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序章
陽光
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寝たりないうちに揺り起こされ、薄暗い洞窟の中を出口に向かう。クルテが準備していたようで、ところどころに松明があった。
「おまえって眠るのか?」
足元に注意を払いながらカテロヘブが問う。
「いや、眠ったことはないな」
「疲れないのか?」
「疲れってのはあるな。そんな時は誰かの秘密を食らえばすぐ回復する――てかさ、わたしは精神体だ。思考のみの存在が眠ってみろ、それは消滅を意味してるんじゃないのかな?」
「なぜ疑問?」
「経験がないから自分でも判らないのさ」
暗い洞穴、足場はかなり悪い。カテロヘブが踏み外しそうになるとすかさずクルテが現れ、転倒しないように支える。
「おまえ、今、離れた場所に居たよな?」
「やっぱ、飲み込み悪いな。もともとない身体だ。あっちに出そうがそっちに出そうが考えひとつ」
「それが瞬時にできる?」
「わたしが迷わなければね」
「迷うこともあるのか?」
「おまえはないのか? 人間なんて迷ってばかりだと思ったが?」
「それ、訊かなきゃ判らない? なんでもお見通しなのかと思ってた」
「見透かされるのを嫌うだろう? もちろん知ってるさ……迷ってないでさっさとナリセーヌに――」
「うわっ!」
ナリセーヌと聞いて慌てたカテロヘブが足を踏み外す。瞬時に現れたクルテ、
「申し込んどきゃ良かったんだ……いちいち動揺するな。わたしが間に合わなきゃ怪我してまた療養生活だぞ?」
と笑う。
「だったら彼女の名を出すな」
「いや、反応が面白くてつい」
「俺が怪我をしてもいいのか?」
「そんなこと言うと、転びそうになっても放っとくぞ?」
「おまえは誰かを好きになったりしないんだ?」
「性別がないからなぁ、性欲もないし……でも、好ましく思うことはあるな。恋愛とかじゃなく」
「対象ってやっぱり魔物?」
「魔物だったり、他の生き物だったり」
「へぇ……例えば?」
「例えば、か……以前、巣から落ちたヒナを育ててやったことがある。ソイツを可愛いと思ったし、大切にしてた」
「感情は人間そのものだな」
「それが……ゴルゼのヤツ、カラスを嗾けて集団で襲わせた。やっと飛べるようになったばかりだったのに」
「それでどうなった?」
「カラスは雑食だって知ってる?」
「ふむ……ゴルゼとは昔から仲が悪かった?」
「あいつは意地が悪いんだよ。常に悪巧みを考えてるしね。スズメなんか幾らでもいるだろうって言いやがった」
「育てたのはスズメだったか――カラスを追い払うことはできなかったんだ?」
「子スズメの世話をするのに、わたしもスズメに変化してて、集団カラスに太刀打ちできなかった……もっと冷静だったらと後悔してるよ。鷹とかの猛禽類に変化し直せばあるいはどうにかできたもしれない」
「スズメを守る鷹か?」
「……いや、ダメだな。鷹を見たらあの子、怖がってどこかに行ってしまったかも」
「なんだ、寂しいって感情もあるんだ?」
するとクルテがフッと笑った。
「楽しい嬉しい悔しい悲しい寂しい懐かしい切ない、なんでもあるさ。秘密を食ってるんだ。感情がなきゃ味が判らないだろう?」
「ふぅん……なぁ、俺のナリセーヌへの思いはどんな味なんだ?」
「おや、自分から話題にしたよ……甘くって、どこかピリッとした感じ。いいオヤツだ」
「味覚もあるんだ?」
「そんな感じだって事」
暫く行くと洞窟は方向が変わり、同時に瀑声が遠くに聞こえるようになった。そこからは進むにつれて瀑声が大きくなっていく。
「あの、焚火のあるところか?」
「あぁ、濡れずに済むギリギリのところだ。飯も温めればいいように支度しておいたぞ」
「おまえ、マメだよな。世話女房タイプ?――思ったよりも遠かった」
「性別はないって言ったのに女房かよ?……疲れただろう? 途中で引き返すことになるかと危ぶんでいたがちゃんと辿り着いた。頑張ったな、カテロヘブ」
「おまえに褒められてもな」
「ナリセーヌの姿で褒めてやろうか?」
「彼女を侮辱すると許さんぞ」
「怖っ! こいつ、本気で怒ってら」
焚火が見え始めてからは大きな岩が減って歩き易くなった。
「岩場を歩くのは足腰を鍛えるのに良さそうだな」
「明日から毎日往復してみるか? わたしの補助なしで、今の三分の一の時間で一日に五往復出来るようになったら旅立とう」
「五往復? 一日がかり?」
「半日で」
「きつそうだな?」
「打倒ネネシリスを考えたら、それでも足りないんじゃないのか?」
焚火の周囲は平坦でちょっとした広場のような開けた空間、火の傍にはカテロヘブの腕ほどもある木の枝が積み上げてあり、腰を降ろせるようになっていた。少し離れたところに石造りの竈《かまど》が設えてあり、そこには鍋が置かれている。
さらに進めば水がごうごうと音を立てて落ちていく。焚火を受けて見えるのは恐ろしい勢いで下へと流れる水の壁だ。近づけば飛沫を浴びてずぶ濡れ、下手をすれば飲み込まれてしまいそうだ。
「やっぱり火が消える前には着かなかったな」
ブツブツ言いながらクルテが竈に火を熾す。
「何か言ったか? 水の音でよく聞こえなかったぞ?」
「なんだって? もっと大きな声で言え!」
怒鳴るようなクルテにカテロヘブも大声で答える。
「今朝は何を食わせてくれるんだ?」
「雉とキノコと山芋を煮た! 毒キノコは入れてないから安心しろ」
「うん? あとの方はなんて言った? 雉はまた透明な膜になって捕まえたのか?」
「おっ、いきなり察しが良くなった」
「えっ? なんだって? ところで雉はナイフを使って裁いたのか? まさかグレナムの剣を使っちゃいないよな?」
「必要な道具は人里に買いに行く! もちろん人の姿で!」
「金は!?」
「獲物を売った!」
「なるほど……盗みはしないのか!?」
「必要があれば!」
「どんな必要があるって言うんだ!?」
「それはこれからのおまえ次第だろう?」
鍋の中身を椀に入れてクルテが戻ってくれば、それほど大声でなくても聞こえるようになった。
「なんで俺次第なんだ?」
「打倒ネネシリス」
「必要になるかな?」
「さぁな」
椀と匙を渡すとカテロヘブの対面の、同じように積み上げた枝にクルテも腰を降ろす。
「火傷するなよ」
「おまえも火傷するのか?」
「精神体が?」
「今は生身なのでは?」
「そう言われれば暑いとか寒いとかは感じるな。でもきっと、危険を察した瞬間に精神体に戻ってるんだろう。怪我したりはないな。病気になったこともない」
「また自分じゃ判らないらしい……精神攻撃に弱い?」
「うーーん……精神攻撃に弱いのは弱みがあるヤツだけなんじゃないのか?」
「ほっほう、自分には弱味なんかないって?」
「弱味イコール秘密だ。わたしにとって秘密は強み。つまり弱味なんかない」
「言い切ってる……自信家なんだな」
「自信……弱みとか自信とか、考えたことがないからなぁ――そろそろ日の出だ。滝を見てみろ、少しだけ明るいだろ?」
促されて目を向けると、この場に着いた時は暗かった水の壁がうっすら透けているように見えた。それがだんだんと明るさを増している。落水の音に何か別の音が混ざってきた。
「ギャーギャー? そんな音がする。魔物か?」
「カラスだな。それとムクドリ。おまえの耳で聞こえるのはせいぜいそんなところだろう」
「なんだ、小鳥の囀りは流石に無理か?――で、なにを騒いでるんだ?」
「いろいろさ。朝の挨拶だな」
「鳥が朝のあいさつ?……ん? おまえ、鳥の言葉が判るのか?」
「鳥以外だって、なんでも判るぞ。判らなきゃ秘密が食えん」
「あぁ……なんか納得した」
「日の出だ――出口の上の方を見てみろ」
「うん?」
そこは顔を出した太陽の光が差し込んでいるのだろう。キラキラと煌めいていた。
「水晶みたいだ」
見ているうちに輝きは下へ下へと広がっていく。
「陽光とは美しい物なんだな」
しみじみと言うカテロヘブにクルテが、
「水に乱反射してるから、そう感じるだけだ」
と答えてから
「だが、まぁ、否定はしない。日の光はほかの灯りよりずっと本質を明らかにする」
と詰まらなそうに言う。
「本質?」
「ほかの光源は時に物を歪めて見させるからな――足元が照らされたら奥へ戻るぞ。さっさと食っちまえ」
「あぁ……なかなか旨いぞ」
「そりゃよかったな――なんの変哲もない穴倉だが、明日からは毎日往復だ。陽光をじかに浴びたいなら、早くここから出られるよう頑張るんだな。そうすりゃ小鳥の囀りなんか、いやってほど聞けるようになるさ」
空になった椀をカテロヘブから受け取ると、クルテが注ぎ足しに竈に向かった。
手持無沙汰に滝を眺めるカテロヘブ、
「あれ?」
と呟く。椀を満たして戻ったクルテが
「どうした?」
と問えば、
「今、何かが落ちたように見えた」
とカテロヘブが答えた。
「あぁ、魚だ。昨夜食ったじゃないか」
「落ちた魚は落ちっ放しか?」
「だろうね。この滝は昇れないだろうからな」
「だったら、なんで上流から魚が流れつく? 落ちて戻れないなら、いずれ上流には魚が居なくなるはずだろう?」
「上流に湖がある。そこに住んでるんだ。ヘンに冒険心のあるヤツが川の流れに乗ってここまで来て引き返せなくなった。そんなところだろう……おまえも引き返すなら今のうちだぞ?」
「引き返す?」
「せっかく命が助かったんだ。元気になったらすべてを忘れて平穏に暮らすって手もあるぞ?」
「俺がもしそうしたいって言ったら、おまえは俺をここに捨てていきそうだな」
「乗り掛かった舟だ。ひとりで生きていけるようになるまでは手助けしてやるよ。ナリセーヌの――」
「また言うか!」
「まぁ、おまえは引き返さないだろうな」
とクルテがクスッと笑う。
「うん、なんとしてでもネネシリスを倒し、姉上を助け出す。それに唆魔なんかがネネシリスに憑いているなら国がどうなるのか心配だ」
「とことん税を取り立てるつもりでいるが、まぁ、大臣どもも黙っちゃいない。そして、矢面に立たされるのはおまえの姉貴だ」
カテロヘブの顔がグッと強張るが、クルテにはそれが面白いらしい。
「顔では勝負にならん。いや、おまえよりネネシリスが美男だって意味じゃない」
と、さらにクスクス笑う。
「まぁ、ヘコたれたらヘコたれたってわたしに言え。そん時はおまえの本心に副うよう助言してやるさ」
もうそろそろ陽光は足元に届きそうだった。
「おまえって眠るのか?」
足元に注意を払いながらカテロヘブが問う。
「いや、眠ったことはないな」
「疲れないのか?」
「疲れってのはあるな。そんな時は誰かの秘密を食らえばすぐ回復する――てかさ、わたしは精神体だ。思考のみの存在が眠ってみろ、それは消滅を意味してるんじゃないのかな?」
「なぜ疑問?」
「経験がないから自分でも判らないのさ」
暗い洞穴、足場はかなり悪い。カテロヘブが踏み外しそうになるとすかさずクルテが現れ、転倒しないように支える。
「おまえ、今、離れた場所に居たよな?」
「やっぱ、飲み込み悪いな。もともとない身体だ。あっちに出そうがそっちに出そうが考えひとつ」
「それが瞬時にできる?」
「わたしが迷わなければね」
「迷うこともあるのか?」
「おまえはないのか? 人間なんて迷ってばかりだと思ったが?」
「それ、訊かなきゃ判らない? なんでもお見通しなのかと思ってた」
「見透かされるのを嫌うだろう? もちろん知ってるさ……迷ってないでさっさとナリセーヌに――」
「うわっ!」
ナリセーヌと聞いて慌てたカテロヘブが足を踏み外す。瞬時に現れたクルテ、
「申し込んどきゃ良かったんだ……いちいち動揺するな。わたしが間に合わなきゃ怪我してまた療養生活だぞ?」
と笑う。
「だったら彼女の名を出すな」
「いや、反応が面白くてつい」
「俺が怪我をしてもいいのか?」
「そんなこと言うと、転びそうになっても放っとくぞ?」
「おまえは誰かを好きになったりしないんだ?」
「性別がないからなぁ、性欲もないし……でも、好ましく思うことはあるな。恋愛とかじゃなく」
「対象ってやっぱり魔物?」
「魔物だったり、他の生き物だったり」
「へぇ……例えば?」
「例えば、か……以前、巣から落ちたヒナを育ててやったことがある。ソイツを可愛いと思ったし、大切にしてた」
「感情は人間そのものだな」
「それが……ゴルゼのヤツ、カラスを嗾けて集団で襲わせた。やっと飛べるようになったばかりだったのに」
「それでどうなった?」
「カラスは雑食だって知ってる?」
「ふむ……ゴルゼとは昔から仲が悪かった?」
「あいつは意地が悪いんだよ。常に悪巧みを考えてるしね。スズメなんか幾らでもいるだろうって言いやがった」
「育てたのはスズメだったか――カラスを追い払うことはできなかったんだ?」
「子スズメの世話をするのに、わたしもスズメに変化してて、集団カラスに太刀打ちできなかった……もっと冷静だったらと後悔してるよ。鷹とかの猛禽類に変化し直せばあるいはどうにかできたもしれない」
「スズメを守る鷹か?」
「……いや、ダメだな。鷹を見たらあの子、怖がってどこかに行ってしまったかも」
「なんだ、寂しいって感情もあるんだ?」
するとクルテがフッと笑った。
「楽しい嬉しい悔しい悲しい寂しい懐かしい切ない、なんでもあるさ。秘密を食ってるんだ。感情がなきゃ味が判らないだろう?」
「ふぅん……なぁ、俺のナリセーヌへの思いはどんな味なんだ?」
「おや、自分から話題にしたよ……甘くって、どこかピリッとした感じ。いいオヤツだ」
「味覚もあるんだ?」
「そんな感じだって事」
暫く行くと洞窟は方向が変わり、同時に瀑声が遠くに聞こえるようになった。そこからは進むにつれて瀑声が大きくなっていく。
「あの、焚火のあるところか?」
「あぁ、濡れずに済むギリギリのところだ。飯も温めればいいように支度しておいたぞ」
「おまえ、マメだよな。世話女房タイプ?――思ったよりも遠かった」
「性別はないって言ったのに女房かよ?……疲れただろう? 途中で引き返すことになるかと危ぶんでいたがちゃんと辿り着いた。頑張ったな、カテロヘブ」
「おまえに褒められてもな」
「ナリセーヌの姿で褒めてやろうか?」
「彼女を侮辱すると許さんぞ」
「怖っ! こいつ、本気で怒ってら」
焚火が見え始めてからは大きな岩が減って歩き易くなった。
「岩場を歩くのは足腰を鍛えるのに良さそうだな」
「明日から毎日往復してみるか? わたしの補助なしで、今の三分の一の時間で一日に五往復出来るようになったら旅立とう」
「五往復? 一日がかり?」
「半日で」
「きつそうだな?」
「打倒ネネシリスを考えたら、それでも足りないんじゃないのか?」
焚火の周囲は平坦でちょっとした広場のような開けた空間、火の傍にはカテロヘブの腕ほどもある木の枝が積み上げてあり、腰を降ろせるようになっていた。少し離れたところに石造りの竈《かまど》が設えてあり、そこには鍋が置かれている。
さらに進めば水がごうごうと音を立てて落ちていく。焚火を受けて見えるのは恐ろしい勢いで下へと流れる水の壁だ。近づけば飛沫を浴びてずぶ濡れ、下手をすれば飲み込まれてしまいそうだ。
「やっぱり火が消える前には着かなかったな」
ブツブツ言いながらクルテが竈に火を熾す。
「何か言ったか? 水の音でよく聞こえなかったぞ?」
「なんだって? もっと大きな声で言え!」
怒鳴るようなクルテにカテロヘブも大声で答える。
「今朝は何を食わせてくれるんだ?」
「雉とキノコと山芋を煮た! 毒キノコは入れてないから安心しろ」
「うん? あとの方はなんて言った? 雉はまた透明な膜になって捕まえたのか?」
「おっ、いきなり察しが良くなった」
「えっ? なんだって? ところで雉はナイフを使って裁いたのか? まさかグレナムの剣を使っちゃいないよな?」
「必要な道具は人里に買いに行く! もちろん人の姿で!」
「金は!?」
「獲物を売った!」
「なるほど……盗みはしないのか!?」
「必要があれば!」
「どんな必要があるって言うんだ!?」
「それはこれからのおまえ次第だろう?」
鍋の中身を椀に入れてクルテが戻ってくれば、それほど大声でなくても聞こえるようになった。
「なんで俺次第なんだ?」
「打倒ネネシリス」
「必要になるかな?」
「さぁな」
椀と匙を渡すとカテロヘブの対面の、同じように積み上げた枝にクルテも腰を降ろす。
「火傷するなよ」
「おまえも火傷するのか?」
「精神体が?」
「今は生身なのでは?」
「そう言われれば暑いとか寒いとかは感じるな。でもきっと、危険を察した瞬間に精神体に戻ってるんだろう。怪我したりはないな。病気になったこともない」
「また自分じゃ判らないらしい……精神攻撃に弱い?」
「うーーん……精神攻撃に弱いのは弱みがあるヤツだけなんじゃないのか?」
「ほっほう、自分には弱味なんかないって?」
「弱味イコール秘密だ。わたしにとって秘密は強み。つまり弱味なんかない」
「言い切ってる……自信家なんだな」
「自信……弱みとか自信とか、考えたことがないからなぁ――そろそろ日の出だ。滝を見てみろ、少しだけ明るいだろ?」
促されて目を向けると、この場に着いた時は暗かった水の壁がうっすら透けているように見えた。それがだんだんと明るさを増している。落水の音に何か別の音が混ざってきた。
「ギャーギャー? そんな音がする。魔物か?」
「カラスだな。それとムクドリ。おまえの耳で聞こえるのはせいぜいそんなところだろう」
「なんだ、小鳥の囀りは流石に無理か?――で、なにを騒いでるんだ?」
「いろいろさ。朝の挨拶だな」
「鳥が朝のあいさつ?……ん? おまえ、鳥の言葉が判るのか?」
「鳥以外だって、なんでも判るぞ。判らなきゃ秘密が食えん」
「あぁ……なんか納得した」
「日の出だ――出口の上の方を見てみろ」
「うん?」
そこは顔を出した太陽の光が差し込んでいるのだろう。キラキラと煌めいていた。
「水晶みたいだ」
見ているうちに輝きは下へ下へと広がっていく。
「陽光とは美しい物なんだな」
しみじみと言うカテロヘブにクルテが、
「水に乱反射してるから、そう感じるだけだ」
と答えてから
「だが、まぁ、否定はしない。日の光はほかの灯りよりずっと本質を明らかにする」
と詰まらなそうに言う。
「本質?」
「ほかの光源は時に物を歪めて見させるからな――足元が照らされたら奥へ戻るぞ。さっさと食っちまえ」
「あぁ……なかなか旨いぞ」
「そりゃよかったな――なんの変哲もない穴倉だが、明日からは毎日往復だ。陽光をじかに浴びたいなら、早くここから出られるよう頑張るんだな。そうすりゃ小鳥の囀りなんか、いやってほど聞けるようになるさ」
空になった椀をカテロヘブから受け取ると、クルテが注ぎ足しに竈に向かった。
手持無沙汰に滝を眺めるカテロヘブ、
「あれ?」
と呟く。椀を満たして戻ったクルテが
「どうした?」
と問えば、
「今、何かが落ちたように見えた」
とカテロヘブが答えた。
「あぁ、魚だ。昨夜食ったじゃないか」
「落ちた魚は落ちっ放しか?」
「だろうね。この滝は昇れないだろうからな」
「だったら、なんで上流から魚が流れつく? 落ちて戻れないなら、いずれ上流には魚が居なくなるはずだろう?」
「上流に湖がある。そこに住んでるんだ。ヘンに冒険心のあるヤツが川の流れに乗ってここまで来て引き返せなくなった。そんなところだろう……おまえも引き返すなら今のうちだぞ?」
「引き返す?」
「せっかく命が助かったんだ。元気になったらすべてを忘れて平穏に暮らすって手もあるぞ?」
「俺がもしそうしたいって言ったら、おまえは俺をここに捨てていきそうだな」
「乗り掛かった舟だ。ひとりで生きていけるようになるまでは手助けしてやるよ。ナリセーヌの――」
「また言うか!」
「まぁ、おまえは引き返さないだろうな」
とクルテがクスッと笑う。
「うん、なんとしてでもネネシリスを倒し、姉上を助け出す。それに唆魔なんかがネネシリスに憑いているなら国がどうなるのか心配だ」
「とことん税を取り立てるつもりでいるが、まぁ、大臣どもも黙っちゃいない。そして、矢面に立たされるのはおまえの姉貴だ」
カテロヘブの顔がグッと強張るが、クルテにはそれが面白いらしい。
「顔では勝負にならん。いや、おまえよりネネシリスが美男だって意味じゃない」
と、さらにクスクス笑う。
「まぁ、ヘコたれたらヘコたれたってわたしに言え。そん時はおまえの本心に副うよう助言してやるさ」
もうそろそろ陽光は足元に届きそうだった。
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