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3章 画家は絵筆を貪りつくす
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では、どうしたら給仕係を懲らしめられるのか?
「唆魔は封印したけど、あの給仕係は封印するわけにもいかない」
と言うクルテ、
「うーーん……」
ピエッチェがつい唸る。
〝ゴルゼのように封印はできない〟という発言は、給仕係がゴルゼと同等の罪を犯したとクルテは感じているってことだ。確かクルテは、ゴルゼがクルテを欲したと言っていた。話しの流れを考えれば、ゴルゼは男、クルテは女? それってきっと……
クルテがピエッチェをチラリと見る。心を読んだらしい。
「そうだよ、秘魔になる前のわたしは女だった。それがどうかした?」
「おまえ、男でも女でもないって言わなかったか?」
「秘魔になったことで性別が無くなった。そう望んだから」
「ゴルゼに襲われて、女でいるのがイヤになった?」
「そうなのかな?……うん、そうだね。男が女に向ける欲望を悍ましく感じたし、恐ろしくもあった。女でなくなれば、二度とこんな思いを味わうこともない。だからって男になるのもイヤだった」
「おまえ、もとは人間だった?」
ピエッチェの質問に、クルテはすぐには答えなかった。少し考えてから、
「ううん、もともと人間じゃない。でもなんだったのかは、今は言えない……ゴルゼは人間だった。きっとそのうち思い出す」
ピエッチェから目を逸らして言った。
また〝思い出す〟か……今度は誰が何を思い出す? 自分が人間だったことをゴルゼが思い出すのか? それとも?
「ゴルゼがもともと人間だったことは判った。そしておまえは人間じゃなかった。でも、なんだったのかは言えない……言えない理由も俺には話せないのか?」
クルテが悲しそうにピエッチェを見る。
「いつか言える時が来るまで何も言えない」
「そのうち思い出すと、おまえは俺に何度も言ってる。おまえは俺に思い出して欲しいんだろう? いったい俺は、何を思い出せばいいんだ? 俺は何を忘れている?」
クルテが小さな溜息を吐く。
「カテロヘブ、思い出せ。それしかわたしには言えない。おまえはわたしやゴルゼを知っているのに、それすら忘れている。忘れている中に、わたしが自分のことを詳しく言えない理由もある」
「だったら思い出すから。もっと何か具体的に――」
「おまえが自分で思い出さなきゃダメなんだ」
クルテが強い口調でピエッチェの言葉を遮った。そしてうっすら笑った。
「もし思い出せなくても問題のないことだ。気にしなくていい。わたしが思い出して欲しいだけだから――それより給仕係をどうするか考えろ」
納得したわけじゃない。けれどこれ以上クルテが教えてくれるとも思えない。思い出すほかないのか……でも何を? それに、問題ないのなら、なぜクルテは繰り返し思い出せと言う?
思い出さなくても俺にはなんの影響もない。だけど思い出せばきっと、それはクルテに有利に働くのだろう。だったら思い出してやる。考え込むピエッチェにクルテが
「気にしなくていいって言ってるのに……」
と呟いてから、威圧的な口調で言った。
「思い出そうとして思い出せるわけじゃない――それより、自分の前に目を向けろ」
「あぁん?」
「フレヴァンスを助け出し、ローシェッタ国王家とつながりを持て。それがザジリレンへの近道。だから今は給仕係だ。ヤツの悪事を暴けば、あるいはギュームの死の謎が解けるかもしれない。ついでにこの街の不自然さにも辿り着くかもしれない」
「おまえ、俺の気を逸らすため、思い付きを言ってないか?」
「ギュームも屋敷を取られていることを忘れた?」
「共通点はそれだけだ。まさかデレドケと同じようなことになってるとでも?」
「デレドケと違って街の土地建物はそれぞれ持ち主が違う。それは金貸しやサロンの客の心を読んで確認している」
いつの間にと思うが、顔が見えていれば勝手に入り込んでくるんだったと思い直して、ピエッチェが舌打ちする。ここはクルテに従うか。クルテの言うとおり、考えたって思い出せそうにない。ならばできることからだ。
「判ったよ……それで? 給仕係を懲らしめるって言ったって、単に痛い思いをさせろってことじゃないんだろう?」
「もちろんだ。自分がしたことの報いだと思い知らせて二度と同じことをする気を起こさせない、そうしなければ意味がない」
「だったら……ヤツが彼女にしたことをヤツにもするか?」
「フン! わたしがヤツの気持ちを煽って盛り上がったところでこっぴどくフレばいいって? アイツがわたしに興味を持ったのはわたしたちを金持ちだと思ったから。つまりその方法じゃ大してダメージを受けない。もっとこう、自分の行いを悔いるようなのはない?」
また読んだなと思ったが、もういちいち気にするものか!
「金か……金持ちの令嬢といい仲になって貴族の婿にでも納まるつもりか? 浅はかだな。おまえが金持ち貴族の令嬢だとしたら、後ろ盾もない庶民なんか親が許すものか。せいぜい手切れ金を掴まされるだけだ」
「わたしのことは小遣い稼ぎくらいにしか考えていない。おまえをわたしの男だと認識していて、浮気をばらすと脅迫し、纏まった金を手に入れようと考えてる」
「おまえの男?……まぁ、そうか。そうだよな、そう思うのが普通だよな」
「これくらいで狼狽えるな。魔物とできてるなんて思われたくないだろうが、わたしを魔物だなんて、普通じゃ見抜けない」
狼狽えたのはそこじゃない、と思ったが、すぐに切り替え、
「そうだな、マデルに相談してみないか?」
と提案したピエッチェだ。どのあたりに狼狽えたと感じたのかをクルテに知られたくなかった。
またもクルテが小首を傾げる。考える時の癖なのか? チラッと見る時は心を読んでいるのだと気が付いているピエッチェだ。
「マデルを経験豊富と見た? マデルは大胆なことを口にするが、仕事熱心なばかりに恋に破れたことがある。それ以来、男に心を許したことはない」
「そうなんだ? でも、色恋沙汰は好きそうだ」
「マデルは恋を諦めてる。傷つくのが怖いんだ。だけど一人は寂しい。他人の話で恋の気分を味わっている。それに……」
「それに?」
「いや、あとは自分で考えろ」
「なんだよ、それ?」
「こと恋愛に関しては鈍感、女心がさっぱり判っていないおまえにマデルの純情を話したら、余計なことを言ってマデルを傷つけそうだから教えない」
人の感情を逆なでするようなことを平気で言うクルテに言われたくないと思うが、確かに女心なんて判りそうもない。だったら下手にマデルの気持ちなんか知らないほうがいいか? でも、マデルの純情? 何を意味するのだろう? 時おりクルテは独特な言い回しをする。
マデルとカッチーが帰ってきたのはもうすぐ夕刻という頃だった。いくらも経たないうちにお茶のルームサービスが運ばれてくる。来たのは例の給仕係だった。
「夕飯は遅めにお願いします」
そう言って代金とチップを渡したのはカッチーだった。
「承知いたしました……あの、お嬢さまのお加減はいかがですか?」
「お嬢さま?」
カッチーが不思議そうな顔で、ソファーに座っているピエッチェとクルテとマデルを見てから答えた。
「心配は不要です――ご苦労さまでした」
ワゴンを部屋の中に引き込むと、給仕係を追い出すように扉を閉めた。
ワゴンを押してソファまで来ると
「あれでよかったですか?」
カッチーがピエッチェに訊いた。笑いながらピエッチェが答える。
「あれでよかったけど、どうして心配いらないって答えたんだい?」
「お嬢さま、って言われて誰のことだ? って思ったけど、あの給仕係が心配するならクルテさんのことだろうなと。だったら、あんまり近づいて欲しくないんで、『おまえは関係ない』って意味を込めてああ言いました」
大したもんだね、とマデルが感心する。
「わたしだったら『お嬢さんって誰の事?』とか言っちゃいそう」
と笑えば、
「あの給仕係を揶揄うって?」
ピエッチェが苦笑する。
「それにしても、わたしらがいない間に何かあったのかい?」
「うん、それがさぁ……」
サロンに行ったこと、この宿の持ち主の娘がサロンで働いていること、そして従業員やサロンの客たちの噂話を聞いたことをピエッチェが話す。実際はクルテが心を読んで判ったことだが、噂話で知ったことにした。
給仕係は娘を騙して宿の権利をどうにかしようとしている。手に入れたら売り払うつもりだ。それを知らない娘は給仕係に夢中だ――娘が妊娠していることは話さなかった。
「おやおやクルテ、貧血かい? だからもっと食べろって言うんだ」
サロンで眩暈を起こして気を失ったと聞いてマデルがクルテに言った。
「そうだね、頑張るよ」
桃とブルーベリーを皿に取り分けながらクルテが苦笑する。
お茶請けにはケーキやサンドイッチのほかにフルーツの盛り合わせがあった。サロンの注文から、フルーツ好きと考えたのかもしれない。他にイチジクとブドウもある。サロンで聞いた時はオレンジとピーチだけと言っていたから、急いで仕入れたのかもしれない。
「しかし……不愉快な話だ」
マデルが苺のケーキを食べながら難しい顔をした。
「その噂が本当なら、あの給仕係がクルテにちょっかい出そうとしてるのもきっと悪巧みだろうね――クルテ、あんた、何か気付いてないのかい?」
「あの給仕係は僕を誘惑して小遣い稼ぎをしようとしてる。巧くいけば、それをネタにピエッチェに浮気をばらすと言って金をせびる気でいるんだよ」
「それだけ聞くと小悪党って感じだけどさ」
「あれ? クルテさん。そんなこと、あの給仕係が白状したんですか?」
カッチーの疑問にマデルが答えた。
「気が付いてないのかい? クルテは魔法使い、少しくらいなら他人の心が読める」
「そうだったんですか?」
「自分に対して、相手がどう考えているかくらいだけどね」
カッチーに微笑むクルテ、『大嘘つきめ』と思うが、もちろんピエッチェが口にすることはない。
「ほかにはどんな魔法が使えるんですか?」
興味津々のカッチーに、
「魔法使いはね、どんな魔法が使えるかなんて話さないんだよ」
マデルが答える。
「どんな魔法が使えるかを知られたら不利になるからね」
そんなものなんですね……カッチーは少し残念そうだ。
カッチーに微笑んでから、マデルがピエッチェに向き直る。
「で、ピエッチェは、気付いたからにはこのまま給仕係を放っておけないって考えているんだね? うん、わたしもそう思う。それになんとなくギュームの身に起きたことが繰り返されているように思えてならない。なんの根拠もないんだけどね」
「やっぱりマデルもそう思う? クルテもそう言ってるんだよ……魔法使いの勘?」
話しの流れに乗るピエッチェ、マデルが、
「それじゃあ作戦を立てようかね?」
ニヤリと笑った。
「唆魔は封印したけど、あの給仕係は封印するわけにもいかない」
と言うクルテ、
「うーーん……」
ピエッチェがつい唸る。
〝ゴルゼのように封印はできない〟という発言は、給仕係がゴルゼと同等の罪を犯したとクルテは感じているってことだ。確かクルテは、ゴルゼがクルテを欲したと言っていた。話しの流れを考えれば、ゴルゼは男、クルテは女? それってきっと……
クルテがピエッチェをチラリと見る。心を読んだらしい。
「そうだよ、秘魔になる前のわたしは女だった。それがどうかした?」
「おまえ、男でも女でもないって言わなかったか?」
「秘魔になったことで性別が無くなった。そう望んだから」
「ゴルゼに襲われて、女でいるのがイヤになった?」
「そうなのかな?……うん、そうだね。男が女に向ける欲望を悍ましく感じたし、恐ろしくもあった。女でなくなれば、二度とこんな思いを味わうこともない。だからって男になるのもイヤだった」
「おまえ、もとは人間だった?」
ピエッチェの質問に、クルテはすぐには答えなかった。少し考えてから、
「ううん、もともと人間じゃない。でもなんだったのかは、今は言えない……ゴルゼは人間だった。きっとそのうち思い出す」
ピエッチェから目を逸らして言った。
また〝思い出す〟か……今度は誰が何を思い出す? 自分が人間だったことをゴルゼが思い出すのか? それとも?
「ゴルゼがもともと人間だったことは判った。そしておまえは人間じゃなかった。でも、なんだったのかは言えない……言えない理由も俺には話せないのか?」
クルテが悲しそうにピエッチェを見る。
「いつか言える時が来るまで何も言えない」
「そのうち思い出すと、おまえは俺に何度も言ってる。おまえは俺に思い出して欲しいんだろう? いったい俺は、何を思い出せばいいんだ? 俺は何を忘れている?」
クルテが小さな溜息を吐く。
「カテロヘブ、思い出せ。それしかわたしには言えない。おまえはわたしやゴルゼを知っているのに、それすら忘れている。忘れている中に、わたしが自分のことを詳しく言えない理由もある」
「だったら思い出すから。もっと何か具体的に――」
「おまえが自分で思い出さなきゃダメなんだ」
クルテが強い口調でピエッチェの言葉を遮った。そしてうっすら笑った。
「もし思い出せなくても問題のないことだ。気にしなくていい。わたしが思い出して欲しいだけだから――それより給仕係をどうするか考えろ」
納得したわけじゃない。けれどこれ以上クルテが教えてくれるとも思えない。思い出すほかないのか……でも何を? それに、問題ないのなら、なぜクルテは繰り返し思い出せと言う?
思い出さなくても俺にはなんの影響もない。だけど思い出せばきっと、それはクルテに有利に働くのだろう。だったら思い出してやる。考え込むピエッチェにクルテが
「気にしなくていいって言ってるのに……」
と呟いてから、威圧的な口調で言った。
「思い出そうとして思い出せるわけじゃない――それより、自分の前に目を向けろ」
「あぁん?」
「フレヴァンスを助け出し、ローシェッタ国王家とつながりを持て。それがザジリレンへの近道。だから今は給仕係だ。ヤツの悪事を暴けば、あるいはギュームの死の謎が解けるかもしれない。ついでにこの街の不自然さにも辿り着くかもしれない」
「おまえ、俺の気を逸らすため、思い付きを言ってないか?」
「ギュームも屋敷を取られていることを忘れた?」
「共通点はそれだけだ。まさかデレドケと同じようなことになってるとでも?」
「デレドケと違って街の土地建物はそれぞれ持ち主が違う。それは金貸しやサロンの客の心を読んで確認している」
いつの間にと思うが、顔が見えていれば勝手に入り込んでくるんだったと思い直して、ピエッチェが舌打ちする。ここはクルテに従うか。クルテの言うとおり、考えたって思い出せそうにない。ならばできることからだ。
「判ったよ……それで? 給仕係を懲らしめるって言ったって、単に痛い思いをさせろってことじゃないんだろう?」
「もちろんだ。自分がしたことの報いだと思い知らせて二度と同じことをする気を起こさせない、そうしなければ意味がない」
「だったら……ヤツが彼女にしたことをヤツにもするか?」
「フン! わたしがヤツの気持ちを煽って盛り上がったところでこっぴどくフレばいいって? アイツがわたしに興味を持ったのはわたしたちを金持ちだと思ったから。つまりその方法じゃ大してダメージを受けない。もっとこう、自分の行いを悔いるようなのはない?」
また読んだなと思ったが、もういちいち気にするものか!
「金か……金持ちの令嬢といい仲になって貴族の婿にでも納まるつもりか? 浅はかだな。おまえが金持ち貴族の令嬢だとしたら、後ろ盾もない庶民なんか親が許すものか。せいぜい手切れ金を掴まされるだけだ」
「わたしのことは小遣い稼ぎくらいにしか考えていない。おまえをわたしの男だと認識していて、浮気をばらすと脅迫し、纏まった金を手に入れようと考えてる」
「おまえの男?……まぁ、そうか。そうだよな、そう思うのが普通だよな」
「これくらいで狼狽えるな。魔物とできてるなんて思われたくないだろうが、わたしを魔物だなんて、普通じゃ見抜けない」
狼狽えたのはそこじゃない、と思ったが、すぐに切り替え、
「そうだな、マデルに相談してみないか?」
と提案したピエッチェだ。どのあたりに狼狽えたと感じたのかをクルテに知られたくなかった。
またもクルテが小首を傾げる。考える時の癖なのか? チラッと見る時は心を読んでいるのだと気が付いているピエッチェだ。
「マデルを経験豊富と見た? マデルは大胆なことを口にするが、仕事熱心なばかりに恋に破れたことがある。それ以来、男に心を許したことはない」
「そうなんだ? でも、色恋沙汰は好きそうだ」
「マデルは恋を諦めてる。傷つくのが怖いんだ。だけど一人は寂しい。他人の話で恋の気分を味わっている。それに……」
「それに?」
「いや、あとは自分で考えろ」
「なんだよ、それ?」
「こと恋愛に関しては鈍感、女心がさっぱり判っていないおまえにマデルの純情を話したら、余計なことを言ってマデルを傷つけそうだから教えない」
人の感情を逆なでするようなことを平気で言うクルテに言われたくないと思うが、確かに女心なんて判りそうもない。だったら下手にマデルの気持ちなんか知らないほうがいいか? でも、マデルの純情? 何を意味するのだろう? 時おりクルテは独特な言い回しをする。
マデルとカッチーが帰ってきたのはもうすぐ夕刻という頃だった。いくらも経たないうちにお茶のルームサービスが運ばれてくる。来たのは例の給仕係だった。
「夕飯は遅めにお願いします」
そう言って代金とチップを渡したのはカッチーだった。
「承知いたしました……あの、お嬢さまのお加減はいかがですか?」
「お嬢さま?」
カッチーが不思議そうな顔で、ソファーに座っているピエッチェとクルテとマデルを見てから答えた。
「心配は不要です――ご苦労さまでした」
ワゴンを部屋の中に引き込むと、給仕係を追い出すように扉を閉めた。
ワゴンを押してソファまで来ると
「あれでよかったですか?」
カッチーがピエッチェに訊いた。笑いながらピエッチェが答える。
「あれでよかったけど、どうして心配いらないって答えたんだい?」
「お嬢さま、って言われて誰のことだ? って思ったけど、あの給仕係が心配するならクルテさんのことだろうなと。だったら、あんまり近づいて欲しくないんで、『おまえは関係ない』って意味を込めてああ言いました」
大したもんだね、とマデルが感心する。
「わたしだったら『お嬢さんって誰の事?』とか言っちゃいそう」
と笑えば、
「あの給仕係を揶揄うって?」
ピエッチェが苦笑する。
「それにしても、わたしらがいない間に何かあったのかい?」
「うん、それがさぁ……」
サロンに行ったこと、この宿の持ち主の娘がサロンで働いていること、そして従業員やサロンの客たちの噂話を聞いたことをピエッチェが話す。実際はクルテが心を読んで判ったことだが、噂話で知ったことにした。
給仕係は娘を騙して宿の権利をどうにかしようとしている。手に入れたら売り払うつもりだ。それを知らない娘は給仕係に夢中だ――娘が妊娠していることは話さなかった。
「おやおやクルテ、貧血かい? だからもっと食べろって言うんだ」
サロンで眩暈を起こして気を失ったと聞いてマデルがクルテに言った。
「そうだね、頑張るよ」
桃とブルーベリーを皿に取り分けながらクルテが苦笑する。
お茶請けにはケーキやサンドイッチのほかにフルーツの盛り合わせがあった。サロンの注文から、フルーツ好きと考えたのかもしれない。他にイチジクとブドウもある。サロンで聞いた時はオレンジとピーチだけと言っていたから、急いで仕入れたのかもしれない。
「しかし……不愉快な話だ」
マデルが苺のケーキを食べながら難しい顔をした。
「その噂が本当なら、あの給仕係がクルテにちょっかい出そうとしてるのもきっと悪巧みだろうね――クルテ、あんた、何か気付いてないのかい?」
「あの給仕係は僕を誘惑して小遣い稼ぎをしようとしてる。巧くいけば、それをネタにピエッチェに浮気をばらすと言って金をせびる気でいるんだよ」
「それだけ聞くと小悪党って感じだけどさ」
「あれ? クルテさん。そんなこと、あの給仕係が白状したんですか?」
カッチーの疑問にマデルが答えた。
「気が付いてないのかい? クルテは魔法使い、少しくらいなら他人の心が読める」
「そうだったんですか?」
「自分に対して、相手がどう考えているかくらいだけどね」
カッチーに微笑むクルテ、『大嘘つきめ』と思うが、もちろんピエッチェが口にすることはない。
「ほかにはどんな魔法が使えるんですか?」
興味津々のカッチーに、
「魔法使いはね、どんな魔法が使えるかなんて話さないんだよ」
マデルが答える。
「どんな魔法が使えるかを知られたら不利になるからね」
そんなものなんですね……カッチーは少し残念そうだ。
カッチーに微笑んでから、マデルがピエッチェに向き直る。
「で、ピエッチェは、気付いたからにはこのまま給仕係を放っておけないって考えているんだね? うん、わたしもそう思う。それになんとなくギュームの身に起きたことが繰り返されているように思えてならない。なんの根拠もないんだけどね」
「やっぱりマデルもそう思う? クルテもそう言ってるんだよ……魔法使いの勘?」
話しの流れに乗るピエッチェ、マデルが、
「それじゃあ作戦を立てようかね?」
ニヤリと笑った。
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