憧憬のエテルニタス

寄賀あける

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第五部 遁走   守られる者 守られる愛

二十一章 遺志 (2)

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 感謝の意は書いても書ききれない、この辺りで切り上げよう。賢明な我が兄は判っていると思うが、深謝するためにこの手紙をしたためたわけではない。

 伝えたいこと、伝えておかなくてはならない事、多すぎてどれから話せばいいものか。

 いざとなったらわたしは西の魔女の居城に大地の加護を願うつもりでいる。わたしが命を落とせば、願いは成就されたと判断され、西の城は崩れ去る。わたしとマリの亡骸は、城の瓦礫がれきに埋もれるだろう。

 できれば回収して欲しい。北の悪魔に渡れば、生前思念を読まれるかもしれない。あるいは記憶の巻き戻しが可能かもしれない。わたしの企みをできるなら悪魔に知られたくない。もっとも、ビリーやジョゼが危険なようなら、諦めても構わない。

 万が一、悪魔に知られるようなことがあっても誤魔化せるよう、二重にも三重にも策略を仕掛けておいた。わたしにさえ結果が予測できないような手も打ってある。念のためのお願いだ。決して危険を冒さないで欲しい。

 悪魔の狙いは魔導士ギルドの解体だとわたしは考えている。今回、魔導士ギルドは南と北に分割されるだろう。北は必ず西の陣地を要求してくる。

 ホヴァセンシルの言った『狙いは西』とはこの事だ。そして独自にギルドを立ち上げると宣言してくるはずだ。

 ビルセゼルト、今はこの要求を飲め。そして時を待て。悪魔はまだ正体を隠している。わたしの知らない何かの加護を得ている。その何かが判明するまで待つんだ。

 ホヴァセンシル……ホビスを助け出すのは難しいと、正直思う。スナファルデはニアの懐柔に成功していると考えたほうがいい。ニアの心の不安定さに付け込むのは、ヤツにとってはお手の物だ。

 ホビスはニアの不安定さに魅かれたのだと思う。その不安定さに付け込んだスナファルデ……ホビスを助け出す方法は果たしてあるだろうか?

 いっそ、ニアを消してしまうか? いいや、ダメだ。ホビスからニアを取り上げるなんて、わたしにはできない。きっと誰にもできない。

 ギルド本拠でホビスは『サリオネルトを処刑しろ』と何度口にしたろうね? そのたびホビスの心が切り刻まれていくのを感じた。あの告白状を読み上げるホビスは、フードを目深に被り表情を隠し、心を読ませず、言葉を受け取らず、硬い殻に閉じこもっていた。そうしなければ耐えられなかったんだと思う。

 ホビスを助け出す方法をビリー、考えて欲しい。わたしにはもう時間がなく、悔しいが、ホビスを助け出せない。何度もわたしを助けてくれたホビスを、助け出せない自分が不甲斐ない。

 魔導士の結束を乱し、魔女と魔導士の連帯を壊す。その先にあるものは何かと考えると、答えは一つしか思い浮かばない。

 高位の魔女・魔導士が市井の人々や低位の魔女・魔導士を蹂躙し支配する世の中、悪魔はそれを狙っている。この考えはスナファルデの心境と照らし合わせても、そう不自然ではない。魔女の誇り、魔導士の誇りを地に落とし、嘲笑する時を待ちわびている。スナファルデが悪魔になった事には、もう気が付いているよね?

 ギルドについて、この戦争の後始末について、わたしが言えるのはここまでだ。偉大な魔導士ビルセゼルトには不要な助言かもしれない。その時は聞き流してくれ。

 ビリー、わたしの大切な双子の兄、次には家族の話をしよう。

 わたしのことで両親を責めてはいけないよ。お願いだから、母さんを許してやって欲しい。普通ではない子を持った親の心を思いやって欲しい。仮死状態で生まれた我が子が、息もしていないのに言葉を発するなど、どれほど戸惑い、どれほどの恐怖を味わったか。

 両親に見捨てられたと恨んでいたおまえに言われたくない、と今、思っているだろうね。うん、わたしも、よく自分を棚に上げて言えるものだと思う。呆れてしまうよね。

 後で話すがわたしの子も『普通』ではない。それを知った時、自分の親の気持ちを初めて思いやる事ができた。戸惑いを責めることなどできないと思ったんだ。だから父さんと母さんを責めないでおくれ。

 わたしが死んだと知った時、両親は悲しんでくれるだろうか? きっと悲しむと、悲しんでくれると思う。もし、悲しんでくれなかったとしても、ビリー、怒ってはいけない。特に母さんは、素直じゃないんだと、思ったほうがいい。

 ビリー、父さんと母さんはわたしの親でもあるのに、ビリーひとりに押し付けることになってしまう。申し訳ない。これから二人は年を取り、心配事も増えるのに、一緒に支えることができなくて本当に申し訳ない。自分でも情けないが、どうすることもできなくて、謝るしかない。勝手だけれど、ビリー、二人を頼むね。

 それと、わたしには悲しんでくれる親があと二人いる。里親の二人だ。何かのついででいいから、二人に伝えて欲しい。サリーは二人に感謝していたと。二人に迷惑かけたことを後悔していたと。そして愛していたと、これはいつでもいいから必ず伝えてくれ。

 ところでこの手紙には『経過事象異文』の術が掛けてある。この手紙が書き終えられたのちに起きた出来事で、文面が微妙に変わる術だ。

 なので、書き終えられた時刻以後に起きたことが書かれていても、驚くことではないんだよ。また、この手紙には『口外無用』の術もかけられている。

 手紙の内容はビルセゼルト・ジョゼシラ・ブランシス・モネシアネル・ホヴァセンシル、そしてわたしの息子ロハンデルト、さらに五年後に誕生する神秘王の七人にしか知ることができない。そして七人は、七人以外の人にも話せないし、心を読まれることもない。さらにこの手紙に関する七人の話し声は、他者に聞かれることもない。

 神秘王については判っていることを後述する。ほんの少しの情報しかなく申し訳程度になると思う。

 そうだ、音読禁止にもしている。これはとっくに気が付いているだろうね。ビリーにしか言えないわたしの弱音や愚痴が含まれているからだ。判っているよね。

 驚くと言えば、わたしが死したのちも生前掛けた術が有効なことも驚いていると思う。その説明はもう少し後にさせて貰うね。

 さて、そろそろ本題に入ろう。示顕じげん王の件だ。

 示顕王の誕生を示す星が二重星だという事は以前話した。その『二重星』の本当の意味を先ほど星見から聞かされ知った。知った時、この手紙を書くことを決めた。

 知ったのは、二重星が示すのが『示顕王は二人でひとり』という事だ。『示顕王は一人』だ。そして二人とはやはり当初の予測通り、わたしとわたしの息子を指す。

 星見は言った。『二人のうち、どちらかしか生き残れない』と。そう告げられて、ましてマリを失うと知って、わたしが自分を選ぶはずはないと判るよね?

 さらに星見は『必ず西の城で出産し、大地の加護を受けるように』と進言してきた。母なる大地の加護を受ける事により、示顕王の力を発現できるようになるまで、大地がわたしの息子を守るとの事だ。

 息子にその加護を与えるため、わたしは西の城にとどまるだろう。

 西の城の魔導士たちは撤退させようと思っている。マリの死で城が持たないのは判っている。崩れると判っているのに仲間たちを城に置き、危険を冒して城を守らせるわけにはいかない。

 その時、ビリーはわたしに『おまえも撤退しろ』と言うだろうね。それを聞き入れなかったのは、こんな事情があったんだ。どうか許して欲しい。
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