おしゃべりオウムに ようこそ

寄賀あける

文字の大きさ
9 / 33

9  火花を散らせば

しおりを挟む
 デリスが自分をにらみ付けるのをひしひしと感じつつ、アランが言う。
ずるいかどうかは判らない。僕に判るのは、デリスは僕を睨み付けているけれど、僕はデリスを睨めないってことだ」
その言葉にデリスがギョッとする。が、
「おまえのそんなところを狡いって言ってるんだ」
と、言い返す。
「そうか……そうかもしれないね」
アランの声音が低くなる。

「僕は自分の目が見えなくなったことを、気にしてもどうしようもないって思いながら、実はすごく気にしている。判ってはいるんだよ、気にしたってどうにもなる事じゃないって。今さらだ」
「アラン……」
言い過ぎたとデリスが後悔し始める。

「デリス。今まで何も考えず出来ていたことが、ある日、全くできなくなる。しかも五感の内でも重要な機能が失われた。常に闇に閉ざされる――ジゼルが世話係の魔女たちに、何かあると罰として闇に閉じ込められたと言っていたよね。『 闇に閉じ込めるのだけはやめて』ってよく泣いてた。あの気持ち、今ならよく判るよ。もっともジゼルの場合は、視覚だけじゃなく、他の感覚も封じられてたみたいだけど。その分、僕のほうがずっとマシだ」

「感覚を封じる?」
「封印術の一種を使ったと推定している。そんなに簡単な術じゃないんだけど……ビルセゼルトは世話係の魔女の選定を失敗しすぎているように思える。ジゼルがその罰を受けるようになってからの世話係の魔女の追跡調査をダグに頼んでおいた」
「いや、なんだ? なんでアランがそんな事を? だいたいダガンネジブがそれを引き受けた?」

「……僕は月影、ジゼルの影だ。僕が命じればジゼルが命じたと同じ」
「そんな話、聞いていない」
「うん、初めて話した。ほかには誰にも言っていない。もちろんギルドの上層部には周知済みの事だ」
「それって、僕に話して良かったのか?」
「あと半年もして、魔導士学校を卒業すれば、ギルドが正式に発表する。『月影の魔導士』の意味をね。ジゼルが地上の月、神秘王だという事と合わせてね」
「いや、ちょっと待て――アランの目の話をしていたんだ。それがどうしてこんな話になった?」

 アランが寂し気に微笑ほほえむ。
「デリスが僕の事を狡いと言ったからだよ。でも、それは間違ってない。僕は狡い。狡くなった理由を説明した」
「……狡くなった理由――シャーンから逃げている理由、自分の本心から逃げている理由でもありそうだ」
「そして、その理由を話すことさえ狡い。反論できないだろ?」
「……」

 デリスがアランを見詰めて考え込む。そして、
「いや、僕は反論する。どんな足枷あしかせがあろうと、それに屈するな、アラン」
と、言った。

「足枷、か――」
アランが苦笑する。
「足枷とデリスは言ったけれど、うーーん、足枷……月影である僕は、ジゼルと同じで、すべての魔女・魔導士の上に立つ者の一人となった。権限を持ち、同時に責任を負った。しかもその権限も責任も僕には重過ぎる。それを足枷って言ったと思っていいのかな?」
「ビルセゼルトやダガンネジブはなんと言ってるんだ?」
「何について? 僕が月影である事について? それとも僕の権限と責任についてかい?」

「いや。うん、アランに月影としての権限や責任があるなら、どうして魔導士学校の教職に就いたりするんだ?」
「質問を変えるのは狡くないのか? まぁ、いい……ジゼルは街の魔導士になった。僕は学者になる。ジゼルも僕も、生活している。きたるべき時に備えて。その時には、職も生活も捨てることになるかも知れない。命さえも」
きたるべき時……ないかもしれない」

「歴史学者ビルセゼルトが研究を重ねて出した結論は、星見魔導士が出した予言と同じだ。災厄は来る。それももうすぐだ。あと四年」
「……四年。うん、それは以前から話している事だ」
「とにかく、だ。僕はシャーンと一緒になれない、なる気もない。だけど、シャーンの事は気掛かりで、彼女の幸せを願っている。それは否定しない――そして、デリスなら彼女を幸せにしてくれる、そう思ってデリスをシャーンにと、ダガンネジブに進言したのは僕だ」
「えっ?」
「そう言うことなんだよ、デリス。だから僕に気兼ねすることはない」

「――アランの気持ちより、僕はシャーンの気持ちを考えてしまうけれどね」
デリスの言葉にアランの返事はなかった。三時限目の開始時刻が迫っていた。慌てて教室に移動する。

 三時限目、二人が受ける講義は同じで、そこにはグリンの顔もあった。

「来ないのかと思った。探して、迎えに行くところだったよ」
二人が姿を見せるとグリンが来てそう言った。
「なにかあった?」
デリスがグリンに問う。

「うん。シャーンから聞いたんだけど、学校に保護者が集められているって」
「え?」
「すぐ来られる人はすぐに、来られない人は可能な時刻を連絡して欲しいって通知があったらしい」
「それをシャーンはなぜ知った?」
尋ねたのはアランだ。

「談話室の暖炉――火のルートから保護者が次々に来校してるって。母も来て、シャーンは母から聞いたらしい」
「あぁ、ビルセゼルトが休講で、シャーン、談話室にいたのか」
アランが納得する。その様子をデリスが観察しているのはアランも気付いているだろう。

「この二日間の説明かな?」
「そうじゃなさそうなんだけど……」
デリスの質問に対するグリンの答えは中断される。教室にこの時間の講義『浮遊と宙空間の利用に関する魔導法』の担当教授、副校長レギリンスが現れたからだ。

 今日のテーマは『宙空間に於ける物質の保管および消去に関する制約と法律』で消去術のスペシャリストのレギリンスの舌はえまくっていた。

「つまり、宙空間の容積以上の物質もこの方法で保管できるわけです。我が校の図書館もこの方法で莫大な蔵書を管理しているわけですね」
そう言って、学生の反応をレギリンスが見渡した時だった。

「誰だっ!?」
アランが叫んで立ち上がる。顔色を変えて、周囲に意識を張り巡らせているのがはたからも判る。その様子にレギリンスの顔色も変わり、アランにならって意識を張り巡らせた。

「保護術の強化! 最大限に!」
アランが拡声術を使う。そこかしこにアランの声が響き渡る。呼応して教職員及び保護術を使える学生が魔導士学校を包む封印に保護強化術を施術する波動が起きる。

「火弾による攻撃! 各自、防衛幕を施術っ! できない者を近くにいる施術者は内包せよ!」
続いてアランの声が響き、アラン自体が見えない何かに包まれる気配を発する。

 ドンッ!

 大音響と振動が同時に起きる、学生たちに動揺が広がる。アランが窓の外に意識を向ける。

「は……?」

 パチパチパチパチ……火花が飛び散るのが容易に判る。

 ドンッ! パチパチパチパチ……
 ドンッ! パチパチパチパチ……
 ドンッ! パチパチパチパチ……

「……建物内部にいる者は防衛幕、解除」
幾分、先ほどよりは気抜けしたアランの声が校内を渡る。

「花火だ――飛んできた火弾は花火だったんだ……」
すっかり力を失ったアランの声が校内の緊張を解いていく。

 レギリンスがアランの肩に手を置いた。
「さすがに主席、校長の不在時に的確な判断でした。何より、教職員さえ気づかなかった火弾の接近をいち早く察知し、校内に指示を出し危険を回避しました。結果、火弾は花火であり、それほど危険ではなかったとしても賢明な判断としか言えません」

 花火の『来襲』は終わったようだ。

『副校長レギリンスです。校長ビルセゼルト不在のため、代わってただいまの騒ぎについて通知いたします。事態究明のため、これ以降の講義は休止、速やかに各自寮に戻り、次の指示が出るのを待ちなさい。帰寮には移動術を使用し、念のため、屋外には出ないよう工夫すること。移動術が使えない者に関しては寮長が同行術で連れ帰る事。指示があるまで自分の寮を出る事を禁じます――以上』

 レギリンスが満声術を使い、校内に通知した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

君は恋人、でもまだ家族じゃない

山田森湖
恋愛
あらすじ 同棲して3年。 毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、 一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。 彼女は彼を愛している。 彼も自分を愛してくれていると信じている。 それでも、胸の奥には消えない不安がある。 「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」 結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。 最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。 周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。 幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には “言えない言葉”だけが増えていく。 愛している。 でも、それだけでは前に進めない。 同棲という甘い日常の裏で、 少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。 このまま時間に流されるだけの恋なのか、 それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。 彼の寝息を聞きながら、 彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

処理中です...