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第四部 落城 永遠への憧れ
二十章 慟哭 (4)
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ハッとダガンネジブが身動ぎした。
「なんだ、この振動は?」
大地が小刻みに揺れ始め、それに大気が呼応する。振動は徐々に強さを増し、立っていられないほどになっていく。
「急いで城の建物に保護術を!」
自分も術を投げながら、ダガンネジブが魔導士たちに指示を出す。隣では青い顔のソラテシラも城をすっぽり包み込む保護術を掛けている。
それより早く南の城では、魔女ジョゼシラが自分の居城と陣地に大胆な保護術を仕掛けていた。大地と大気の完全遮断だ。
ビルセゼルトを見つめ続けていたジョゼシラは、異変に気が付くのが早かった。最初の振動が届く前に施術している。だが、そんな大技は長くは持たない。南の魔女の城住み魔導士たちが総出で、ジョゼシラの術を下支えしているが、早く振動が収まることを願っている。
振動はやがて魔導士学校にも到達する。
驚いて浮足立つ中、呪文学の教師ペリカパキラがぽつりと呟く。
「サリオネルトが珍しい呪文を使った」
サリオネルトは死したが死していない。呪文の大きさが起こした振動と,サリオネルトが命を移動させた振動だ。
瓦礫とともに落下しながらビルセゼルトの目は、サリオネルトのバターブロンドの煌めきを見つけていた。マルテミアを抱いて、瓦礫と共に落ちていく。
間に合え! エイっとビルセゼルトが手を伸ばし、結界の幕で二人を包み込もうとする。だめだ、届かない、もう一度!
これを失敗すれば、南の城に逃れるチャンスを失う。このまま瓦礫と共に落ち、その下敷きになって終わりだ。
「サリオネルト!」
ビルセゼルトは弟の名を叫び、力の限りに術を飛ばした。
西の城の崩壊が始まるとともに、
「帰るぞ!」
と叫び、ジャグジニアを抱いて飛んだホヴァセンシルはその頃、北の魔女の居城の最上階で、瓦礫の山と化していく西の城を眺めていた。
ほかの魔導士たちも一様に、西の城を眺めている。その中でスナファルデだけは顎髭を撫でながら、面白くなさそうな顔をしていた。
「果たしてサリオネルトの息の根は止まりましたかな?」
スナファルデの問いにホヴァセンシルは答えない。目は西の城を見詰めたままだ。
そして呟いた。
「ヤツが城から脱出した気配はなかった。だとしたら瓦礫と共に落ち、その下敷きになるつもりだ。妻といつまでも一緒に居たいのだろう」
後ろに控えていたジャグジニアが泣き崩れる。
(馬鹿な女だ)
だからこそ見捨てられない。
「城の崩壊が終わったら、再度あちらに出向く。サリオネルトとマルテミアを探してみよう。遺体を見つけられれば、少しは慰めになるだろう?」
ジャグジニアを助け起こしながらそう言うが、見つからないことは判っている。そして
「大地と大気の振動は、サリオネルトの命が消えた衝撃で起きたに違いない。なぜヤツの命は消えたのか?」
と続けた。
「命を『落とした』のではなく『消した』んだ。まぁ、どっちにしろ、サリオネルトは死んだ」
ふむ、とスナファルデも頷く。
「さすがはホヴァセンシル、しっかり見ていたようですな。問題はどこに消したかだな」
「おまえと話す気はない」
ツンとホヴァセンシルはスナファルデから顔を背ける。
「疲れた、少し休む。西の城が落ち着いたら呼んでくれ」
そう言うとジャグジニアの肩を抱いて、ホヴァセンシルは姿を消した。
サリオネルトとマルテミアの居所は判っていた。スナファルデは気付いていない。気を逸らせてよかった、とホヴァセンシルは胸を撫で下ろしていた。
寸時前――落下を続けているのはビルセゼルト、これをしくじればサリオネルトだけでなく、自分も逃れるチャンスを失う。
「サリオネルト!」
ビルセゼルトは弟の名を叫び、力の限りに術を飛ばした。
「!」
手ごたえがある。必死で手繰るが瓦礫が邪魔でなかなか引き寄せられない。地表がすぐそこに迫っている。
「くそっ!」
術の楔を両手で引き寄せる。だがまだ遠い。ならば、ならば……
楔を片手に持ち替え、空いた手で円を描く。術は楔を伝い、狙い通りにサリオネルトとマルテミアを包みこんだ。
「よし!」
思い切り勢いを付けて、風と水の塊を球体に投げつけた。弾いてやる! 南の城まで飛んでいけ! 球体は落下をやめ、猛烈な勢いで宙を横切り南に向かった。
楔は繋がったままビルセゼルトを引きずった。放すものかと楔を掴み、ビルセゼルトも飛ばされていく。それをホヴァセンシルが見届けていたことに、気付く余裕なんかどこにもなかった。
南の城の最上階、ジョゼシラが大地と大気の振動から城を守った結界は、役目を終えて消えたあとだ。ジョゼシラを中心に西の城を見守っている。
「なんだ、あれは?」
誰かが叫ぶ。見た事のない球体が、こちらに向かって突進してくる。
「ビルセゼルトだ、撃つな!」
ジョゼシラの指令がもう少し遅かったら、誰かが砲撃していたかもしれない。素早く招き入れるため、必要な大きさの穴を結界に開ける。
「着地の手助けを。球体に傷をつけるな」
自分も保護術と緩衝術の準備をしながら、魔導士たちに指示を出す。ビルセゼルトが思い切り放り込んだのだ。いくら距離があると言っても衝撃は強い。
「来るぞ! 軌道を見極め、避けろ。ぶつかると持っていかれるぞ!」
再びジョゼシラの声が響く。
球体が飛び込んでくると思われる場所は広く長くあけられて、魔導士たちが固唾を飲んで待っている。術を投げるにはいつがいい?
「今だ!」
ジョゼシラが声を上げ、腕を振りかざし『風と大地の友愛』を球体に投げつける。それに魔導士たちが瞬時に従い、それぞれの術を投げ始める。
球体に負荷がかかり、少しずつ減速していく。だが、城の端までに止まるか?
「引け! 引け!」
ジョゼシラの怒号が響く。すると最上階のすぐ下の外壁が、『ドン!』と響きを立てた。同時に球体がガクンと速度を落とす。
術の楔を掴んだままのビルセゼルトが城に到達し、外壁で踏ん張った。それを足掛かりに、ビルセゼルトは後ろに飛んだ。球体の速度がさらに落ちる。
ジョゼシラが叫ぶ。
「引け! 引くんだ!」
「なんだ、この振動は?」
大地が小刻みに揺れ始め、それに大気が呼応する。振動は徐々に強さを増し、立っていられないほどになっていく。
「急いで城の建物に保護術を!」
自分も術を投げながら、ダガンネジブが魔導士たちに指示を出す。隣では青い顔のソラテシラも城をすっぽり包み込む保護術を掛けている。
それより早く南の城では、魔女ジョゼシラが自分の居城と陣地に大胆な保護術を仕掛けていた。大地と大気の完全遮断だ。
ビルセゼルトを見つめ続けていたジョゼシラは、異変に気が付くのが早かった。最初の振動が届く前に施術している。だが、そんな大技は長くは持たない。南の魔女の城住み魔導士たちが総出で、ジョゼシラの術を下支えしているが、早く振動が収まることを願っている。
振動はやがて魔導士学校にも到達する。
驚いて浮足立つ中、呪文学の教師ペリカパキラがぽつりと呟く。
「サリオネルトが珍しい呪文を使った」
サリオネルトは死したが死していない。呪文の大きさが起こした振動と,サリオネルトが命を移動させた振動だ。
瓦礫とともに落下しながらビルセゼルトの目は、サリオネルトのバターブロンドの煌めきを見つけていた。マルテミアを抱いて、瓦礫と共に落ちていく。
間に合え! エイっとビルセゼルトが手を伸ばし、結界の幕で二人を包み込もうとする。だめだ、届かない、もう一度!
これを失敗すれば、南の城に逃れるチャンスを失う。このまま瓦礫と共に落ち、その下敷きになって終わりだ。
「サリオネルト!」
ビルセゼルトは弟の名を叫び、力の限りに術を飛ばした。
西の城の崩壊が始まるとともに、
「帰るぞ!」
と叫び、ジャグジニアを抱いて飛んだホヴァセンシルはその頃、北の魔女の居城の最上階で、瓦礫の山と化していく西の城を眺めていた。
ほかの魔導士たちも一様に、西の城を眺めている。その中でスナファルデだけは顎髭を撫でながら、面白くなさそうな顔をしていた。
「果たしてサリオネルトの息の根は止まりましたかな?」
スナファルデの問いにホヴァセンシルは答えない。目は西の城を見詰めたままだ。
そして呟いた。
「ヤツが城から脱出した気配はなかった。だとしたら瓦礫と共に落ち、その下敷きになるつもりだ。妻といつまでも一緒に居たいのだろう」
後ろに控えていたジャグジニアが泣き崩れる。
(馬鹿な女だ)
だからこそ見捨てられない。
「城の崩壊が終わったら、再度あちらに出向く。サリオネルトとマルテミアを探してみよう。遺体を見つけられれば、少しは慰めになるだろう?」
ジャグジニアを助け起こしながらそう言うが、見つからないことは判っている。そして
「大地と大気の振動は、サリオネルトの命が消えた衝撃で起きたに違いない。なぜヤツの命は消えたのか?」
と続けた。
「命を『落とした』のではなく『消した』んだ。まぁ、どっちにしろ、サリオネルトは死んだ」
ふむ、とスナファルデも頷く。
「さすがはホヴァセンシル、しっかり見ていたようですな。問題はどこに消したかだな」
「おまえと話す気はない」
ツンとホヴァセンシルはスナファルデから顔を背ける。
「疲れた、少し休む。西の城が落ち着いたら呼んでくれ」
そう言うとジャグジニアの肩を抱いて、ホヴァセンシルは姿を消した。
サリオネルトとマルテミアの居所は判っていた。スナファルデは気付いていない。気を逸らせてよかった、とホヴァセンシルは胸を撫で下ろしていた。
寸時前――落下を続けているのはビルセゼルト、これをしくじればサリオネルトだけでなく、自分も逃れるチャンスを失う。
「サリオネルト!」
ビルセゼルトは弟の名を叫び、力の限りに術を飛ばした。
「!」
手ごたえがある。必死で手繰るが瓦礫が邪魔でなかなか引き寄せられない。地表がすぐそこに迫っている。
「くそっ!」
術の楔を両手で引き寄せる。だがまだ遠い。ならば、ならば……
楔を片手に持ち替え、空いた手で円を描く。術は楔を伝い、狙い通りにサリオネルトとマルテミアを包みこんだ。
「よし!」
思い切り勢いを付けて、風と水の塊を球体に投げつけた。弾いてやる! 南の城まで飛んでいけ! 球体は落下をやめ、猛烈な勢いで宙を横切り南に向かった。
楔は繋がったままビルセゼルトを引きずった。放すものかと楔を掴み、ビルセゼルトも飛ばされていく。それをホヴァセンシルが見届けていたことに、気付く余裕なんかどこにもなかった。
南の城の最上階、ジョゼシラが大地と大気の振動から城を守った結界は、役目を終えて消えたあとだ。ジョゼシラを中心に西の城を見守っている。
「なんだ、あれは?」
誰かが叫ぶ。見た事のない球体が、こちらに向かって突進してくる。
「ビルセゼルトだ、撃つな!」
ジョゼシラの指令がもう少し遅かったら、誰かが砲撃していたかもしれない。素早く招き入れるため、必要な大きさの穴を結界に開ける。
「着地の手助けを。球体に傷をつけるな」
自分も保護術と緩衝術の準備をしながら、魔導士たちに指示を出す。ビルセゼルトが思い切り放り込んだのだ。いくら距離があると言っても衝撃は強い。
「来るぞ! 軌道を見極め、避けろ。ぶつかると持っていかれるぞ!」
再びジョゼシラの声が響く。
球体が飛び込んでくると思われる場所は広く長くあけられて、魔導士たちが固唾を飲んで待っている。術を投げるにはいつがいい?
「今だ!」
ジョゼシラが声を上げ、腕を振りかざし『風と大地の友愛』を球体に投げつける。それに魔導士たちが瞬時に従い、それぞれの術を投げ始める。
球体に負荷がかかり、少しずつ減速していく。だが、城の端までに止まるか?
「引け! 引け!」
ジョゼシラの怒号が響く。すると最上階のすぐ下の外壁が、『ドン!』と響きを立てた。同時に球体がガクンと速度を落とす。
術の楔を掴んだままのビルセゼルトが城に到達し、外壁で踏ん張った。それを足掛かりに、ビルセゼルトは後ろに飛んだ。球体の速度がさらに落ちる。
ジョゼシラが叫ぶ。
「引け! 引くんだ!」
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