地に結界を張りました。これでしばらく西の陣地は楽になるはずです」
戦時下でありながら、ソラテシラはダガンネジブとの馴れ初めを思い出していた。
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